大きな手

それは、<ぐん>というよりは、<ぐん>だっただろう。


アリやハチといった昆虫のそれを思い起こさせる。


ぱっと見えるだけでも数千はいそうだ。


一頭のアムギフ、十数頭のジュオフスだけでも、軍の一部隊が全滅さえ覚悟したのに、こんなものを一度に相手するとか、およそまともな<戦い>にさえならない。ただただ一方的に蹂躙され貪りつくされるだけに違いない。


瞬間、リセイの頭によぎるもの。


どういう道理でそうなるか分からなかったからこれまでは具体的に想像できなかったのに、何故か不意に思い出してしまったもの。


『空気だ! 空気をものすごく圧縮し無茶苦茶な高温にすればプラズマになる……!


はすだ……!


でも熱が逃げると高温にならないんだったっけ…!?


熱を逃がさないように、包み込むように……!


手だ! 大きな手だ! 滅茶苦茶大きな手で、滅茶苦茶大きな力で、空気を逃がさないように包み込みながら押し潰す……っ!!』


頭の中で大きな手をイメージする。魔王も、魔獣も、すべてを包み込む、大きさ一キロ以上の<手>。


瞬間、見えない壁で包み込まれるように地面が抉れ、虚空が切り裂かれる。


「潰れろぉーっ!!!」


イメージをより具体的にするために、リセイは、無意識にそれを口に出していた。


それと共に、半径数百メートルの空間が押し潰されていくのが分かった。もっとも、時間にしてマイクロセカンドのレベルだろうが。


これにより圧縮された空気は一瞬で超高温となり電離、プラズマ化した。


もっとも、この時に最も威力を持ったのは、厳密にはプラズマ化した大気ではなく、単純な<圧力>だったが。


目に見えない<大きな手>で、魔王も魔獣達も、


『握り潰した』


だけである。


とは言え、その際に発生したすさまじい熱は実際に大気さえもプラズマ化させながら伝播。周囲の大気も熱したことでそれらが音速さえ超えたとてつもない勢いで膨張し、<爆発>した。


どどどどどおどどおどどおおどおおおおおっっっっっ!!!


ごごごごおごおおおごごごごごごっごおおっっっ!!!


もはやどう表記しても正確に表すことのできない爆風と衝撃波と振動が、空間も大地も叩く。


この時、大地を揺るがしたそれは、数百キロ離れた場所でさえ体に感じるほどの揺れとして伝わったという。


しかしその一方で、リセイはそれらがオトィクの街にまで被害を及ぼさないようにと強く意識したために多くのエネルギーが限られた空間内で何度も反射し、そこはまるで巨大なミキサーの中のようにすべての物体を滅茶苦茶に攪拌、何もかもが捻じ切られ、押し潰され、磨り潰され、焼き尽くされ、崩壊していったのだった。


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