最高神と薄毛のおっさんと風間拓斗とゴブリンさん
父さん、母さん、料理が得意な妹。
僕は
怒ったせいで神様に掴みかかってしまいましたが、なんとかなりそうです。
神様が言っていた、“優遇も差別と同じ”と言う言葉の意味を考えています。
武本さんから言われた事を、真剣に考えてみようかと今は思っています。
風間拓斗の日記より一部抜粋
師匠の家で朝練の後に、いつもより少し早い朝食を食べてる。
朝練に参加したガオパさん一家と。
「ガオパさん達は、元はどんな種族だったんですか?」
ゴブリンさん達の殆どが、
「私達一家は、火山地帯に住む
師匠も黙ってるから、ガオパさんの話を聞いているのかと思ったら、茶碗を手に持ったまま寝てた。
アマリエッタさんが抱き上げて寝室に運んで行った。
変な抱き方をして運ぼうとしてるけど、師匠の顔がアマリエッタさんの大きな胸にうまってる……
幸せそうだなあ、と見てたら
「父は火山地帯の守護者で、付近一帯の秩序を保つ役目を太古の神より与えられ、昔は火の精霊とも崇められていたのですよ。」
結局リリカさんだけじゃなくて、入門したガオパさん一家も朝練に参加したんだ、もっと強くなりたいらしい。
「神様的な感じだったんですか?」
どんな罪を背負ってるんだろ?
「まだパンツノ惑星が、惑星パンツと呼ばれていた頃に、人種類が入植してくるまではそうでした。」
「他の惑星から、保護されて入植してきた人類種が、魔石を掘る為に山を切り崩し始めるまで、平和だったんですよ、長い間。」
「良質な火の魔力が漂う火山地帯だったのが災いしたんでしょうね、そこら中に火属性の魔力の結晶化したものが埋まってましてね、それに目を付けた人類種が、魔石を掘り始めて、少しずつ少しずつ山の生態系を狂わせて行ったんです。」
ああ、オーストラリア大陸とかニュージーランドとかの固有種みたいにか……。
「私達、火蜥蜴一家は戦いましたよ人類種と。」
いつも優しい目つきのガオパさんの目が細く鋭い物になって行く。
「私達のような精霊種は、殆ど数が増えません。そんな中で少しずつ数を減らして行ったんです、人類種に狩られて。」
ごめんなさいガオパさん。不躾な質問をしてしまって。
「悔しかったです。私達が元々住んで居た火山地帯は、争いなんて殆ど無い地域だったので、戦う術を知らない魔物や動物達が人類種にどんどん殺されて、体内の魔石を奪われて行くんです。」
ごめんなさいラオパさん、嫌な記憶を思い出させてしまって。
「だから私達親子は戦いました、戦って沢山の人類種を殺してしまったんです、食べることも無い命を奪ってしまったんです。」
ごめんなさいマオパさん、辛かった思い出をほじくり返して。
「それで地獄に落ちたんです、沢山の命を奪ったから。」
悲しい顔をさせてごめんなさいリリカさん。
「でも最後には私達親子全員が、人類種の冒険者と言う者達に倒されてしまいましてね、魔石を奪い尽くされ山は火を吹くのをやめました。住んで居た生き物達は、掘り起こされ奪われた魔力の結晶から発せられる魔力を食べなければ生きて行けませんでしたから……。」
悪いのは人類じゃないか……
「皆、死んでしまったんでしょうね……。」
なんだよそれ…………。
「私達が現世に戻れたら、もう一度火蜥蜴に産まれるつもりです。」
え?なんでまた?
「ダンジョンモンスターとして戦った経験を生かして、次は誰にも奪わせないつもりなので。」
ガオパさんの表情が何時もの穏やかなものに戻っていた。
「だから人類種の戦い方を学ばないとなんです。」
マオパさんもラオパさんもリリカさんも。
「そしてまた、山の皆で、のんべだらりと楽しく暮らすんです。」
「凄い目標ですね、出来るだけ……出来るだけ僕もお手伝いします。」
決めた、ガオパさん一家を対人類最強のゴブリン一家に育て上げよう。
もちろん師匠に頼んで。
ゴブリンさん一家とギルドの入口の所で別れて、俺は冒険者ギルドのロビーに来たんだけど、何故かシャミイさんが普通の格好をしてる。
「やっと来たゴブタク、食堂探しても居なかったから焦ったぜ。」
「どうしたんです?正装ですよねそれ?」
探索者が正式な行事で着る、儀礼服を着込んでるシャミイさん。
「呼び出し食らったんだよ、アンタの付き添いでね。さっさと準備しな!」
「呼び出し?なんですかそれ?」
何も悪い事なんてしてないよね?
「アタイが知るわけ無いだろ、星神から直接の呼び出しなんて、アンタ何したんだい?」
さあ?
「わかんないです。とりあえず行きましょうか。」
ガッチリとシャミイさんに、腕を背中に回してホールドされて、パンツノスカイツリーの経営者階層まで連行された。
握力が強過ぎますシャミイさん。
シャミイさんに連れられて、パンツノスカイツリーの7階まで来たんだけど。
「アタイはここまでだよ。失礼な事をするんじゃ無いよ、やれば一瞬で地獄行きだからね。」
最高経営責任者室って書いてあるドアの前でシャミイさんに放置された。
どうすれば良いんだろ? と思っていたら、ドアが空いて顔をパンパンに腫らした太陽神アポロ様が。
「やあタクタク、入って来てよ。」
リアクションも殆ど取らずに部屋の中に入れてくれた。
中に入ったら、面談の時に居た日本人ぽいおじさん2人と、髭もじゃな白人さんがこっちを見てた。
「失礼します、風間拓斗です。」
ちゃんと挨拶くらいはしないとね。
挨拶したら、髭もじゃな白人さんが立ち上がってこっちに来た。
「うちの
いきなり謝られた……なにこれ?
「自己紹介しておく、オリュンポスの主神でゼウスだ。そこの
「えーと、謝られるような事なんて何もされてないですけど。」
「今の状態で、何かのきっかけがあれば、息子の渡した加護が発動する。魂の許容量が育っていない状態で発動すれば君の魂は崩壊してしまうんだよ。報告を受けたので大急ぎで
そんな危ない物をくれたんですか? アポロ様……
「加護を吸い出して、祝福に替えさせよう。アポロ、さっさとやれ。」
CMで見たような掃除機を向けられて体の中から何かが抜けていった、そして。
鼻血が垂れてるアポロ様の眉毛が光ったと思ったら、赤いモヤモヤしたのが僕に降り注いだ。
「ギルドカードを確認してみてくれ。」
首に下げてるギルドカードの裏面を見たら……
“太陽と陽気な神アポロの面白おかしい祝福”
少しだけ攻撃的になる。
植物を素材とした物に炎の加護を与える。
使用可能レベル10
と書いてあった、やった! チートゲットだ。
「私もチャンネル登録しておくよ、君と同じで女性のオッパイも、お尻も好きだからね。楽しい動画を待っている。」
豪快に笑いながら、アポロ様と一緒に部屋から出ていったゼウス様。
笑い方がアポロ様と同じだったから、親子なんだなあと思ってしまった。
そんな事を考えてたら。
「風間拓斗さん、お座り下さい。」
主神の1人で髪の薄い神様に指示されたから、置いてあったパイプ椅子に座った。
「昨日の今日で願い事が決まったとは思えないけど、何か願う事は見つかりましたか?」
もう1人の最高神様に聞かれたんだ。
「質問をしていいですか?」
「もちろん。答えられる事は全部隠さず答えますよ。」
それなら。
「なんで、ダンジョンモンスターさん達はガムで贖罪を受けてるんですか?どんなモンスターさん達に聞いても悪いのは人類種じゃないですか。」
髪の薄い主神さんが少しだけ困った顔になってる。
「そういう決まりなんだよ、命を奪う行為に命を育む行為が重なってない限り、罪に問われる。そういう世界の決まり事なんだよ。」
なんだろ、決まり事? そんなの変えちゃえば……
「それなら、僕が願う願い事は、平和に生きてる生き物が突然割り込んできた生き物に、生きる場所を奪われない、平和な世界を作って欲しいです。」
「それは、君自身に適用される願いじゃ無いから、叶える事は出来ない。」
表情も変えずにあっさりと断られた……
ふつふつふつふつと怒りが湧いてくる。
「アンタは神様なんだろ?偉い神様なんだろ! なんで出来ないんだよ。見た目通りただのおっさんか!」
なんか腹が立つ。なんかムカつく。なんで出来ないんだよ!
そんな事を考えながら、いつの間にか叫んでた、パンツノ惑星系最高神に向かって。
「風間さん、暴言はダメです。」
薄い髪のおっさんに止められたけど。
「ハゲは黙ってろ! あんたとなんか話してない! そこの最高神(笑)と話してるんだ。」
こっちを見る最高神が表情1つ変えないのが凄く腹が立つ。
だから椅子から飛び上がって、日焼けした
「出来ないなら、最初からどんな願いも叶えるとか言うなよ。最高神なんだろ?神様なんだろ?決まり事ってのを決めていい立場じゃないのか? それとも見た目通り、ただのオッサンなのか?ふざけんなよさっきから、表情1つ変えずに!」
胸元を掴まれても表情1つ変えないどころか微動だにしない。
「どうせ、日本人も地獄の住人もモンスターさん達も全部
その直後に髪の薄いおっさんが、掌から光を出したかと思ったら、何故か怒ってたのが収まって、後ずさりして椅子に座り込んでしまった。
「マルトさん、すいません助かりました。」
「いえいえニノさん、
なんて二人のオッサンが話してる。
何故か急に冷静になった、ヤバい……。
「君の願いは叶えてあげよう、神になって初めて人間に胸ぐらを掴まれたよ。その勢いに少しだけ尊敬の念を覚えるからね。」
え?
「その代わり条件がある。君の願いを叶えると言うのは、君だけを優遇したのと同じなんだ、分かるだろ?他の生き物達は自分の事にしか願いを使う事が出来ないのは。」
「はい、分かります。」
俺の事が載ってる書類を見てる……
「令和を生きたその歳で、鉄拳チ〇ミのシーファン好きなんて渋いな……そうだな。」
シーファンってかっこいいじゃん。
「優遇は差別と同じだ、差別なんかしたくないから優遇した分に制限を掛ける。」
「はい。」
「ちょうど権之助さんの道場に通ってるみたいだし、武器は
ホントに?叶えてくれるの?
「はい! それでいいです。」
「君のチャンネルは登録して、ちょくちょく確認するから頑張りたまえ。」
少しだけ偉そうな表情になった……。
「あと、私からも祝福を1つ授けるよ。」
星神様が少しだけ光ったと思ったら何かが体に入ってきた。
「ギルドカードの裏面を見てごらん。」
“創造神ニノの笑える祝福”
どんなシリアスな展開でも、最後にオチが付いて笑いに変えられる、芸人さんも真っ青な祝福。
酔っ払って、オチのない話を繰り返すおっさんが授かると、居酒屋の人気者になれる。
発動を制限するには様々な神器が必要。
使用可能レベル10
「ちょ、これはダメな祝福じゃないですか!かっこいいの下さいよ。」
嫌だよお笑い路線は!
「その祝福も制限のひとつにしてある、とりあえず発動を制限する神器を1つあげよう。全部揃えたら祝福が変化するから頑張って。」
そう言って渡されたのは……
背中に大きく肉って書いてあるTシャツだった。
キ〇肉マングッズかよ!
風間少年が退室した後の最高経営責任者室
「ニノさん、なんで教えてあげなかったんです?動画の収益を使って、パンツノ惑星圏内の至る所に、様々な生命活動の出来る環境を作り出して、生き物達が平和に住む世界を作っていると。」
聞かれた最高神が、ニヤケながら答える。
「青臭いのって、既に私達が無くした感覚ですよね、嫌いじゃ無いんですよあんなの。彼が条件達成した時に、どれだけ成長しているか楽しみじゃありません?」
イタズラが成功したような表情をしている。
「それに彼が現世に戻った後に作り出すシステムって、応用されてフルダイブ型VRゲーム機の基礎になるんですよ。」
「ちょニノさん?」
「立川にバカンスに来てる2柱の神様も言ってたじゃないですか、動物に冷たくされたいって……。」
呆れ顔の丸兎の尊。
「フルダイブ型VRで、もふもふな動物にそっぽを向かれたいんです。だから彼には成長して日本に戻って、早く研究者になってもらわないと。」
相変わらずニノさんって動物が好きですねえ、と呟きながら2人も部屋を後にする。
最高経営責任者室の備品が、手作りの机と数脚のパイプ椅子だけ、2柱の神が着ているスーツは、安物の量産品で、型遅れな古ぼけた物だという事に、風間少年は気付いていなかった。
パンツノスカイツリーの外に出て来たらシャミイさんが大慌てで近付いてくる。
「ゴブタク!あんたバズってるよ!めちゃくちゃバズってるよ!見てみなアレ。」
パンツノスカイツリーの建物に据付られてる大きなオーロラビジョンに、本日のおすすめ動画ってのがあって……
「なんでさっきのやり取りが流れてんだよ!」
俺が神様に掴みかかってる動画が、編集もされずに放送されてた……
「あんたやっちまったねえ、ここで放送されたら数日は、全神界で話題になるよ。」
めちゃくちゃ恥ずかしい。
放送されてる動画をよく見たら、忍者姿のアポロ様とルミナス様が、カメラ片手に這いつくばって撮影してる……。
何してくれてんですか。
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