クォ=ヨ=ムイ

リセイの<能力>は、具体的にイメージすることさえできれば、これほどのことさえ容易に実現化してみせるものだった。


「……!」


自身の能力の何たるかを改めて目の当たりにさせられた彼は、言葉もなくただ目の前の光景を見詰めていた。


その彼の腕には、あの魔人の少女が抱きかかえられている。


「……っ!」


ハッとなって周囲を見回すと、魔王がいた辺りは直径数百メートルに亘ってドロドロの溶岩状に灼熱化していたものの、それ以外は、木々がなぎ倒されたり山の斜面が一部崩れたりしていつつも取り敢えず原型はとどめていたようだ。


だから、見渡す限りなにもかもが吹き飛んだりというわけじゃなかったことで、たぶん、オトィクの街にはそれほど影響は出ていないだろうと思えた。


「魔王は…? コヨミは……?」


少しホッとすると魔王とクォ=ヨ=ムイのことが思い出される。


確実に捉えた感覚はあったから、今ので倒せたかもしれない……


などという期待は、次の瞬間、脆くも打ち砕かれた。


「……っ!?」


魔獣達の姿はさすがになかったものの、灼熱化し、ドロドロと煮えたぎる地面の中で何かが蠢くのが分かった。


溶岩同然の中でも何かを捜し求めて蠢くかのような無数の<手>。


魔王だった。まったくダメージらしいダメージを与えられた印象がない。


しかも、それだけではなかった。


「な……っ!?」


魔王の上の空中で何かが渦を巻いていることに気付いて意識を向けると、たちまち激しく回転しながら大きくなり、周囲に漂っていた塵や煙や土埃のようなものを巻き込みつつ形を成していく。


『骨……?』


リセイがそう思ったとおり、それは<骨>だった。


と言うか、<骨格標本>のような……


そう、理科室などでよく見かける、骨格標本の模型に見えた。


が、次の瞬間には、そこに赤い<糸>のようなものが絡まっていく。


それが<血管>や<筋組織>であることが何故か分かってしまう。


ここまで来ると察せられてしまった。


「コヨミ……!?」


内臓が形成されて人体模型のような姿になり、さらにそれらを皮膚が覆い、全裸の女性が現れたかと思うと、続けて服が形作られて、<それ>はニヤリと淫猥な笑みを浮かべた。


まぎれもなくクォ=ヨ=ムイだった。


嬉しそうに笑いながら、彼女は言う。


「あははははは♡ この体をここまで破壊されたのは何千年ぶりかしら! あなた、いいわ♡ すごくいい♡ 


じゃあ、こういうのはどう!?」


満面の笑顔のクォ=ヨ=ムイがパキン!と指を鳴らすと、冷え固まりつつあった地面の中でぞあぞあと好き勝手に蠢いていた無数の<黒い腕>の一部がビクリと反応し、数十本のそれが魔人の少女を抱いたリセイへと伸ばされたのだった。


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