その4

 連中が入っていった入り口には、金ピカの板で『VIP ROOM』のプレートが下がっている。


 俺は構うことなく奥へと入っていった。


 するとそこにはもう一つドアがあり、そこには痩せた目つきの良くない、カマキリみたいな顔の男が俺を睨みつけ、


『お客さん、トイレならあっちだよ。ここは普通の客は入れないんだ。』


 奴はそういいながら、何やら懐から光るものをちらつかせた。


 俺は奴の警告を無視してドアノブに手を掛けた。


『お前耳があんのか?!』


 カマキリは声を荒げ、妙に刃渡りの長いナイフを引っ張り出し、俺の鼻の前に刃先を突き付けた。


『・・・・』俺はその腕を掴んでねじり上げ、カマキリを壁に叩きつけた。


『声を立てるなよ。俺だってお前さんの手首ぐらい楽に折れるんだぜ?』


 それでも奴は『畜生』だの『舐めやがって』だのと威勢のいい声を上げたが、俺はナイフをもぎ取って床に落とし、手首を放しざま、拳銃を引き抜いた。


『俺はこういうものを堂々と持っていい商売なんだ。これ以上抵抗すると、本当に痛い目に遭うぜ?

 拳銃を握ったまま、俺は奴の顎に正面からエルボーを叩きこんだ。


 鼻血を吹きながら、カマキリは床にへたり込み、そのまま倒れる。


 俺がドアを開けると、そこは確かに『ⅤIP ROOM』に相応しい、装飾でごてごてした部屋だった。


 中にいたのはあの『五人組』の外に、ケバイ化粧をした若い女、それにどこからどう見ても『その筋』にしか見えない太った中年男がいた。


 ガラスのテーブルの上には、ここ何年かお目にかかったことがない高い酒が並んでいる。


『なんだ?てめぇは!』


 俺は何も言わずに銃口を上に向け、一発発射する。

 女たちは絹を裂く・・・・いや、そんな上品なもんじゃないな。


 安物の化繊でも引き裂くような悲鳴を上げる。


『野郎!』


 中年男が懐から拳銃を抜く。


 だが、俺はそれよりも早く、奴の足元に向けて一発発射した。


『それくらいにしといたらどうだ?あんたの腕じゃ俺は殺せないぜ。』


 俺は大股で男に近づくと、易々と拳銃をもぎ取った。


『思ったとおりだ・・・・まるでブリキの玩具だな』


 俺はイキがって酒を食らい、洋モクをふかしていた五人組に、


『さあ、行こうか?俺は君たちを連れに来たんだ』


 と声をかける。


 連中は顔を見合わせていたものの、大人しくいう事に従った。


『ま、待て、テメェは一体何もんだ?』中年男が俺に問いかけた。


新宿ここで仕事をしてるのに、俺の顔を知らないんじゃ、大したことないな』


 俺は言いながら拳銃をしまい、代わりに認可証ライセンスとバッジのホルダーを出して突き付けた。


『警察に言うなら言ってもいいんだぜ?もっとも俺も一応公的な免許のある身だからな、お前さんたちの事をあっちにチクらなきゃならなくなるが?』


 奴は苦虫を噛みつぶしたような表情で、手首をさすりながら俺の方を見上げた。




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