その2
滝沢先生の依頼とは、こんなものだった。
彼女は今、都内にある某私立中学に英語の非常勤講師として勤務している。
その学校は、ランクとしてはそれほど低くはない。有名高校への進学率も高い。
だが、やはり『いじめ』は横行していた。
特にある種のグループが、校内を我が物顔でのし歩いていて、どうにも手がつけられない。
彼らは気の弱そうな生徒を仲間に引き入れ、
それがますますエスカレートしてきて、最近では『恐い連中』の下働きにまで
駆り出されているらしい、
彼女もそれは分かっていたが、それでも何とかしてみようと学校と話し合いを持ったが、梨のつぶてであった。
(たかが非常勤講師のくせに)
口に出してこそ言わなかったものの、連中の態度は見え見えだった。
『子供の為とか、教師としてとか、そんな格好のいい話じゃありません。でも、自分が教えた生徒が、みすみす悪くなってゆくのを黙って見過ごすわけにはゆかないでしょう?でも私には彼らを止めるだけの力もありません。悔しいけど・・・・だから彼らをこれ以上犯罪の深みにはまらないように防いでやりたいんです。』
そこで思い出したのが俺だという。
俺は黙って一通り話を聞き、コーヒーを飲み、シナモンスティックを咥えた。
『分かりました。料金は基本が一日六万円、他に必要経費と、あと、拳銃など武器を使わねばならないような場合が想定されるなら、先にそうおっしゃってください。危険手当として、四万円の割増料金を付けます。後はこの契約書を読んで、納得出来たらサインをお願いします』
本来なら、もう学校やら
翌日、俺は足立区にあるその学校に出かけた。
とはいっても、流石に中には入れない。
校門の真正面、道路を挟んで反対側のポストの傍らに立ち、ちょうど放課後、チャイムの音と共に吐き出されてくる生徒の姿を見守った。
俺達が学生の頃とはすっかり違うな、そう思った。
最近では男も女もブレザーにネクタイという、いってみれば粋なスタイルに変わっている。
違いがあるとすれば、男子はチェックのズボン、女子は同じ柄のプリーツスカートというくらいのものだろう。
間もなく、俺の目指す一団が現れた。
滝沢先生の教えてくれた通り、男ばかり5人だった。
背が高く、やけに生意気そうな顔立ち=こいつが三年の菅沼。
相撲取りにでもしたら良さそうな体格をして、髪を鶏のトサカみたいに逆立てた奴=同じく三年の遠藤。
顔中ニキビだらけで、キュウリみたいにやせこけた目の釣り上がった中背=二年の有坂。
眼鏡をかけた気の弱そうな顔だち=一年の今津。
極端に背が低く、まだ中学生、いや小学生でも通用しそうだな=同じく一年の小林。
彼らは一かたまりになって、何やら小声で喋りながら歩いて駅の方に向かってゆく。
俺は距離を一定に保ちながら、後をつけ始めた。
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