審議

などとリセイ達があれこれ考えている一方で、トランが、オトィクを治める<役人頭>であるルブセンに、


「余所者に尊厳を傷付けられた!」


と訴え出たことで、ティコナが報告したベルフのことも含めていささか緊張した空気が漂っていた。


ルブセンに預けられている兵を動かしてベルフ捜索を行ったもののここまでで発見できていないこととも合わせて、


「これは一度、詳しく話を聞かなければならないな」


髪型も服装もきっちりと整えられ、いかにも<生真面目そうな役人>といった風貌のルブセンが眉間にしわを寄せて、彼の前に控えていた女性に話し掛ける。


それを受けて、皮の鎧をまとい腰に剣を帯びた、太い眉が意志の強さを表している女性は、


「は! では早速そのように!」


と告げて部屋を出て行った。


こうして、リセイとティコナは、ルブセンの前に立たされたのだ。


テラスのようになった部分にルブセンが座り、兵士が並ぶ庭にリセイとティコナが立たされる。


その二人に向けて、ルブセンが声を掛ける。


「マルムの森でベルフが出たという申し出を受けて兵に捜索を行わせてみたのだが、見付けられなかった。ゆえに、改めてその時の状況を詳しく説明して欲しい」


『ああ、これは疑われてるな……』


リセイはそう思ったものの、ティコナは素直に自分が遭遇したことを丁寧に説明する。


そんなティコナをルブセンは黙って真っ直ぐに見詰めていた。彼女の僅かな表情や仕草も見逃すまいとするかのように。


すると、話し終えた彼女に、ルブセンは、


「うむ、分かった。どうやら嘘を吐いてるわけではないようだ。お前の様子からは嘘を吐いている者の気配がしなかったからな。手間を取らせてすまなかった。


では引き続きベルフの捜索は行わせよう。逃げ去ってくれたのであればそれにこしたことはないしな」


生真面目そうな表情は崩さなかったものの口調は丁寧で、この種の支配階級の人間にありがちな横柄さは感じられなかった。


だから、


『役人に引っ立てられた』


と感じていたリセイも、少しホッとする。余所者の自分はともかく、自分と関わったことでティコナがあらぬ疑いを掛けられるのは嫌だった。


けれど、次の瞬間、


「!」


ティコナに向けられていたものとはまったく違う視線を向けられ、リセイの体に緊張が走る。


「お前がリセイか……」


掛けられる声の調子も違う。さすがにティコナも不穏な空気を察し、不安そうに、


「ルブセン様、彼は私を助けてくれたんです! 悪い人じゃありません!」


と擁護しようとするものの、それをルブセンは手をかざして制し、


「私は今、この者に問うているのだ。その判断は私の専任事項だ。黙っていなさい」


命じたのだった。


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