魔王に抗う人類の歴史

今、リセイが見ているそれは、


<魔王に抗う人類の歴史>


そのものだった。人間がどうやって魔王と戦う術を身に付けていったかという推移そのものだったと言えるだろう。ある意味では、


<どうしようもない災害に抗ってきた歴史>


とも言えるのかもしれない。


最初はただ無謀な<自殺行為>から、いかにして自分達の街や国をこの<災害>から守るかという試行錯誤が繰り返されるようになったようだ。


ある時には、国中の<油>を集めて燃やし、魔王の前に巨大な<炎の竜巻>、いわゆる<火災旋風>を引き起こさせて、魔王を焼き払おう、それが無理でもせめて進路を逸らせよう、という試みが行われたりもした。


それでも、魔王を倒すことはできなかったものの、あまりの火に勢いに魔王が怯んだのかそれとも自分の前にある<火の壁>を避けようとしたのか、その理由までは分からなかったものの僅かに進路を変えて、本来の進路上にあったその国の王都は魔王による蹂躙を免れたようだった。


ただし、国中の油を集めてという作戦は、人々の暮らしに欠かせなかった油の致命的な不足を招き、しかもこれを好機と見た他国から油の支援を断られ、結果として魔王から王都を守ったはずのその国は、国としての産業構造が破綻して弱体化。結果として周辺の国に分割され吸収されるという結末を迎えたようだ。


その後、人間達は、魔王に対して力で対処するのではなく、<荒ぶる神>と見做し、<生贄>を供することで鎮まってもらおうともしたようだった。


もっともそれ自体は、ある種の諦めから来る判断でしかなく、生贄を捧げた上で進路上の街や村の人々を避難させ、災害が通り過ぎるのを待つ。という形に戻ってしまったわけだが。


元より、生贄を捧げることで鎮めようというのは、抵抗を試みるようになる以前にも散発的に行われていたことでもあった。


大して重要なことでもないということで<早送り>されてしまっていただけだ。


しかしこうして改めて<制度>として定着したことで歴史的事実として提示されたのだろう。


『……』


魔王が、何故、延々とさまようのか、その理由を知っているリセイからすれば、生贄を捧げる行為そのものがまったく意味を成さないことが分かってしまう。


だから、もう、まともに見ることができなくなってしまっていた。


これらはすべて<過去の出来事>。自分にはどうすることもできないのは彼にも理解できる。


でも、辛かった。苦しかった。


生贄として供された中には、ティコナや、ファミューレや、ライラに似た感じの人もいた。


だから余計に辛い。胸が締め付けられる。


「やめて……お願いだから……!」


リセイがついそう口にしてしまったのは、


『生贄をやめて』


という意味だったのか、


『もうこんなのを見せないで』


という意味だったのか……


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