敵の敵は
「ガアッッ!! グウゥアアアアッ!!」
「ガウッ!! バウウッ!!」
闇の中で獣の唸り声が響く。
その一部は間違いなくあの<魔人の少女>のそれだった。明らかに争っている。
「……隊長! ティコナとファミューレさんを頼みます!」
リセイはそう声を上げながら、離脱する馬車の上で立った。
「リセイ!? 何をするつもりだ!?」
ライラもリセイの声色などから察してはいたものの、敢えて問う。
「魔獣と魔人がどういう関係なのか、確かめてきます!」
『あの子を助けたい』
リセイは敢えてそういう言い方をしなかった。ここでそんなことを言っても認めてもらえないことは彼にも分かったからだった。
それに、助けるのが正しいのかどうか、リセイ自身にも確証がなかった。けれど、魔獣と魔人、いや、ベルフとあの魔人の少女が敵対関係にあるのなら、それが今後に役立つかもしれない。
ジュオフスと一緒に現れたということは、ジュオフスとは、仲間、いや、共生関係のような関係にある可能性は高い。だがその一方で、ベルフに対しては明らかに敵意を見せてもいる。
そこに、魔王や魔獣の侵攻が本格的に始まった時の対応策のヒントがあるかもしれない。
もし、ベルフだけじゃなく、他の魔獣とも敵対関係にあるとすれば、こちら側の戦力として利用できる可能性もある。
あくまで、漫画やアニメを見ていたことで得た素人考えではあるのものの、彼はそう考えた。
しかもそれは、ライラも考えていたことだった。
人間だけで魔王や魔獣と戦うのが困難であることはまぎれもない事実。ならば、利用できるものは何でも利用する。
『敵の敵は味方』
というものであったとしても。
実際には、
『敵の敵は、やはり敵』
ということの方が遥かに多いのも事実。それでも極稀に成立する場合があるのもまた事実なのだ。
ならば、利用しない手はない。
「分かった。だが、無理はするな! ティコナを悲しませるようなことはするな!!」
ライラはそう命じた。
自分は騎士であり軍人だ。場合によれば部下に死ぬことを命じなければいけない時もある。その自分が悲しむとか言ったところで何の説得力もない。けれど、自身の危険も省みずリセイの身を案じている少女を悲しませることは、リセイも望まないであろうことは察せられた。だからそういう言い方をした。
「はい……! もちろんです」
リセイはライラに対してそう応え、その上で、泣きそうな目で自分を見上げるティコナに向かって、
「大丈夫。僕はちゃんと情報を持って帰らなきゃいけないから、無理はしない。必ずティコナのところに帰ってくるよ」
そう言って馬車の荷台を蹴り、体を宙に躍らせたのだった。
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