家族会議

リセイがトランを退けたことについて、早速、ティコナの家では<家族会議>が開かれた。


店のメニューの仕込みを行いつつだけれど。


「リセイってホントに勇者様なんじゃないの!?」


頬を染めながらティコナは迫るものの、リセイ自身は、


「あはは、まさか…!」


と首を横に振るしかできない。でもティコナの母親のミコナも、


「勇者様をお迎えできたなんて、光栄の至り♡」


などとノリノリだ。


一方、同じ転生者であり先輩に当たる、ティコナの父親のシン(真一郎)は、


「どうして君はそんなに強いんだい?」


と素直な疑問としての問い掛けをしてきた。


「もう、お父さん! そんなの勇者様なら当然だよ!」


「そうですよ。勇者リ=セイだって生まれついての勇者だったそうじゃないですか」


ティコナとミコナはそう言うものの、現代日本から転生してきたシンにとってそういう考え方は<宗教>のようなものなので、素直に納得はできない。あからさまに口に出して否定はしないものの、鵜呑みにはできなかった。


そんなシンの問い掛けにも、リセイは、


「分かりません。僕にも何がなんだか……」


そう応えるだけだった。


しかし同時に。


「でも……」


「でも…?」


「僕がここに来る時に、神様らしい存在ひとに、


<どんなことでも結果的に自分の思うとおりになる>


っていう力を授けられたらしいんです。もしかしたらその力のおかげかもしれない……」


戸惑いながらもそう応えたリセイに、


「ほら~! やっぱり神様に選ばれた勇者様じゃ~ん♡」


「すごお~い!」


ティコナとミコナはテンションが上がる。そんな二人とは裏腹に、シンは鍋をかき混ぜながら、


「僕の時にはそういうのなかったけど……」


と言った。


シンも、現代日本で育っただけあってそれなりにアニメなども見てきている。二十年前となると今ほど<異世界転生もの><異世界転移もの>が溢れていたわけじゃなかったにせよ、その手の話がないわけでもなかった。だからいろいろ察してしまうし考えてしまう。


「神様の方でもいろいろ事情が変わってきたのかもしれないな」


などと推測する。


「あ、そういうことなんでしょうか?」


リセイも『かもしれない』と納得する。


もっとも、実はそんなちゃんとした理由ではなかったけれど。


「いや、だって何の能力も持たせずに放り込んだって何にも起こんないんだもん」


そう。特別な力も与えずということだとその世界に馴染むだけで手一杯で、世界をかき回すようなことは起こらなかった。


世界を大きく動かすような人間は、結局、元の世界でも大きな影響を与えるほどの力を元々持っていたのだ。


そういうのを一切持たない凡夫では、<チート能力>でも授けない限り、シンのように普通の生活ができるようになるのが精一杯だったのである。


とは言え、そんな事情を知るはずもないシンやリセイは、


『何か深い事情があるのかもしれない』


などと深読みするしかできなかったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る