試練

『試練とは、どんなものですか?』


リセイの問い掛けに、ルブセンは静かに応えた。


「別に難しい話ではない。つまりお前がこの街にとって益となる人間であることを示してくれればよいのだ」


「……?」


そうは言われてもさすがにすぐにはピンとこない。戸惑っているのが顔に出ているリセイに、改めて説明される。


「では、まず、ここにいるライラと手合わせしてもらおう。それによってお前がどのようにして身の証を立てられるのかを見定めさせてもらう」


ルブセンが言うと、彼の脇に控えていた騎士らしき人達の中から、つい、と歩み出た人物がいた。執務室で彼が、リセイを連れてくるように命じた女性だ。


太い眉。真一文字に結ばれた唇。髪は短く整えられ、細身ではあるものの一見しただけでもしっかりと体の筋が真っ直ぐ通っているのが分かって、明らかに『強そう』だ。


「そんな、騎士様とだなんて、酷いです……!」


ティコナがそう声を上げたのも無理もない。王から信頼されている優秀な政務官に預けられている騎士ともなれば、それこそ強さは折り紙付きだった。


確かに、トランが相手なら苦も無く勝てた。トランの強さなんて、ただの喧嘩自慢程度でしかないのはティコナにさえ分かるくらいなのだから、勝ててもそれほど不思議じゃなかった。


だけど騎士は違う。厳しい修行を重ねた上でさらに選ばれた者だけがなれるものだというのは子供でも知っている。対してトランはまだ、兵士見習いにさえなれていないのだ。


けれどルブセンはもう、ティコナには視線さえ向けてはくれなかった。彼女の言葉は届かない。


するとリセイは、


「大丈夫だよ。うん、大丈夫。心配しないで」


穏やかに微笑みながら言った。何の根拠もなかったけれど、自分でもすごく落ち着いているのが感じられていた。


『僕は勝てる。って言うか、あの人に怪我をさせないように勝たなくちゃいけないな』


と、当たり前のように考えられる。


だからライラと呼ばれた女性の前に歩み出て、立つ。


『強いな、この人……あのトランとかいうのとは全然違う。見てるだけでも分かるよ』


などと考えていても不思議と怖さがない。


そうして向き合った二人に、兵士が<剣>を手渡す。


剣と言っても、見た目にも木でできているのが分かる、稽古用といった感じのそれだった。なのに、


『重っ!?』


手にした途端にリセイは思った。竹刀なら学校で、木刀なら修学旅行に行った時にお土産屋で、持ったことはあったものの、それらよりもはるかに重かったのだった。


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