革命5 命懸けの邂逅
第13話 突然の来訪者
―――
――数日後
母さんのお陰でかすり傷程度だった俺だが一応数日は入院。そして今日退院して無事に学校に復帰した。
「涼、退院おめでとう!」
教室に入るなり奈緒が俺の顔目掛けてクラッカーを鳴らす。
「うわっ!……ゲホッ…ゴホッ……何すんだよ、奈緒。」
「何って、涼が学校に戻ってきたお祝いだよ。」
「んな大袈裟な……」
顔にかかった紙テープを退けながら自分の椅子に座る。奈緒は小走りに近づいてくると俺の机の前に立った。
「大袈裟じゃないもん。あたし本当に心配したんだよ?涼が怪我したって聞いて心臓止まるかと思った。お母さんの事だって……あ、ごめん……」
奈緒が慌てて謝る。俺はくすっと笑いながら言った。
「いいって。気にすんな。まだ意識は戻ってないけど命は助かったんだから。」
「うん……」
「俺、決めたんだ。母さんが目を覚ますまで頑張るって。俺には奈緒も優も希もいる。だから何年かかろうが母さんの事待っていられるんだ。」
「涼……何か変わったね。」
「え?」
「前から強かったけど、ますます強くなった。格好良いね!」
「まーね。」
照れ隠しでウィンクなんてしてみる。すると奈緒はいつものように目をハートにした。
「でも凄いなぁ。涼のお母さん。」
「何が?」
「愛する息子……じゃなかった、娘の為に崖に飛び込むなんて。」
「あぁ、そうだな。」
「例え自分の命を犠牲にしてまで子どもを守る。それこそが親の愛なんだろうね。」
「俺……大人になって子どもが出来てもしその子どもが死にそうになったら、命を懸けてでも守るだろうな。」
「うん。あたしもそうすると思う。」
窓から見える雲一つない空を見上げて、俺達は遠い未来に思いを馳せた。
―――
「キャーー!?何あれ?恐いんだけど。」
「げっ……何だよ、あいつら。ヤバいんじゃないの?警察呼んだ方がいいんじゃね?」
放課後、グラウンドや昇降口の辺りから騒がしい声が聞こえた。
俺は自分のクラスの窓から何事かと覗くと、校門の所にバイクに乗った黒づくめの集団が屯していた。
「なぁ、優。」
「ん?」
「何だ?あいつら……」
「さぁ……でもあの雰囲気、普通じゃねぇな。」
「そうだな。よし、行ってみるか。」
俺は優と頷き合って早速校門へと向かった。
「おい、オッサン。」
「あ"ぁ"ん?」
気軽に声をかけるとドスの効いた声が返ってきた。
「オッサン達ここで何してんの?通行の邪魔なんだけど。」
「こいつ……」
「通してくれないと俺ら家に帰れねぇんだけど。それとも警察に言って強制的に退かしてもらうか。」
「ま、待て!」
一番先頭にいた図体のでかい奴が慌てて俺の肩に手をかける。
「何?汚い手で触らないで欲しいんだけど。」
「お前……安西涼だな。」
「そうだけど。オッサン誰?」
「ちょっと話したい事があるんだが……」
そのオッサンの意味深な言い方に、俺と優は顔を見合わせた。
―――
連れてこられたのは古びた倉庫のある海岸だった。
「こんな所に連れて来て何の用?オッサン。」
「オッサン、オッサンってさっきから失礼だな、このガキ。この方はかの有名な『藤島組』のボスだぞ。」
「藤島組?……あぁ、父さんを殺したのってお前らか。」
「え?おい、涼!どういう事だ?親父さんを殺したって……」
「父さんはこいつらにやられたんだ。警察は父さんはバイクの単独事故で死んだって言ってたけど違う。こいつらは父さんを……『安西組』を潰したんだ!くそっ……!」
俺はそのボス目掛けて殴りかかった。が、反対に手下達に取り押さえられた。
「離せよ!」
「よく聞け、ボウズ。あいつは自分で死んだんだ。確かに安西組とうちはしょっちゅう揉めてたさ。だがあの日、お前の親父が一人で乗り込んできて命を懸けてゲームをしろと言ってきた。それに俺は応じただけさ。あいつはここで自分で海に突っ込んだんだよ。バイクごとな。ハハハハ!」
「そ、そんなの嘘だ!」
「嘘だと思いたければそう思えばいい。俺はただの人になりやがったあいつが憎かった。潰してやりたいくらいにな!」
ボスがそう言うと、俺を押さえていた一人がナイフを突きつけてきた。そしてもう一人が銃を取り出して優に向けた。
「……優!」
無意識のうちに手が出ていた。俺の肘がそいつの鳩尾に綺麗に決まる。銃は飛ばされて丁度よく優の足元に落ちた。
「優!早くそれをどっかに……」
俺の動きが止まる。ナイフを突きつけていた奴も体を強張らせた。何と優がその銃を取ってこっちに向けていたのだ。そして躊躇いもなく――
パーーーーン!!
銃声が辺りに……って何か乾いた音がしたような……
「あ、あれ?」
「バーカ。これは偽物だよ。いくら俺でも本物撃つ訳ねぇだろ。」
閉じていた目をうっすらと開けると優が銃をくるくる回しながら言った。
「何で偽物ってわかったんだ?俺には見分けつかないんだけど。」
「持ってみりゃわかるよ。軽いもん、これ。」
「そうなんだ……ビックリさせんなよ、もう……」
力が抜けて座り込む。その時気づいた。押さえつけられていたはずなのに体が軽い事に。
「……って、こいつら気絶してるし。」
周りを見ると手下達が全員倒れていた。立っているのはボスだけ。
「お前もお友達も肝が座ってるな。まったくこいつらは……いくらブランクがあるとはいえ、こんな子どもにしてやられるとは藤島組も地に落ちたな。」
ボスが苦笑しながら近づいてくる。俺と優は呆気に取られながらボスを見上げた。
「俺達はとっくの昔に足を洗ってるんだ。銃もナイフも俺が偽物に代えた。こいつらには本物と言ってたがな。」
「どうしてこんな事を……」
「ボウズに本当の事を話す為だ。しかし元といっても俺は藤島組の組長。安西組の跡取りになるはずだったお前に一人で会いに行ったと知れたらお前が後で何かしらの報復を受けるかも知れないだろう。だからこんな真似をした。恐がらせて悪かったな。……まぁ、全然動じていなかった様だがな。」
「これでも結構ビビってたけど。」
俺がそう言うと、ボスはうっすらと笑った。
「あいつにそっくりだ。……これから本当の事を話す。あの日、何があったのか。」
ボスの表情が引き締まる。俺は隣にいた優の左手をぎゅっと握った。
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