その3

(なんだ。地元じゃないか)

 俺は呆れてしまった。


 五人組は、教師センコウの目が届かなくなったのをいいことに、学校から離れると、制服のまま堂々と二台のタクシーを停め、それぞれに分乗して向かった先が俺の地元・・・・つまりは新宿だった。


 俺がガキの時分には・・・・なんて口にすると、随分年寄り臭く聞こえるもんだが、中高生が自分達だけでタクシーなんか使おうものなら、乱暴な運転手に、

(ガキが生意気にタクシーなんか使うんじゃねぇ!)と、怒鳴られたものである。

 ここから新宿まで、都バスか地下鉄を使っても、せいぜい20分ほどの距離だというのに、奴らは豪勢に二台も使っているのだ。

『時代は変わったな』

 俺は後からやってきた別の一台の後部座席で、誰言うともなく呟くと、気の良さそうな中年の運転手が、


『旦那、この節は中坊だって捨てたもんじゃないですよ。ああみえてあの連中、いつも財布の中に万札がぎっしりだ。金さえあれば誰であろうと客は客ですからね。』


 苦笑しながら話してくれた。


 五人はJR新宿駅の西口近くでタクシーを降り、後は歩きのようだ。

 

俺も彼らより十分に離して停めて貰い、後をつけ始めた。

 

 五人は車から降りると、前と同じように一塊になって、駅ビルの中に入ってゆく。


 幾らなんでも制服のままじゃ目立って仕方なかろう。


 といって昔のスケバンじゃあるまいし、コインロッカーか駅のトイレで着替えと言うわけでもないんだろうが・・・・


 彼らはなんてことのない、ごく自然に駅ビルを抜け、そのままいつのまにか裏通りへと入ってゆく。


 時刻はちょうど午後四時半を回ったところだ。


 連中が入っていったのは、某雑居ビルの二階、今や繁華街ではどこでも見かける『』という店だ。


 探偵でメシを喰っているんだ。

 そこがどんな店なのか、凡その察しはつく。

 

 制服姿の中学生が五人も店に入ろうとしているのに、入り口に立っているプロレスラーのようなのバウンサー、つまりは用心棒は、薄笑いを浮かべただけで、特に何も言わずに五人を店の中に入れた。


 続けて俺が入ろうとすると、

『おい、ニイさん、待ちな』

 と、少々巻き舌の日本語で凄んできた。


『呆れたもんだね。制服姿の中学生は止めないで、いい年のおっさんに難癖をつけようってのか?』


 俺はそう言って、黙ってプロレスラーに福澤諭吉を握らせる。

 札びらを切るのは趣味じゃないが、こんなところで悶着は起こしたくないからな。


 俺から札を受け取っても、まだ奴は胡散臭そうな顔をしていたが、仕方ないといった顔つきで、

『入れ』


 というように首を振った。


 店はまだ開店間際のようで、これほどの店だというのに、まだ半分も埋まっちゃいなかった。


 店員も、客たちも、プロレスラーと同じようなもので、俺には妙な視線を向けるのに、制服姿の五人には、当たり前のような表情で、女の客の中には、妙に媚びたような愛想笑いで迎える者もいる。


 俺は黙って隅の開いている席に腰を下ろした。


 それでも時間が経つと、少しづつ客が埋まり始める。


 やがて、ド派手な音楽とミラーボールが煌めきはじめ、中央のフロアーでは、女や男たちがリズムに合わせて踊り始めた。


 あの五人組は、そんな店の様子には殆ど関心も示さず、店の奥へと消えていった。


 俺は不愛想なバーテンが置いて行ったビールに少しだけ口をつけると、黙って立ち上がり、踊っている連中を縫って、五人組の後を追った。




 

 





 


 

 



 


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