気安いムードには

こうして<食事会>ということにはなったものの、さすがに『和気藹々』というわけにはいかず、何とも気まずい空気が満ちていた。


とは言え、ライラは、社会的には奇異な目で見られることもある女性騎士であると共に、軍の部隊の隊長という立場もあって、経験上、それなりに慣れているということともあいまって、


「まあ、そうそう気安いムードにはなれないと思うが、ここは一つ私の顔に免じて、辛抱してはもらえないか?」


皆を気遣ってくれた。


しかも、


「彼女らにも悪気があったわけじゃないのは分かってほしい。無論、礼を失した行為であったことは事実だろうから、それに対しての憤りについては我慢して欲しいとは言わない。


そこで、だ。今回の件をどのような形で治めたらいいか、意見を聴かせてもらえないだろうか?」


あくまで穏やかに、冷静に、責任ある立場としてライラはそう提案した。


しかしこれには、ティコナもリセイも逆に戸惑ってしまう。


特にティコナは、頭が冷めたこともあって、


『ここで変なこと言って騎士様を怒らせたりしたら、お父さんとお母さんに迷惑掛かるかも……』


などと改めて考えてしまって、頭が働かなかった。目を伏せて、青い顔をしている。


『ティコナ……』


一方、リセイは、そんなティコナの様子を見ているうちに、


『僕が彼女を守らなくちゃ……!』


自然にそう思えて、


「僕としては、こういう形で気まずいことになるのが今後ないようにしてもらえたらそれでもういいです」


と、真っ直ぐライラを見てはっきりと告げた。


するとライラも、


「そうか…そう言ってもらえると助かる」


ホッとしたように答えた後で、ティコナに向き直り、


「ティコナ…だったね。君もそれでいいだろうか…?」


なるべく穏やかな表情になるようにしながら、言った。


その時のライラのかおは、元々整った顔立ちの上に引き締まった精悍なそれだったことで、この上ない<イケメン>であった。


そんなライラと目が合った瞬間、ティコナの顔が、いや、耳までカーッと赤くなっていく。


まあ、凛々しい上に誠実さまで滲み出たこの時のライラをまともに見てしまっては、大抵の女性がそうなるだろうが。


で、思わず俯いたティコナは、


「は…はい! それでいいです……っ!」


と咄嗟に答えてしまった。


もっとも、ティコナ自身に何か考えがあったわけではないので、むしろ彼女としてもありがたかっただろう。


そんなこんなで場が収まり、ホッとした空気が流れた。


さすがに気になってついつい聞き耳を立てていた他の客達も、どうやら丸く収まりそうだという流れを察して安堵した。


だが、次の瞬間、


ドーン! バリバリバリッッ!!


という、まるで爆発音のような轟音と共に店が揺れ、同時に天井の一部が崩れ落ちてきたのだった。


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