第14話 最後の勝負


―――


「安西組と藤島組は昔から仲が悪いので有名だった。けど三代目の俺らは幼馴染みで、仲が良い友人同士だったんだ。現役時代もお互い協力し合ってこの町の治安を守っていた。こいつらはずっと納得してなかったがな。」

 そう言ってボスは海の方を向いた。俺もつられてそっちを見る。


「だがあいつは俺に何も言わずに突然辞めた。あの女の為に今まで努力して登り詰めた地位を簡単に捨てたんだ。それが許せなかった俺はあいつをここに呼び出した。でもあの日……あいつが海に投げ出された時、俺は目が覚めた。バイクから飛び降りて助けに行ったらあいつ笑いながら、『大丈夫だ。家で家族が待ってるから帰るな。勝負はお前の勝ちだ。』って言ったんだ……」

「父さんがそんな事を……」

「次の日あいつが死んだって知って俺はすぐに家に行った。そしたらお前の母さんが出てきて『主人が色々とお世話になったって聞きました。今日は来て下さってありがとうございます。』ってさ。それを聞いて俺は足を洗う事を決意した。今じゃ真面目にやってるよ。」

「その割に雰囲気出してたけどな。」

 俺が思わず突っ込むとボスはガハハと大口を開けて笑った。


 それにしてもあの時何があったのか、本当の事が聞けて良かった。父さんが傷ついてるのに俺は何も出来なかった。ただ泣くくらいで。

 母さんが思ったよりしっかりとしていた記憶があったけど、それはボスと会ったからなのかも知れないと思った。


「あいつの死が俺のせいなのは変わらない。お前をここに連れて来たのは、罪ほろぼしのつもりだったんだ。まぁ、俺のエゴだがな。」

「そっか。」

「俺の事を許してくれとは言えないが、あいつの為に本当の事を言わないと後悔すると思ってな。」

「いいよ、ボス。父さんが恨んでないなら俺が恨む必要ないもんな。」

「本当に許すのか?」

「あぁ。ただし条件がある。」

「条件?」

「父さんとボスがやったゲームってどういうやつ?それを俺とやって俺が勝ったら許してやる。」

「あれは危険だぞ!どちらがバイクで海岸ギリギリまで行けるかのゲームなんだ。もちろん全速力で。俺はあの時ビビっちまって大分手前で止まってしまったが、あいつは勢い余って海に……お前まで落ちたら俺は……」

「大丈夫だ。俺は死んだりなんてしない。父さんが見守ってくれるから。さっ!やるぞ。」

「ちょっ……!お前バイク乗った事ねぇだろ。大丈夫なのか?」

「乗った事はあるぜ。止まってるバイクならな。」

「え……?」

 俺の言葉に優が呆気に取られたように固まった。




―――


「はぁ~つっかれたぁ。」

「涼!」

 被っていたヘルメットを外すと真っ先に優が駆け寄ってくる。俺は優に聞いた。

「どっちが勝った?」

「お前だよ。ったく……ホント無茶するよな。」

 優が苦笑して前方を顎で示す。視線を辿るとすぐ目の前に海があった。

「うわっ!マジでギリギリだな。今更恐くなってきたよ。」

 俺は震え始めた足を押さえながら言った。


「流石はあいつの息子だな。俺の完敗だ。」

 ボスが近づいてきた。俺は腰に手を当ててふふんと笑った。

「当たり前だよ。父さんの子どもなんだから。」

「さっきバイクを走らせながら思ったよ。前を走るお前の姿が昔のあいつにそっくりだって。俺はずっと追いかけてたのかもな。あいつの後ろ姿を……」

「ボス……」

 ボスの目から光るものが落ちる。俺は地面に膝をついて項垂れるボスの肩に手を置いた。


「……ん?ちょっと待てよ?さっきから俺の事『ボウズ』とか『息子』とか言ってなかったか?」

「ん~~?言ってたような言ってなかったような……」

 優が惚けた顔でそっぽを向く。それを見た俺は確信した。


「絶対言った!おい!言っとくけどな、俺は正真正銘女だ!!」

「え"!?」

「てめぇ!何だその『え"!?』っていうのは!本気で俺の事男だって思ってたのかよ!やっぱり許さねぇ!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 ボスの胸ぐらを掴んで殴りかかる。優が慌てて止めに入った……




―――


 知らなかった、知ろうとしなかった事実を知れて良かったと思う。あのまま何も知らずにいたら俺はずっとあの日の悪夢に苛まれていたと思うから。


 父さんは最後まで勇敢で優しくて家族想いの人だった。それがわかっただけでも本当に良かったと思う。ボスに感謝だな。


 俺はこれから母さんの為に優達と共に生きていく。父さんのように勇敢に、そして強く逞しく――



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