日本人転生者のサキュバスのアマリエッタさんと、2柱の男神



 この部屋って、僕に使える物がドアノブしか無いです。


 そんな部屋で、半年も生活しないといけない事にビックリしながらも、なんか少しだけワクワクしています。


 高校生活もワクワクするんだろうか? なんて考えてるけど、どうなんだろ?


 あんまり期待し過ぎると、ダメだった時の辛さが倍になりそうなので、期待に胸を膨らませつつ、冷静でいようと思います。



  風間拓斗の当時の心の声を一部抜粋




 チラホラと、日本語の会話が聞こえてたけど、大半の人達の言葉が分からない社員食堂から、ボンゴさんと2人で部屋に戻って来た。


「今日の夕方には、シャミィの下請けが来るから、俺は社食に戻るぞ。」


「はい!ありがとうございました。でも、こちらから連絡を取りたい時は、どうすれば良いですか?」


 ニカッと笑顔になったボンゴさん。


「昼間は、冒険者ギルドに常駐してるから尋ねてこい。それじゃな。」


 階段の方に向かいながら左手を上げて歩いて行った、あんな挨拶の仕方ってカッコイイよな。


 そんな事を考えてた。


「夢じゃないんだよな……。どんな人が来るんだろう? 怖い人じゃ無なければ良いけどな。」


 とりあえず、カーテンを開けてみよう……


「うわあ……凄い景色。」


 6階って言われてたけど、高い建物が他に無いから、遠くまで見える……


「冒険者になるのか、この街で……」


 ぼーっとしながら冒険者ってどんな感じで生きて行くのか考えてた。


 なんも分からないや。


 チート能力一覧の載ってる冊子を貰ったから、能力も選ばないとな。


「戦闘に関する魔法系チート……。」


 凄い! 無詠唱連続魔法とか、広範囲殲滅魔法とか、魔法系のチート能力ってカッコイイ……。


「うわ、魔法系チートって、習得するのに対応する仕事の経験が必要とか……仕事の経験?無いよそんなの。」


 回復魔法だと医療に関する職業の経験、火魔法だと熱処理や火を扱う職業の経験……。


「中学生に仕事の経験なんてある訳ないだろ……。」


 物理のチート能力一覧も見てみた……。


 剣のチートだと剣道やフェンシングの経験とか、槍だと薙刀や槍の経験……

 弓だと弓道の経験……


「運動すらろくに出来ない僕が貰えるチート能力って……無いじゃん。」


 最後のページを見たら、チート能力1つにつき、帰還条件に必要なポイントが倍増して行くって書いてあった。


「1つチートを貰うと、帰るのが大変になるなら、要らないかな。」


 出来れば早く日本に帰りたいし。



 椅子に座って外を見ながら、そんな事を考えてたら、チャイムが鳴った、インターホン付いてるんだ……


「は〜い、少しお待ちを。」


 どんな人が来たのか……怖いな……。




 ドアを開けたら……そこに大きなオッパイがありました。


「こんばんは、君が風間君? シャミィからお願いされて、護衛を務める事になりました、アマリエッタです。よろしくね♡」


 凄い美人さんだ、スタイルも凄い。


「風間拓斗です。よろしくお願いします。」


 口元にホクロがあって、紅いプルプルの唇が凄く色っぽい。


「うん、元気があってよろしい。中に入って良いかな♡」


「どうぞ! 」


 護衛って事は、半年一緒に暮らすんだよな……。


「惚れちゃダメよ、私って旦那様が居るんだからね♡」


 見てるだけで十分です!




 アマリエッタと名乗った女性は、サキュバスに転生した日本人女性らしい。


「ボンゴやシャミィと同じパーティーに所属してるの、近接魔法アタッカーとバッファー・デバッファーを兼任してるわ。同じパーティーに、もう1人居るんだけど、私だけ2級探索者なの。他の3人は1級ね。」


 え? 戦闘職なの? 髪を掻き上げる仕草が凄く色っぽい……。


「旦那さんって怒らないんですか?僕と半年も一緒に暮らす事を。」


「そこは大丈夫。だって、たっくんって好みじゃ無いから。私の好みは、渋いおじ様だもん♡」


 それなら良かった……のかな?

でも、こんな綺麗な女性に、たっくんって呼ばれるなんて……


 少しだけ息切れして来た。軽く目眩もする。


「あっ。今日は家財道具の効果をオフにしとかなきゃね。明日から、少しずつ鍛えて行きましょ。今日は、もう眠りなさい♡」


 紫色の瞳を見てたら急に眠くなって来た。

サキュバス……バッファー……探索者……。

眠りに落ちる直前に。


「大丈夫、日本人は皆が貴方の味方よ。」


 って聞こえた気がした。




「おはよう、たっくん。やっぱり障害を持つからかしら? 朝の生理現象あさだちも殆ど大きくならないのね。」


 誰だろこの声……。朝の生理現象あさだち? え〜と……!!


「おはようございます! って何してるんですか!」


 僕がかぶってる毛布を、下半身だけ出してめくってるアマリエッタさん……。


「朝のチェック♡ だって私ってサキュバスなんだよ。吸いたいじゃない、若い子の性欲って♡」


「吸うですか? 吸われたら干からびるとかですか?」


 服の胸元から谷間が見えてエッチだ……。


「う〜ん……健康になってから吸わせて貰おうかな。今の状態だと、体力ごと吸っちゃって弱りそうだし♡」


 健康になるなら吸われても良いかも……。




 洗面台で顔を洗うのも歯を磨くのも、水を出すのに魔力が必要らしくて、アマリエッタさんが手伝ってくれた、なんか申し訳ない。


「水道も魔力が無いと使えないんですね、僕に魔力なんてあるんでしょうか?」


 あるなら少しだけ使ってみたいな、魔法って奴を。


「生活に必要な魔力は、後で転生する時に貰えるわよ。細かい制御なんて簡単だから教えてあげるね♡」


 簡単に使えるのか……やっほう!魔法使いになれそうだ。


「食が細そうだったから、一口サイズのサンドイッチとスープを貰ってきたわ、朝ごはんを食べて説明会に向かいましょ。」


「お手数をお掛けして申し訳ないです。」


 テーブルの上にサンドイッチとカップに入った湯気が出てるスープが置いてあった。


 食べててる所をずっと見られてて、少しだけ恥ずかしかった。




 ガム・ダンジョンタウン移住者説明会・会場って書いてある看板が立ってる部屋の前までアマリエッタさんが着いて来てくれたけど。


「ここからは、私が入ったら問題になるから、たっくん1人でね。入ってすぐの列が日本から来た冒険者候補の席だから、他の人と顔を合わせないように、すぐに座って前を向くのよ。」


 入ってすぐの列、他の人と顔を合わせない……


「はい。でも、終わったらどうすれば良いですか?」


「出口で待っておくから、心配しないでね♡」


 じゃって言われて、アマリエッタさんと別れて、ドアを開けて中に入った。


「なんだ、誰もいないのか。」


 凄く広い部屋に、沢山の椅子が並んでる。

学校の体育館くらいの広さかな?バスケットコート2枚分くらいかな。


 入ってすぐの列の1番前に座って教卓のような机を見てたら……。


「さっさと入れカスども。モタモタしてんじゃねえよ。」


 黒髪の長髪の背の高いイケメンさんが罵声を浴びせながら、沢山の人を連れてきた。


「そこのチビ、こっち見んな。お前には関係ねえ奴らだからな。」


 こっちを見てなかったはずなのに、いきなり怒られた。

ビックリしたけど前を向いてたら、それきり声を掛けられる事もなかった。



 座ってから30分くらい経ったかなってくらいで、僕と同じドアを開けて、短髪の爽やかなイケメンさんが入って来た。


「静かにしろ〜。説明会を始めるぞ〜。」


 ずっと左後ろの方からガヤガヤ聞こえてたけど、短髪イケメンさんが、始めるって言った瞬間に全員が無言になった。


「お前達の命は銅貨より軽い。忘れんな、この世界で何かしてみろ、次は1つ下の階層に落としてやる。」


 後ろの方からヤジが飛んだ瞬間に、短髪イケメンさんが細めてた目が開いて、後ろで悲鳴が上がった。


「はい、お前死刑。3階層行き確定な。」


 何があったのか見たら、顔に傷のあるいかつい白人さんが、長髪イケメンさんの持ってる大鎌で、首を切り落とされて、黒い何かに飲み込まれていく所だった。


「そこのチビ、見んなって言ってんだろ?聞こえなかったか?」


 うわ、ごめんなさい。


「ロキ、そいつは冒険者候補だ、お前でも何かやれば処されるぞ。」


「ほいほい、全くよ。処すって言うなら、それはそれで面白いから構わんけどな。」


 それからは、ひたすらお前達はクズだ、クソだ、人間として生きる価値が無い、とかの暴言が続いてたけど、最後の話が印象に残った。


「これは1つの例だがな、自転車の二人乗りは違法だろ?でもこの世界じゃ違法どころか、誰も文句は言わん。よそ見運転だろうが、咥えタバコのポイ捨てだろうが誰も文句は言わん。それは地球にある国の法律だ。そんなもの異世界ガムじゃ何の関係も無い。」


 ふむふむ……


「ただな、自転車二人乗りして、ふらついて誰かに怪我させたら死刑。余所見して、何かにぶつかって壊したら死刑。ポイ捨てして、誰かが火傷したら死刑。基本的に刑罰は全て死刑だ。減刑とか人権とか無いからな。」


 …………


「今日ここに居る、殆どの奴が贖罪中だ。贖罪中に何かやったら即死刑な。ここに来る直前に居た階層の1つ下に叩き落としてやる。覚悟しとけ。」


 厳しいのかな?わかんないや。


「冒険者候補、お前はここから別室だ、前のドアから隣の部屋に行け。」


 そう言われたら、目の前の何も無かった場所にドアが現れてた。


「はい。」


 椅子から立ち上がり、目の前のドアをくぐる時に後ろの方で、お前達は異世界ガムでの一生で1度も罪を重ねなければ、輪廻の輪に戻してやるって聞こえてた。



 隣の部屋は、白い小さな会議室みたいな部屋だった。


「また椅子と机……。あと、これは何だろ?」


 ボンゴさんと入った除菌室みたいなのが設置してあって、他は机と椅子しか無い。


「さっきは脅かしてすまんな、地獄の亡者達に甘い顔を見せると、すぐに付け上がるんだ。」


 僕が入って来たドアを開けて長髪のイケメンさんが部屋に入って来た。


「いえ大丈夫です。あんまり怒られてる気はしなかったので。」


 怒られてるってより注意されてるって感じしかしなかった。


「ん、そうか。そう言ってくれると助かる。さすがに創造神を相手に喧嘩するのは、俺でも骨が折れるからな。」


 机の隣に立って僕を見ながら、悲しそうな顔になった長髪イケメンさんの瞳孔が3つに別れてた。


「あっちの部屋の地獄の亡者共と違って、お前が今まで、されて嫌だった事を他人にやらなきゃ、誰もお前の事を罪に問わない。それは終焉を司る神である俺、ロキが保証する。」


 ロキ……ってイタズラの神様じゃなかったっけ?


「日本人には戯神ロキの方がわかりやすいと思うが、本来なら俺がつかさどる物は終焉だ。たとえ神であろうとアダマスの鎌で切り落とせば、そこからを断ち切って終わらせる事が出来る。運命さえもな。」


 ふむふむ。


「そんな事はどうでもいい。それよりだ、お前の頭に、この世界の言語を詰め込む。望む能力を与える。支給品を渡す。体を正常な状態に戻す。この4つを今から行う。」


 本当に僕が健康になれるんだろうか?


「先天性の疾患、後天的な欠損、現在進行形での疾患、左目の上の火傷の痕も含めて全部治してやる。言語を覚えるのは簡単だ、このビー玉を受け取れ。」


 ラムネの瓶の中に入ってるくらいの2色の色が入ってるビー玉を渡された。

右手に受け取った瞬間、掌に吸い込まれるように消えて行った。


「それはスキルオーブって奴だ、ダンジョンでドロップしたり宝箱から入手したり出来るから覚えとけ。」


 おお!スキルオーブか。しかもダンジョンで入手出来るとか凄い。


「今回のは使う意思が無くても、知らない奴には、勝手に付与が発動する物だったから、すぐに融合したが、普通のオーブは使うと言う意思が無い限り付与が発動する事は無い。」


 覚えました。メモしなくても覚えました!


「今のはガム全種族共用語の言語理解と文字理解が付与されている、日本語と同レベルで使いこなせるからな。」


 なるほど、共用語なら誰とでも話せるし文字も理解出来るって事だな。


「日本語やガム共用語は勝手に切り替わるから普段は意識しなくても大丈夫だ。」


 凄く使い勝手の良いスキルだな。


「チートは何が欲しいか?決めてあるか?」


「チート能力は不必要です。出来る限り日本に早く帰りたいので。」


 長髪イケメンのロキ様が、少しだけ驚いた表情になった。

たぶん僕の事が書いてある書類を読んでると思うんだけど、書類を読みながら何かを考えてる。


「チート1つすら無いと、人間はゴブリンすら倒せんぞ。お前の詳細を見たら、経験が足りてないからチートはやれんが、俺から1つスキルをやる、有益なスキルだ使っとけ。」


 そう言われて1つビー玉を渡された。

中に紫のモヤが入ってる奴だった。


「今すぐ使っとけ、怪しいもんじゃ無いさ。さっき脅かした詫びだ。握って使うって考えろ。」


 言われたように、握って使うって思ったら掌に溶けて入って来た。


「動体視力向上・小と反射能力向上・小のスキルだ。鍛えれば中くらいまでは進化するはずだ。」


 目が良くなるのと、反射神経が良くなるスキルか。


「基礎能力向上系のスキルオーブは希少だから、最初のうちは誰にも言うなよ。」


「ありがとうございます。」


 ニコッと笑ったロキ様が、除菌室みたいなのを指さして。


「あれに入れ。服はパンツも脱いでな。支給品の説明は体を治してからにする。早く健康体になれ。」


 やっぱり夢なのかな、ほんとに治るんだろうか?そんな事を考えながら除菌室みたいなのに入ったら……


「ポチッとな。」


 それはダメな合図!!

と思ったら、目眩がして気を失った。



 風間拓斗が転生ボックスの中で、体を惑星パンツ圏の人間の物に作り替えられている途中、隣の部屋から冥王ハーデスが地獄の亡者達への説明会を終わらせて移動してきた。


「ルミナスとアマテラスの2柱が、またやらかしたらしいな……全くあの二人は。」


「ああ、しかし今回のは前回のより酷いな、現状が悲惨すぎる。」


 作り替えられている最中の少年を見ながら悲惨と言う戯神ロキ。


日本むこうに帰ってから発動するスキルを2つ与えておいた。偶然の産物と良き出会い、どちらも中だがな。」

 

「それくらいの優遇なら、これから起こる事を考えたら妥当だろう。」


 2柱の男神がニヤりと顔を歪める。


「ニノにバレたら、俺達までドヤされるな……。」


「なに、飯でも奢ってやったら機嫌も治るさ。気にするな。」


 いずれ正式な冒険者になったらチャンネル登録してやるからな。


 2柱の神は、そんな約束を体が正常な物に作り替えられている最中の少年にしていた。


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