檄を飛ばす

「斬撃は効かん! 刺突だ!! 己の全体重を掛けて真っ直ぐに剣を突き立てろ!! 


しかし怯むな! ここで退けば死ぬぞ!! 生き延びたくば敵を退けろ!!」


自身の全力の剣技でさえ腕一本切り落とせなかったのを確認し、ライラが檄を飛ばす。


「応っっ!!」


兵士達がそれに応じて声を上げる。


途轍もない強さを見せるリセイを当てにするのではなく、自分達は自分達で目の前の敵を倒すことを目指す。


でなければ、リセイ一人に頼ることになり、当然、手が足りなくなる。


加えて人間は、誰かを当てにして頼ろうと考えると、つい手を抜いてしまう癖がある生き物だ、これにより自身が持つ本当の全力を発揮できなくなることもある。本当の全力を発揮してやっとの相手にそんな考えでは犠牲者が出るだろう。それでは駄目なのだ。


自分達とてこういう時のために鍛錬を積んできた。だからアムギフさえ退けることができた。ならば今回も倒せない道理はない。


ジュオフスは数は多いが、一匹一匹の強さはベルフにも劣ると言われている。厳しい鍛錬を積んで鍛え上げられた者であれば、必ずしも遅れを取るわけじゃないとも。


数も、自分達より若干多いだけだ。ならば、確実に一対一を心掛け、一人一人が死力を尽くせば必ず勝機はあるはずだ。


そしてライラはリセイにも指示を出す。


「リセイ! お前も目の前の敵に集中しろ! 決して私達を助けようなどと思うな! それは隙を作り、結果として仲間を危険に曝す! 私達は私達で何とかする! 私達を信じろ!!」


普段は頭ごなしに『信じろ』などと言われてもそんな気分にはなれないが、この時ばかりは言われたとおりにするしかなかった。


一匹一匹の手応えは大したことがなくても、数が多い。あちらこちらに意識を分散させていては間違いなく対応しきれなくなることはリセイにも分かった。


「了解です!!」


ライラの指示にそう応え、


『僕が確実に数を減らします! 皆さんはそれまで持ち堪えてください!!』


強くそう考えた。


『焦るな! 一匹ずつ確実に倒せ!! みんなあの厳しい鍛錬を重ねてきたんだ! 大丈夫!! 必ず勝てる!!』


そう自分に言い聞かせ、目の前のジュオフスに一切の手加減なく一撃を加えていく。


樹上を飛び回りながらの戦いなこともあって、<蟷螂拳>での戦い方はまったく思い付かなかった。だからとにかく体が勝手に動くに任せた。力加減なんて思いもよらない。


自分に出せる全力の蹴りを顔面に叩き込むと、太い木の幹に挟まれたジュオフスの顔の骨がぐしゃっと潰れる感触があったが、それを気にしている余裕もない。


『戦え! 戦え!! そのために僕はここにいるんだ!!』


何度も自分に言い聞かせ、リセイは全力を発揮したのだった。


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