日本から出向中の動画編集業の清叔父さんと賢人若松冬子先生



 面白動画投稿を仕事にしてるきよし叔父さん。

 若気の至りと言う言葉は、転移してから肉体だけが成長して、精神が成長しない僕にも適用されるのでしょうか?


 そんな事を考えながら寝ようとすると、必ず貴方の投稿した、沢山の動画を思い出してしまいます。


 今日も元気に、公園の遊具の性能を200%引き出して、いい笑顔で遊ぶ数人の大人が見れる動画を投稿しているのですか?


 僕も動画の演者になってしまったのですが、なったらなったで周りの目など気にならないものですね。



   風間拓斗の日記より一部抜粋




 ギルドを出て、ダンジョンに向かおうとしたら声を掛けられた。


「風間拓斗君、今日は大切な面談の日ですよ。ダンジョンに行くつもりだったのかしら?」


 声を掛けて来たのは若松冬子もとビジュアルけい先生。

佐藤先生じゅくじょにめざめたとお付き合いしている58歳独身だ。


(同い年じゃん)


「え?通知が来ると聞いていたのですが数日前に1年経っても来なかったもので、ダンジョンにでも行こうかなと……。」


 恋人が出来たらビジュアル系を止めて、普通の人になった若松先生そっちのほうがいいが。


「貴方が召喚されたのは令和2年でしょ?それが貴方の暦の基準になるのよ。うるう年だから366日あるのを忘れてた? 風間君基準だと今日だよ、異世界こっちに来て2年目の初日は。」


 あれ?異世界ガムの1年って360日なんじゃ?


「私たち日本出身者の暦は召喚された時の地球基準って言われてなかった?」


(ごめん言ってないや)


「知らないです。言われて無いと思います。」


 それなら着替えて行きましょうって言われたけど。


「服ってこれ1着しか持ってないです。だからこのまま……。」


「背中に沢山穴が空いてるTシャツとパーカなんかじゃ失礼よ。何処かで買って行きましょう。」


 突然、お婆ちゃんと同世代の女性とデートする事になった……。


(性欲もわかないな)


 選んで貰った服が、どう考えても金額的さいふのなかにに出せない金額はいってないだったので、460円のプリントTシャツを買った。


 偽物と丸わかりの猫型ロボットがプリントしてあって1番安かったからだ。


 これなら革鎧の修理が終わってから、革鎧でも良かったんじゃ? と考えてしまう。


「あんまりお金は使いたく無いので、この格好でいいです。見た目より素行が大切なんですよね?」


 少し考え込む若松先生きてるエンジいろのカーディガンかしてよから。


「そうなんだけど見た目も大切よ。」


なんて言われた。


(分かってるよ拓斗だって)



 面談って何をするか? なんて説明しなくちゃかな? とりあえずしておこう。


 日本人の転生者・転移者・出向者なんかの冒険者・探索者・作業員、地球から招かれた英雄・賢人なんかは、まる1年のテスト期間があって、その期間中に異世界ガムで役に立ってるか、受け取ったチートで悪事を働かないか等を見られてるんだ、1日24時間ずっとね。


 1年のテスト期間が終わったら正式に自分の望みを伝えて本当の異世界生活が始まる。


 異世界こっちに来る時に、初めに説明されたんだけど、常識の擦り合わせをする期間が必要だとか言ってた。


(擦り合わせてこの扱いは……)



 若松先生に連れられて、メインストリートの中央にそびえる電波塔兼動画編集局までやって来た。


 中に入るのは2回目、冒険者登録した後に動画の演者登録した時が最初。



 広いロビーで様々な付喪神や、スーツを着た日本から出向中の職員さん、現地人の職員さんなんかが慌ただしく歩き回ってる。


「相変わらず凄い活気ですね。普段は誰も来ない初級ダンジョンで働いてるので、こんなに沢山の人を見るのも久々です。」


「さあ、ここからは1人で面談室に行きなさい、貴方の行く先を決める大切な面談だから、納得が行くまで質問攻めにしないとだからね。」


 担任時代は、やたら皆から怖がられてた若松先生が、凄く優しい。

恋人が出来るって、こんなに人格が変わるほどなのか?


(違うぞ)



 面談室の場所は直ぐに分かった。

入口正面に大きく“めんだんしつ”って書いてある看板が立ってる部屋があったから。


 なんで平仮名で書いてあるんだろう?って少し疑問だった。


 面談室の前まで来たら、本日面談を受ける方は番号札をお取りになってお待ち下さいと書いてあるボードの下に、銀行とかに置いてある発券機が置いてあって番号札を取った、2番ってなってたけど周りに誰も居ない、面談中なんだろうか?


 ドアの横に置いてある長椅子に座って待ってたら面談室から大きな声で。


「なんで他の人間を生き返らせる事がダメなんだ! なんでも1つ願いを叶えるって言ったのは、お前達神だろう!なんの為に出向したのか、これじゃ意味が無いじゃないか!」


 うわあ、凄く怒ってる。


星神ニノ相手によくやるよ)


 それからも、だいぶお怒りのようで何回も何回も神様を怒鳴りつけてる。


「全てを放り出して出向して来たんだ、1番の望みが叶わないなんて、お前達はそれでも神か!」


 でもこの声、聞いた事があるんだよな……。


 清叔父ユーチューバーさんじゃね?



 ドアをノックしてから少し開けて面談室を覗いて見た。


「あっ!やっぱり清叔父さん。何してんですかそんなに怒鳴って。」


 やべっ、神様がこっちを見てる……。

 叔父さんも見てる……。


(やっと来たな)


 壁際に置いてある椅子の上でタブレットを見てる赤毛の白人さんも、こっちを見た。



 おもむろに椅子から立ち上がった赤毛の白人さんが。


「ようこそ、風間拓斗君。いや、タクタクって呼ぼうかな。君の動画は登録開始から187日全部、毎日24時間、一瞬も目を離さず全てを見させて貰ってたよ。」


 前に出していた腕を大きくユラユラさせてリアクションをする赤毛の白人さん。


「面談の後からは、編集されて放送される正式な演者だから、寝てる姿や風呂に入ってる姿までは見れないけどな。」


 そんな所まで見られてたの?

でもこの神様、リアクションが大袈裟な外人さんぽっい。


「俺好みの良い動画だ。君が所持している魔法鞄に宿っている付喪神も、いい仕事をするね。」



 面接官みたいな神様?が2人並んでポカーンとしてる。

もちろん清叔父さんもだ。


 周りを見回した赤髪の白人さんが。


「そりゃあ、目下この部屋で話題の人間がいきなり入ってきたんだ、みんな驚くさ。」


 自信満々で胸を張ってドヤ顔してる……でも。



 後ろから音も立てずにドアを開けて入って来て、忍び足で近付いて背後を取ってますよ、カチッとした服装のルミナス様が……。


 ドゴンっ……。 あっ殴られた。



 気まずい空気が流れた面談室の空気を破壊してくれたのは夜と月の女神ルミナス様。


 今日はスーツ姿で赤ぶちメガネを掛けてる。


「バカアポロ、あんたに1年も任せたのが失敗だったわ。ちゃんとお姉ちゃんに監視を頼んどくんだった。」


「そうも言うなよルミルミ。ほとんど毎日顔を合わせて一緒に仕事してるあまちゃんと異世界こっちに来てまで一緒に居ろとか拷問か?」


 おじさんに見える神様2人がオロオロしてる間に、清叔父さんが近付いて来た。


「拓斗、拓斗なのか?本当にお前は風間拓斗なのか?」


 目に涙を貯めながら話し掛けてくる。


「清叔父さん、お久しぶりです。叔父さんも来てたんですね異世界ガムに。地球では死んだんですか?」


 泣いている叔父さんに両肩を掴まれた。


「お前を生き返らせるために、向こうの生活を全部捨てて、生きたまま異世界こっちに出向して来たんだ、動画編集者としてな。」


 ぐほっ!頭を締め付けられた。


「1年のテスト期間が終わったら望みを伝えて、その後30年働けば叶えてくれると言われてな。飛んだ大嘘つきだ神なんて、やっぱり胡散臭いもんじゃないか!」


 ルミナス様が少しお怒りですよ叔父さん。


「このバカアポロが申し訳ないです。甥っ子もこっちに来て復活する為の試練を受けていると伝えていると思っていたのですが。」


 既にアポロ様は寝そべって後頭部をピンヒールでグリグリされてる、痛そうだな。


 叔父さんの面談を再開するから風間さんは退室してくださいって言われて部屋の外に出た。


なんか叔父さん老け込んでたな……。



 その後に15分くらいで叔父さんが面談室から出てきて。


「拓斗が出てくるまで待ってるからな、後で飯でも一緒に食べよう。」


 って言われたから、はいって返事をしといた。


 面談は淡々としてた。

目の前に座る日本人ぽいおじさんが異世界ガムを含む惑星圏の星神様だそうだ。

隣に座る髪の薄い日本人ぽいおじさんが補佐をする主神の1柱と紹介された。


 ルミナス様と殴られて踏まれてた赤毛の神様は、部屋の隅に置いてある椅子に座って見てるだけ。


 目の前の2人のおっさんに、何をしたいか、何を望むか、淡々と聞かれた。


 面談も終わって面談室から退室したら、清叔父しらがふえたなさんが待っててくれた。


「お待たせしました清叔父さん。ギルド食堂でいいですか?俺、冒険者なんです。少しくらい稼ぎはありますから、奢りますよ。」


 そう言ったら。


「身体はデカくなってるが、中身は召喚された時のままなんだろ?中学生に奢って貰うほど今の稼ぎは少なく無いさ。」


 昔はタバコ代貸してくれって小学生の僕のお年玉を借りて行てった癖に。


「駿馬亭でいいですか?」


「あそこはダメだ高級過ぎる。俺の月給の1割飛ぶぞ。」


 めちゃくちゃ給料貰ってんじゃん。



 日本人街って呼ばれる高級住宅街に近いお好み焼き屋さんに連れて来て貰った。

店名は焼き処・冥王。


 中に入って二人ともミックス・チーズ餅トッピングを頼んだ。


「なんでさっきは神様に怒鳴ってたんですか?」


 不思議だったから聞いてみた。


「そりゃお前を生き返らせるつもりで異世界こっちに来たのに、自分以外の事には願いが適用出来ませんとか言うからさ。」


「僕をですか?なぜまた?」


 お好み焼きが焦げちゃう、早く食べたいな。


「そりゃ俺の動画を親戚中で唯一お前だけが、毎回欠かさず見ててくれて、貧乏人で箸にも棒にもかからない俺に、いつもちゃんと挨拶してくれたろ?無職で兄貴んの居候の俺にさ。」


 だって清叔父さんが先に挨拶してくるんじゃん、だから返してただけだよ。

 それに動画は難しい笑いじゃなくて、単純にアホで面白かったし受験勉強の息抜きに見てたんだけど。


「独身で子供も居ない、彼女も居ない、持ってるのは放送に携わりたいって熱意だけの、最終学歴高卒で、何処の放送局に面接行ってもバイトすら無理だった俺を、障害を持つ兄貴夫婦の家の居候で、親戚中から嫌われてた俺を、唯一普通に扱ってくれたお前を生き返らせるって願いが変か?」


 叔父さんが溜めを作った、耳を塞がないと。

動画なら溜めを作った後は叫ぶんだから。


「金にならない動画を投稿してるだけの無職のおっさんの俺が動画編集者として働けば、なんでも願いを叶えてやるって言われたら働くだろ。やりたい仕事でもあるんだから。」


 あれ?叫ばなかった。


「自分の事は大丈夫です。清叔父さんの好きな事をやってください。」


「お前が帰るまで、お前の動画編集担当にしてくれって願ったよ。最高に面白おかしい動画に編集してやるさ。」


 カッコよくしてくれよ、お笑い路線は嫌だ。



 少しだけお好み焼きが焦げてたけど、背ばっかり伸びてガリガリじゃないか、食べろ食べろと言って自分のお好み焼きもくれた叔父さんは、ずっと涙目だった。


 ギルドの宿屋に帰るのに叔父さんも着いて来てくれた。


「お前は何を願ったんだ?」


 あんまり言いたくないけど身内だもんな。


「僕のせいで目が見えなくなった父さんに、もう一度世界を見せてあげられるようなシステムを作れるような閃と才能を下さいって願いました。」


「なんて言われた?」


それがさ……。


「ルミナス様から。それは叶えなくても生き返れば、勝手に貴方は作り上げるわよ、御両親が健在なうちにね。って言われました、なので願いは保留中です。」


「そうか、めちゃくちゃ頑張って県内の公立で1番の進学校に合格したんだもんな。そんな夢があったのか。凄いな拓斗。」


「清叔父さんの、単純に笑える動画も凄かったですよ、受験勉強中に何個か暗記したことを忘れましたから。」


 そんな話をしながらギルドに帰ってきた。

頑張れよ、ほどほどにな! って言ってくれた。



 ギルドの扉を開けると、そこはお通夜のように静かでした…………。


 まだ冒険者の皆さんが帰宅する時間の真っ只中なのに……。


「やっと来たタクタク!こっちこっち。」


 うわあ、赤毛の神様だ。確か名前はバカアポロだったかな?


「どうしました?何かありましたか?」


 神様だもんな、バカアポロなんて名前じゃ無いはず。


「さっきはすまんな! この半年間お前の未編集動画を見るのが楽しくて色々忘れてた。」


「うわあ、ホントにずっと見てたんですか?」


 オーバ気味なリアクションだな。


「動画見ながら1人で突っ込んでたら、周りから変な目で見られたけど楽しかったから気にしないさ、俺もオッパイ好きだぜ。」


「うわ!そんなのここで言わなくても。」


「好きな物を好きと言って何が悪い。そう言う所が日本人のダメな所なんだ。」


なんかポージングし始めた。


「お前に付けた魔法鞄に宿ってる付喪神ってな、俺の眷属で懐中電灯の付喪神。そいつとは繋がってるから、お前の思考まで流れてきてたんだよ。」


 ええ!考えてる事まで分かってたの?


「180日を半年と勘違いして数日前から思考だだ漏れだっただろ?見てて滅茶苦茶楽しかったから良いもんやるよ。なかなか貰えない物だから大切に育てろよ。」


 育てる?動物??


「ほれ、太陽神アポロの加護。」


 髪の毛が全部立ち上がって光った後に、俺に光が降り注いだ。


 太陽神アポロ?マジですか、ピンヒールで踏まれてたのに?


 大笑いしてギルドの扉を豪快に開いて出ていったアポロ様。

出ていく時にさらに一言。


「お前の動画のチャンネル登録しといたから、俺が最初の登録者だ。とりあえず2桁目指せよ。だけどな、たまには遊びに行け、楽しい事も色々あるんだぞ異世界ガムにはな。」


やばい、ギルド内から熱い視線が。



 太陽神アポロ様が、見えなくなってから、シャミィさんとボンゴさんがカウンターの中から飛び出して来た。


「ちょっとゴブタク、凄いじゃないの!特級神・太陽の化身の加護だろ? 探索者でも持ってない炎の加護じゃないか。」


「ギルドカード見せてみろ、加護の効果が載ってるから。裏面だ、裏面。」


 凄いと言うシャミィさん、見せてみろと言うボンゴさん、ボンゴさんに言われた通りギルドカードの裏面を見たら。


 太陽と陽気な神アポロの加護

レベルが足りず効果が発動していない、使用可能レベル90


と書いてあった……。


 シャミィさんとボンゴさんに


『ゴブタクはこうでなくっちゃな。』


なんて同時に言われた。


 レベル12だぞ!使えるかこんなもん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る