おいで

「おいで、こっちおいで……」


リセイはそう穏やかに声を掛けながら、ゆっくりと出入り口に向かって歩き出した。ライラもそれに続く。


<魔人の少女>の僅かな仕草や振る舞いすら見逃さないように心掛けながら。


そんなリセイに誘われるように、<魔人の少女>も出入り口に向かって歩き出した。


その頃、外では、第七隊と、第七隊から報告を受け非常召集された部隊が周辺の市民を避難させていた。


そうして市民の避難誘導をしている兵士の中には、トランの姿もあった。彼もちゃんと、自分の役目というものを果たそうとはしているようだ。


しかし、対応を終えようとしていたそこに誘い出そうとしていたリセイとライラの前で、<魔人の少女>は、不意に後ろを振り向いた。


息を潜めてじっと成り行きを見守っていたティコナとファミューレの方に。


「!?」


まさかの事態に、二人は体をビクッと竦ませる。


けれどファミューレは、大人として、ティコナを守ろうとするかのように彼女を自分の体の後ろに隠そうと動いた。


「……」


<魔人の少女>は、その様子をじっと睨み付けている。


『なんで……? 僕が狙いじゃないのか……?』


思わぬ展開に、リセイは困惑した。このままだと、二人に危険が及ぶかもしれない。かと言って力尽くでどうにかしようとして暴れられたら余計に危険な気もする。


『どうしたらいい…? どうしたら……!』


思考がまとまらないリセイの隣で、<魔人の少女>を注意深く観察していたライラが、


「仕方ない。ティコナ、ファミューレ、二人もゆっくりとこっちに来てくれ。


ゆっくりとな」


なるべく穏やかに、強い調子にならないように、ライラは二人に声を掛けた。


しかしその指示に、ファミューレは、


『え? ティコナさんもですか……!?』


と動揺した。ティコナは市民で、しかもまだ子供だ。それをこれ以上危険に曝すのは、市民を守る立場としてどうなのか? と思った。


けれど、ファミューレが掴んでいたティコナの体が、ぐい、と前に出る。


「ティコナさん……っ!?」


ファミューレが視線を向けると、ティコナは真っ直ぐに彼女を見上げて、


「私も協力しなきゃいけないなら、協力する……! リセイだけに危ないことさせられないから……!」


決意を込めた眼差しで言った。


これには、ファミューレも従うしかなかった。とても翻意させられるような目じゃないと思わされた。


「分かりました…でも、ティコナさんは私の後ろにいてください。それが条件です……!」


そんな二人の姿に、


『……僕はティコナとファミューレさんに危ないことをさせるしかできないのか……!』


と、リセイが唇を噛み締めたのだった。


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