敢えて道理を

ルブセンはこの国の王に信頼されている地方政務官だった。そして彼は、その信頼を得るに足る有能な人物だった。


人を見る目も確かで、だからこそ地方の都市の全権を預かる政務官の役目を与えられた。


その彼の目から見ても、リセイに悪意があり、それによってトランを貶めようとしていたとは見えなかった。


となればやはり、非はトランの方にあると見るのが自然だろう。


一辺二キロ程度、人口一万人弱のこの街では人の繋がりが濃く、ましてやトランの親族が何人も兵士をしていることもあり、ルブセン自身、まったく知らない相手でもなかった。


そんなルブセンから見たトランは、なるほど確かに年齢の割には多少は腕も立つのだろうが、同時に、自身の才覚に溺れ、いささか増長している部分も、周囲の人間への態度を見ているだけで察することができた。そんなトランに比べてこのリセイという少年は実に高潔で理をわきまえているように見える。


だが、人間の集団を統治するというのは、ただ筋道だけを立てていれば成立するというものでないこともまた事実。


時には敢えて道理を曲げることもなければ、人心はついてこない。


ルブセンはそういうこともしっかりと承知している人物だった。


だからこそ、


「リセイとやら。なるほどお前の言うことは道理だ。しかし、私はこの街を王より預かっている身。余所者のお前より臣民を遇さねばならない。


よってお前に試練を課す」


と告げた。


「そんな、ルブセン様!」


ティコナが泣きそうになりながら抗議する。


すると今度はリセイが、


「いいんだ、ティコナ。これで」


と彼女を制した。


「リセイ……」


リセイとしても彼女の気持ちはとても嬉しかった。でも、だからこそ彼女に迷惑が掛かるのは嫌だった。


だとしたら、


「試練とは、どんなものですか?」


ルブセンの言うそれをこなすしかなかった。


もちろん、すごく不安はある。どんなことをさせられるんだろうとも思う。なのに、不思議と『怖く』はなかった。なんとかなりそうな気がした。


ここまでで<能力>について何となく分かってきたような気がした。


ただしそれも、本当に『気がしている』だけで、実は何の根拠もなかった。


けれど、それでよかった。それこそがこの能力の本質だった。


リセイは無意識に自身の能力の本質を会得しつつあった。


もっとも、それもこれも、


『ティコナに迷惑を掛けたくない』


という想いからだったけれど。


どうやらリセイの場合は、


『他人に迷惑を掛けたくない』


と考えた時にもっとも意識が収斂されるようだ。


こうしてリセイは、ルブセンの言う<試練>を受けることになったのだった。


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