日本人転生者の犬獣人ユミルさんと日本人転生者のドワーフのラムダさん

 小学三年生の時の担任の若松わかまつ先生。

 52歳で独身で、若作りして気持ち悪いって男の先生方には不人気でしたね。


 でも俺が間違えて、お母さんと呼んでしまった時に凄く嬉しそうな顔をしていたのを覚えています。

あの日から、しばらくの間、若松拓斗と呼ばれてしまいました。


 あだ名が本名よりも長いなんてと思ってましたが、嫌なあだ名で呼び続けられるよりも、ずっとマシだと今は思えます。


 でも若松先生、52歳でビジュアル系な化粧はダメだと思いますよ。


   風間拓斗の日記より一部抜粋。



 ボリュームは小さかったけどマッチョの悲鳴を一晩中聞き続けたせいで寝不足だ。

朝ごはんを食べてギルドのロビーに到着したけど今日は、1日休もうかな。


「おはようございます、ボンゴさん昨日はありがとうございました。助けて頂いて。」


ボンゴさんに昨日絡まれた時に助けて貰ったお礼を言ってから、顔をよく見たらツヤツヤしてる。


「気にすんな、一時間前ついさっきまで楽しめたんだからな。今日は、昼のエールより昼寝がしたい。シャミイなんか起きてすら来ないからな。」


(ユミルさんが困った顔をしている)


「ギルマスが地獄送りになって業務の一部が遅れてるんで忙しいんですけどね。趣味でやってる事を無理に手伝えとも言えないですから。」


 冒険者ギルドで唯一の癒し系なユミルさん、こんな癒し系な人が3級探索者なんて信じられない。


 だって、垂れた犬耳、ホワンホワンしてる柔らかい目付き、ゆるふわな髪型、ピンク色で艶々の小さな唇。

 胸は慎ましくもしっかり膨らんでるBカップ、お尻も大き過ぎず小さ過ぎず、丁度いい大きさで、全体的にスラッとしてて……声のトーンも高過ぎず低過ぎず。


 言葉使いも綺麗で丁寧。


 だけどメイン武器が鎖鎌くさりがま……。


(癒し系かそれ?)


 ちなみに、ユミルさんだけが冒険者ギルドの正式な職員で受付嬢だったりする。


「ユミル、ゴブタクさんの熱い眼差しをスルーしてやんなよ。少しくらいシャミイみたいにサービスしてやれ。」


お願いします、ボンゴさんの言う通り。


(サービスして貰えたら今日1日頑張れます)


「ダメだよぉ、だってゴブタク君って大きなオッパイしか興味無いでしょ。私って小さいもん。」


「オッパイだけじゃ無いです。お尻も好きです、うなじも好きです、小さいオッパイも好きかも……。」


ゴッツって音がして後頭部に激痛が……


「いだい……何するんですかシャミイさん、メリケンなんか付けて……」


「あんたは、アタイの昼のアルコールを奪う気かい?昼に他人の奢りで飲む酒が1番の楽しみだって知ってるだろ?」


(初めて聞きました)


 右手に刃の付いてないメリケンサックをはめて、左手でオッパイを下から持ち上げた、下半身がパンティ1枚のシャミイさんが登場。


 そして俺の頭を右手でグリグリしながら。



「あんたが奢ってくれても構わないんだよ?オッパイ触らせてやるから昼に駿馬亭でミードでも腹いっぱい奢ってくれ。」


「ちょっとシャミイさん。手は!手は洗ったんですか?血が!血の匂いが。」


 洗うわけないだろって豪快に笑いながら……。


 嫌だ!マッチョの、擦りキレてるマッチョから出た血が頭に付いたなんて。


 公衆浴場に行く、今日は仕事を休む。


(そうした方がいい)



 逃げるようにギルドを飛び出した俺に声を掛けてくれた人が。


「おはようございます拓斗さん。今日は槍をお持ちでは無いのですね、お休みでしょうか?」


「おはようございますガオパさん。今から公衆浴場に行って頭を洗って来ないとなんです。あと、今日は休むつもりです。」


 ガオパさんに挨拶を返したら、ガオパさんの後ろに2人の若いゴブリンが居る。


「おはようございます、ガオパの長男でマオパと言います。今日からモンスターギルドに所属する事になりました。よろしくお願いします。」


「おはようございます、ガオパの次男で、マオパの双子の弟のラオパです。兄と同じく今日からなので、お手柔らかによろしくお願いします。」


(凄く丁寧に挨拶された)



「お手柔らかに出来るほどに強者きょうしゃじゃありませんが、ダンジョンで出会ったら真剣勝負ですよ。お二人共よろしくお願いします。」


 そうか、もうすぐガオパさんって償いが終わるんだな。


 息子に家族あとを託して居なくなるなんて心配だろうけど、お疲れ様だよホント。


 あの人がゴブリンスレイヤーの拓斗さんだからな、いつか倒せるように頑張るんだぞ。

頑張るよ父さん。そうだね兄さん。


 なんて言ってるガオパさん親子の言葉を聴きながら、公衆浴場に向かって歩き出した。



 公衆浴場への通り道に、さっきシャミイさんがチラッと話した駿馬亭と言う料理屋がある。


 入口の見た目だけでも高級そうな料理屋さんで、俺は1度も入った事が無い。


 東海林しょうじさん達は、遠征が終わったらここで打ち上げをするって言ってたけど、1人5万円からなんて……一生俺には縁が無さそうだ。


 財布の中が2万円を超えるなんて、闇市に裏技で作成した物を放出する時だけだよ。

そのお金も直ぐに師匠の家の修繕費に使ってもらってるし。


 最低ランクの10級冒険者なんて、こんなもんだ。


(でも十分生きて行けるだろ?)


 俺が行く公衆浴場は、駿馬亭の先にある十字路を裏道の方に曲がってすぐの所にある、一般の人も来る普通の公衆浴場だ。


 勿論もちろん、男女混浴って言いたいけど、そんな夢のような世界なんて無い。


(ちゃんと別れてるぞ)


「いらっしゃい、拓斗君。今日は、早いね。」


 挨拶してくれたのは番台に座るカエル獣人のララエルさん25歳。

爬虫類系の獣人さんだけど、常にビキニでオッパイが大きい。


(推定Fカップ)


 緑色の背中と白いお腹、顔はカエルっぽい部分もあるけど十分可愛い系に入ると思う。


「料金値上げしたんですね。」


 大人250円だったのが270円になってる。


「消費税が値上がりしたからね。ウチは最低限しか利益を取らないから、消費税を値上げされたら赤字になっちゃうんだ、だから仕方なくね。」


「消費税って何%になったんですか?」


(テレビが無いから情報が殆ほとんど入って来ないな)


「食べ物以外は10%になっちゃった。」


「うわ、ついに2桁ですか。なら値上げも仕方ないですね。」


「だけど、フルーツ牛乳は、値上げしてないから、上がったら飲んでね♡」


 笑顔につられて130円のフルーツ牛乳も買ってしまった。


 朝から400円の出費だ。



 異世界こっちの公衆浴場も日本と変わらない銭湯式で先に体を洗ってから湯に浸かるタイプなんだ。


 備え付けの石鹸とシャンプーを使って洗っていると、隣に誰か来た。


「おう。昨日はすまんな、うちのメンバーが。」


(凄い低い声)


 シャンプーしてるから目が開けられません。


「どなたでしょうか?洗い流すまで少しだけ待ってください。」


 マッチョの擦りキレてるマッチョな部分から出た血液をしっかり洗い流さ無いとだから、ゴシゴシしまくる。


 シャワーで流してから右隣を見ると……


(男の娘……)



「お待たせしました。」


「ん。待ってないから気にすんな。豪腕の牙で魔術師兼リーダーをやってるラムダだ。よろしくゴブタク。」


 どう見ても豪腕って感じじゃない。

小さくて、細くて、顔立ちは中性的と言うより、まんま女の子。


(ベリーショートの髪型だけど可愛い)


 でも低い声と、筋肉のある胸板と、喉仏と、股間にぶら下がる、そこそこデカいラムダさん。


(男だな)


「風間拓斗です、よろしくお願いします。ハガーさん生きてます?あの二人に散々弄もてあそばれたんじゃ?」


「さっきまで治療院で股を広げてたよ。治癒士に、やる気が出んよこんなのって言われながらな。その後も少しだけあったけど……」


 髪を洗うラムダさんのうなじを見てテントの骨組みを立ち上げそうになった。


(ダメだ俺もノーマルだ)


「生きてるなら良かったです。あの二人ってド変態なんで気を付けて下さいね。」


「もう死んでるよ。ルミナス様に、さっき地獄に落とされたからね。」


あれ?ハガーさんってこっちの生まれなの?


「ハガーさんって異世界ガムの生まれなんですか?」


「うん、そうだよ。馬鹿だよね最後のチャンスだったのにさ。」


異世界ガムの産まれでも冒険者になれるんですね。」


 普通だと冒険者と探索者って転生者しかなれないはずなんだけどな。


「冒険者になるまで1回も悪い事しなかったらなれるんだよ。まさか俺に隠れてあんな事を続けてるとかホントに頭に来る。」


 るんだよって言った後に低い声のトーンがさらに低くなった。


「拓斗君って呼んで良いかな?」


(声のトーンが戻った)


「勿論です、名前で呼んで頂ける方が嬉しいです。」


「うん、それじゃ拓斗君って呼ぶよ。ハガーの事は悪かった。それとウチの嫁がお世話になったね。」


嫁?嫁……誰だろ?


(知らんぞ?)


「分かってないようだけど、俺って今はドワーフ。ドワーフに心当たりが無い?」


ドワーフ………………


(心当たりがある……)


「ミルクさんですか?もしかして……」


「正解、俺ってミルクの旦那。元日本人だよ俺もミルクも。」


 あれぇ?俺ってミルクさんになんかしたっけ?

悪い事なんてしてないような……


「ミルクって動きの遅いモンスターが苦手でね。なかなか教えても上手く出来なかったのが、拓斗君に半日教えて貰っただけで上手くなってたからさ。」


 ホッ、悪い事じゃなかった。


「それでミルクを正式なメンバーに入れて、ハガーの事をクビにしたんだ。何回か見ちゃったからねアイツが悪い事する所をさ。改心してくれると思っていたんだけどな。」


「でも昨日は2級冒険者パーティのって言ってましたよ?」


二人並んで身体をゴシゴシしながら話してる。


(他に客が居ない)


「クビになった腹いせに悪評でも広めてやろうって思ってたんだって。そんな事しても無駄なのにね。」


「確かに、バレるバレないじゃなくて無駄なんですよね。絶対に見られてるのに。」


「ホントに、こっち生まれの人種は酷いね。チンピラだって分かってるけどさ。それにしても酷い。」


「ちゃんと反省してる人だって居るんですけどね。一部が酷いだけで、全体がそう見えちゃうんですよね。」


 俺は、股間をタオルで隠して移動する。

だって被ってるから。


 でもラムダさんは、堂々と晒してる。


(ズルムケやんけ)



「後でミルクも呼ぶから、食事でもどうだい?道場に長い間ちゃんと通って教えて貰うような事を、実践で見せてくれたって嬉しそうに言ってたからさ。お礼しなきゃってね。」


「いえいえ、ラムダさんが食べてるような食事を1回でもすると、次の食事からがキツイですから、僕はギルドの安いゴハンで十分です。」


 美味しい物を食べると、次の日の朝ごはんがキツイんだよ。

ボソボソの酸っぱいパンと塩味のスープと言う名のお湯だからさ。


「そうか。それなら、なんかあったら助けるよ。困った時は教えて。こう見えても俺は8級の探索者だからさ。」


 うわ、探索者とかって……

ゴハン奢って貰えば良かった、たぶん駿馬亭に行くはずだから。


「探索者ですか、凄いですね。」


「見ての通りドワーフだからね、こっちに骨を埋めるつもりで転生したから。俺もミルクも。」


 そうか、日本に帰らない覚悟で種族転生してチート貰ったのか。


「拓斗君は、帰るつもりなんだろ?日本に。」


「はい、帰るつもりです。なので言語理解と文字理解しか貰ってないです。」


 言語理解と文字理解だけが俺がこっちに来る時に貰ったスキル。


 日本語と同じレベルで使いこなせるってだけ。


「強いな君は、頑張りなよ。」


 そう言って先に浴場から出て行ったラムダさん。

後ろ姿を見て、湯船の中でテントの骨組みが完成した。


 だって喋ってないと可愛い女の子なんだもん。



(俺はノーマルだ)

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