自己暗示
この時、リセイの頭の中では、二種類の光景がよぎっていた。
一つは、
『リセイがこの<人間の少女のようにも見える怪物>を退けて勝利する光景』
と、もう一つは、
『リセイがつい手加減してしまい、それが元でライラ達が殺されてしまう光景』
というものだった。
無念に涙を流しながら虚空を見詰める、光を失ったライラの目が頭にこびりついて、リセイの全身がカーッと熱を帯びる。それが彼の力をさらに増幅し、
「おぉおおおぉおぉぉおおぉぉおおぉぉぉぉぉーっっっ!!!」
雄叫びとなって口から迸った。
すると、
「がぁあぁあぁぁぁあああぁぁぁーっっ!!!」
<少女の姿をした怪物>も負けじと吼える。
この瞬間、互いにもう相手しか目に入っていなかった。
『ぶっとばすっっっ!!!』
目の前にいる<少女にも見える怪物>に対して手加減をしようなどという考えを振り払うために自分自身にそう言い聞かせる。それはもはや<自己暗示>というものだっただろう。
瞬間、
「ゴンッッッ!!!」
という、恐ろしい衝撃音がその場の空気を叩いた。リセイの右の拳と、<少女の姿をした怪物>の左の拳が衝突した音だった。
リセイの手甲がそれに耐え切れずに変形、破裂するように千切れ飛んだ。
それにすら構うことなく、リセイは今度は左の拳を繰り出す。すると当然のように<少女の姿をした怪物>も右の拳を繰り出し、やはり同じように衝突した。
「うおおおおおぉぉぉぉぉーっっ!!」
「がぁあああああぁぁぁぁーっっ!!」
互いに咆哮をあげながら、爆発するように拳を繰り出し続ける。
リセイの手甲は、もうすでに左右とも粉々にちぎれとび、残骸が腕に絡み付いているだけだった。
一瞬でも気を逸らせば間違いなく彼の<能力>の効力が損なわれ、リセイの腕そのものが手甲と同じになるに違いない。それほどの応酬である。
「あれはリセイに任せろ!! 私達はジュオフスを倒す!!」
途轍もない光景に僅かの時間とはいえ呆気にとられていたライラが気を取り直し、同時に部隊に喝を入れ直した。
それにより兵士達も気迫を取り戻し、一方、ジュオフスは指揮する者がいなかったことで立て直せず、これが明暗を分けた。
ライラは三匹目のジュオフスを倒し、レイも二匹目を倒し、多くの兵士がやはりジュオフスを倒すと、さすがに自分達の敗北を察したのだろう。残りのジュオフスが散り散りに逃げ始める。
残ったそれらにも確実にとどめを刺し自分達の方の状況は終わらせたライラ達だったが、
「これは……」
「どうすりゃいいんだ……?」
加勢しようにももう完全に人間が関われるような状態でないことは誰の眼にも明らかだった。
何しろ巻き込まれたら一瞬で人間の形を失ってミンチよりも酷いことになりそうな有様だったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます