日本人転生者のオークのボンゴさんと日本人転生者のアマゾネスのシャミイさん



 夢の始まりは突然だったけど、リアル過ぎて夢に思えない。


 目の前を歩く、背が高くて横にも大きい、豚の顔をしたボンゴさんを見てると、ちゃんと生き物に見えるし。


 さっき出て行った、シャミイさんと言う女の人は、ボンゴさんより背が高くて、凄い筋肉質だったけど、ちゃんと女の人だったし。


 僕の体も健康な物になるって言われた。


 どうせなら、父さんと母さんが健康になれたら良いのにな。


 そんな事を考えてた。



  当時の風間拓斗の心の声を一部抜粋





 ボンゴさんに連れられて、階段で1つ下の階に降りる途中に、踊り場に据え付けられた小さいボックスに、ボンゴさんと2人で入った。


地球むこうの病原菌を持ち込まないようにな。このボックスは、体を異世界こっち仕様に作り替える前の、準備みたいなもんだ。まあ除菌室ってやつだな。」


 作り替える?えーと……


「作り替えるっていったい?今のままじゃ無いんですか?」


 じわっとして、頭からつま先まで、お風呂に入ってるみたいな感覚になった。


「俺もお前も日本語を喋ってるだろ? まず最初に、現地語に対応出来るように脳を弄られる、次に異世界こっちで活動出来るように体を作り替えられるんだ。」


 ボックスから出て階段を下りながら、ボンゴさんが僕の肩を支えてくれてる。


「お前の場合は転移者だからな、大きく今と変わることは無いさ、転生してもな。」


 左足の指が2本しか無いから、階段の昇り降りは苦手なんだ、すごく有難い。


「望めばチート能力だって、ある程度貰えるからな。後で一覧を渡すから明日の朝までに決めておけよ。」


 チート能力……。念糸棍(*2)が良いな。


「ここが異世界ガムの中心地で、最も重要な建物、パンツノスカイツリー6階、研修者居住階だ。お前の部屋は、そこから2つ先の603号室だ。」


 階段を降りてすぐの部屋か。

あんまり歩かなくて済むから有難いな。


「1人暮しなんでしょうか?相部屋なんでしょうか?」


「本来なら護衛と一緒に半年過ごすんだけどな、シャミイの奴が下請け見付けて来るまで一人暮らしだと思うぞ。」


 ドアを開けながらボンゴさんが教えてくれた事、女の人と二人暮しとか……無理だし。


「シャミイを女と思うなよ、あいつの中身は男だからな。俺と反対で、元は男だったのが女に性転換した口だ。」


 なんですと? 確かに筋肉質だったけど、女性にしか見えなかったよ。


「冒険者になって背負う条件を達成した後にな、与えられる特典ってのは、DNAレベルで性転換すら可能なんだよ。だからシャミイは子供も産める、俺は種付け出来る。凄いだろ?」


「凄いです、僕も何か貰えるんでしょうか?」


 少しだけ悲しそうな顔をしたボンゴさん。


「俺とシャミイは転生者だからな。お前は転移者だから、日本に帰って、あっちで生活する時に違和感の無い物しか無理かもな。そこは転移者で探索者になった奴が少なくて、俺も初めて担当するから全くわからん。」



 靴は脱ぐタイプの部屋だった、靴のまま生活するタイプの方が良かったな……。


「体の欠損部位なんて、明日には元通りになるさ、気にせず靴なんか脱げ。」


「はい! 」


 ホントに治るっぽい! でも僕だけ……。




 個室って言っても6畳と8畳の2部屋、それぞれに押し入れが1つずつ。

トイレは付いてるけど、お風呂は付いてない。


「ここで一人暮らしなんですか?」


「6畳の部屋が、お前の使える部屋だ。8畳の方は、護衛が使う部屋だな。」


 護衛の方が広いのか。


「護衛ってな、依頼されるのは基本的に探索者なんだよ、体がデカい奴が多いからな、俺とかシャミイみたいによ。6畳じゃ寝転んで体を伸ばしたら、つっかえるんだ。」


 確かに、ボンゴさんって身長190cmくらいは有りそうだもんな。


「お前の部屋になる方は、色々と家具が揃ってるから説明するぞ。」


「はい! お願いします。」


「ベッドやカーペットですら魔道具だ。常に清潔な状態を保ってくれてると言いたいが、真逆だ。常に、毒や状態異常を付与してくる。」


 え?


「電化製品に見える、蛍光灯、掃除機、テレビ、タブレットなんかは、魔力を注がないと動きすらしない。」


 魔力?


「そして極めつけは、タンスだ。最低でも握力が80kg無いと、引き出しの取手に付いてる鍵すら外せない。」


「あの〜、それって僕に出来ますか?」


 ボンゴさんが、大きく首を横に振りながら。


「今の状態じゃ無理だな。本来ならシャミイが手伝うんだけどな。まっ、今日は俺が対応してやるさ。」


 明日からどうすれば良いんだろう?


「とりあえず飯食いに行くか、もう昼を回ってるぞ。パンツノスカイツリーここの社食の料理は、見た目が安っぽいクセに美味いんだ。」


 言われてみたらお腹が減った気がする、胃の痛みが無くなったからかな?


「社食ですか?社食って社員食堂?」


「そうだよ、この建物は毎日1万近い奴が働いてるからな。社食も和・洋・中どころか、どこの世界の料理だよ?っての迄揃ってるぜ。」


 うわ、なんか楽しみ。でも沢山の人が居るんだろうな。


「今のお前を見て、励ましてくれたり、応援してくれたりする奴は居るが、けなす奴は1人も居ないさ……」


そう言って玄関に向かうボンゴさん、オークでひづめが付いてるのに、ちゃんと靴を履いてる。


「そう言う場所だパンツノスカイツリーここだけはな。」


 ここだけって言葉がすごく違和感があった。



 食堂まではエレベーターで降りてきた、どうやら2階にあるようだ。

エレベーターを動かす時に、ボンゴさんがボタンを指で押し続けてた。

 魔力を指先から流し続けないと止まるんだそうだ。


 エレベーターを降りたら、すごく広いフロアで、多種多様な生き物が食事中だったけど……。


「やっと来たボンゴ、ちっこいの! こっちだこっちだ。」


 お酒コーナーの近くのテーブルに、シャミイさんが居た。

大きなジョッキでビールを飲んでる……。


「風間、好きな食べ物を貰ってこい、何を食べても栄養の偏りなんか無いからな、そう言う食い物くいもんだ、社食ここの食事は。」


「はい!」


 ボンゴさんの言ってる意味は分からなかったけど、返事はしておいた。



 色んなメニューがあって、他にも色んな食べ物がバイキング形式で置いてあったけど、月見うどん小と親子丼の小を注文して来た。


 小さい札を渡されて、出来たら席に運んでくれると言われてボンゴさんと、シャミイさんが座ってる4人がけのテーブル席に来た。


「うしゃしゃ、ちびっ子。いい下請け見つけたぜ、明日紹介してやるからな。」


「適任そうだから文句は言わんが、無理矢理じゃ無いだろうな?」


 シャミイさんが持ってる、2ℓくらい入りそうなジョッキと同じ大きさのジョッキを持って、ボンゴさんが微笑みながらビールを飲んでる。

 ジョッキじゃなくてピッチャーって言う物だって、再注文する時に知った。


 下請けってどんな人が来るんだろ?怖くないと良いな……。


「あっ、お金はどうすれば良いんですか?僕は全く持ってないんですけど。」


社食ここの食事は俺たち探索者や、日本から来てる冒険者なんかはタダだ。働き出してから、どうしても食えない時はここに来い。」


「タダって言っても、現地人にここの飯を食わせたらダメだからな。食わせたらくたばるぞ。」


「「現地人がな。」」


 え?食わせたら死ぬ?なにそれ……。


「そこら辺の説明も明日ある、今日は雰囲気を味わうだけだから気負うな。」


「はい。分かりました。」


 ん、いい返事だって言いながらビールをがぶがぶ飲んでる2人。

 ボンゴさんは、どっから取り出したか分からない、焼いてあるドングリを片手で器用に剥きながら。

 シャミイさんは両手にジョッキを持って交互に。


 飲む速さが異常だ。スポーツドリンクですか?




 うどんと親子丼が運ばれて来て、頂きますと言ってから食べ始めたら。


「少食だな。中三男子なら、もっと米を食え米を。」


「米は飲み物だぞ。と言ってもまだ今は無理だな。明日からは飲めよ。」


 米って飲み物なの?違うと思います。


「そのまま食ってて良いから聞け。ちゃんと自己紹介しとく。」


 だな、ってシャミイさんも頷いてる。それにしても美味しいな、このうどん。


「俺は、1級探索者でランキング一位の探索者パーティー【神殺しの刃】のリーダーで、タンク兼アタッカーをしているオーク族のボンゴだ。普段は冒険者ギルドの受付で昼から酒を飲んでる。日本人転生者だ。」


 探索者とか冒険者とかなんなんだろ?違うのかな?


「アタイは、ボンゴと同じパーティーに所属してる1級探索者で、ヒーラー兼アタッカーのアマゾネスのシャミイだよ。ギルドの受付でボンゴの隣に座って、昼から酒を飲んでるのも同じ。日本人転生者ってのも同じな。」


「探索者と冒険者って違うんですか?」


「明日詳細は聞けるが、先に話しておく。冒険者ってのはな、日本に帰還する条件や、自由を勝ち取れる条件を満たしてない転生者や転移者だ。探索者ってのは満たした奴な。」


「ちびっ子の場合は、帰還条件を達成すれば探索者になれるぞ。まあ殆どの転移者が帰還条件を達成したら日本に帰るんだけどな。」


「風間……、風間拓斗です。ちびっ子じゃありません。」


 うつむきながらだったけど、ちゃんと言わないと。


「ん、そうか。拓斗って呼ぶな、まだ名前を聞いてなかったからよ、嫌だったんなら謝る、すまん。」


 顔を上げたらシャミイさんが机に突っ伏してた。


「自己紹介が遅れたのは僕が悪いです。謝らないで欲しいです。ごめんなさい。」


 シャミイさんが頭を上げて少しだけさっきより笑顔になってる……。

鋭い目付きとキリッとした口元のせいで怖そうな人に見えるけど、笑顔になったら綺麗な女の人だった。


「なあ拓斗、コイツの中身は男だからな、しかも男が好きな男だからな、気を付けろよ。」


 なんですと! めちゃくちゃ危険だ。


「アタイの好みの男は、アタイ並にキレてるマッチョで、だらしなかったり、馬鹿だったり、クズだったりな男だから、拓斗は守備範囲外だよ。」


 なんですかその好みの男性像は……。


「コイツな、クズなマッチョのチ〇ポコをイボ付き軍手付けて、しごいてしごいて、しごきまくって流血させるのが趣味なんだ。」


「そんな事言ってるボンゴだって、クズなムキムキマッチョのケツを、破壊力抜群のオークチ〇ポで掘りまくって、括約筋破壊するのが趣味だろ?う〇こが出るのを止められなくしてやるのがな。」


 怖いよ、この2人……。と言うかモ〇ハンの部位破壊みたくカッコよく言った!


「「拓斗は、好みじゃ無いから大丈夫。」」


 2人同時に好みじゃないって言ってくれたけど、やっぱり怖いです。





 3人が食堂で、遅めの昼食を食べている時間、7階にある経営者会議室。


「ニノさん、何を嬉しそうな顔をしてるんですか?」


「マルトさん、嬉しいなんてもんじゃ無いですよ。今日転移してきた少年の詳細を見てください。」


 2柱の女神が座るパイプ椅子、その前に据えられた長机の先に、同じくパイプ椅子に座りながら2柱の男神が用意された資料に目を通す。


「ニノさんが好きそうな感じの、成長が望める若い子ですねえ。」


「それだけじゃ無いですよ、性格も好みも大好物です。特に3ページ目を見てください。」


 3ページ目は転生者が、どんな武器に適正があり、どんな強者に憧れるかが詳細に書いてある。


「棍や槍に適正があって、鉄拳チ〇ミの主人公のライバルキャラのシーファンや盲目の棍使いリキに憧れるですか、これがなにか?」


 読んだ項目の意味が分かってない、マルトと呼ばれた顔が兎で体は人間の神。


「令和2年の3月の時点で15歳ですよ、それなのに、私が小学生の頃から読んでた鉄拳チ〇ミ好きなんて、しかも初期の念糸棍や、盲目の棍使いに憧れてるなんて、渋いじゃないですか。」


 日焼けした40過ぎの日本人のおっさんに見える神が、機嫌が良さそうな声で話している。


(お姉ちゃん、なんとか許して貰えそうよ)

(ツクヨミ、今は念話すらダメよ)


 念話で会話する2柱の女神、しかし念話すら気付かれている。


「そこの駄女神、次はないからな。下手に出てれば、やりたい放題やりやがって。」


 焦り出す2柱の女神。


 2柱の女神の目の前に居る2柱の男神は、天照や月詠のような、1つの星に多数存在する星神より数段も格上な、多数の星々を含む、銀河を丸ごとひとつ守護する創造神と主神。


「この子なんて、死ぬ予定じゃ無かっただろ? 雷の余波を受けるが、それで先天性の疾患が何故か回復して、普通に近い生活に戻れてたはずだ。」


「全く、私の目を誤魔化せると思ってらっしゃったみたいですな。見ることに掛けては御二方よりはるか上の能力持ちだと言うのに。」


 2柱の女神には辛い沈黙が少しだけ流れた。


「ルミナス様、アマテラス様。先日の集団転生の時のペナルティも、まだ完全に済んでないのですからね、そこだけは、お忘れなく。」


「同じ日本神にほんじんである私も、これ以上はかばえませんよ。どうしてもルールを守って頂けないなら、役員交代もありますからね。」


 後光を消して2柱の男神が会議室を後にする。


「お姉ちゃん、今回選んだ子って死ぬ予定じゃなかったの?」


「うん、でもニノなら好きかな?って思ったから、現に注意だけで済んだしょ?」


 ルミナスが首を横に振りながら姉の言葉に答え返す。


「あれは注意じゃなくて最終勧告よ、これだから、バイトすらしない引きこもりは!」


 2柱の女神が軽い喧嘩を始めようとした時、会議室のドアが開く。開けたのは兎顔の男神。


「喧嘩とかしないで下さいね、ロキ様のお世話になりたいですか?」


 その質問に2柱の女神は答える事が出来なかった。

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