第9話 親友の恋 その後
―――
数日後、奈緒と昼メシを食っている時、俺はまた突拍子もない事を言われた。
「あたし恋しちゃったみたい……」
「ブーーーー!!」
「わ、きたない……」
「……はぁ?」
「恋…それは素晴らしい……」
「あーあ、目がイっちゃてるよ……」
「真面目に聞いて!」
「はいはい。今度は誰だよ。」
「涼!」
「ふ~ん……」
俺は軽く聞き流してウインナーに箸をつけた。
「…………え゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙!俺!?」
「なぁ~んて、う・そ♪」
「だあぁぁ!」
「ナイスリアクション!」
「うっせぇ!……ってそれより人をからかうのもいい加減にしろよな。ったくもう……!」
「そんな怒んないでよ。」
「……で?本当は誰?」
「あのね……希なの。」
「へぇー希ねぇ………ええ!?希?」
「そんなに大きい声出さなくてもいいじゃない。」
「すまん。でも何で希?」
「実はね………」
奈緒は完全に瞳をハートにしたまま、語り出した。
―――
(何とも思ってないなんて嘘に決まってるじゃない……バカ……)
あの日涼と優君を路地裏に残したあたしは、そう思いながら表通りを走っていた。
そしたら自分でも気づかずに、赤信号なのに道路を渡っていた。
「あぶない!」
「きゃっ……!」
何処かで声が聞こえたと同時に、誰かがあたしの手を引っ張って歩道に倒れ込んだ。
「ばかやろー!気をつけろ!」
トラックの運転者さんの怒鳴り声と車のクラクションが辺りに響き渡る。
体を起こしたあたしは、茫然とその場に座り込んだままだった。
「びっくりしたー……」
呟いた時、不意に動かした手に何かの感触がして慌てて振り返る。
「え……」
あたしは全身に寒気が走った。人が……血まみれで倒れていたからだ。
「うそ……もしかしてこの人、あたしを助けて……?」
差し伸べた手が震える。あたしはそっとその人の顔に手を当てた。
「あの……」
まさか死んだりなんてしてないよね?って思いながら呼びかけてみた。が、反応はない。
あたしはどうしたらいいかわからないので、とりあえず体を揺さぶってみた。
「あの、起きて下さい。もしもし?もしもし?」
「う、ん……」
「あ……!」
必死(?)の呼びかけの末、その人がついに声を出した。
それが嬉しくてあたしは大声で叫ぶ。
「大丈夫ですか!?どこか痛い所は?…あ、お腹すいてません?何か食べます?」
「…うるさいなぁー……」
「は?」
「だからうるさいって言ってんだよ。」
その人はよっこらせと起き上がってあたしを見下ろした。
「あ……希!」
「今頃気づいたのかよ、バーカ。」
「え、あれ?何か雰囲気違くない?言葉遣いもいつもの希らしくないし……何で?どして?」
「あぁ。これが俺の本性っつぅか。それより平気か?」
「あ、うん。あたしは全然平気だけど…」
チラッと希の血だらけのシャツを見る。
「あぁ、これ?大丈夫、大丈夫。大袈裟に血が出てるだけだ。怪我は大した事ない。」
「本当?」
「あぁ。」
「でも手当てだけはした方がいいよ。」
あたしはいつも持ち歩いている絆創膏を傷口にベタベタと貼ってあげた。
「何か……違うような…」
「え?何か言った?」
「いや……」
「よし、OK!ちゃんと血拭いてね。消毒もちゃんとして包帯とかで巻き巻きしてね。」
「わかった、わかった……」
「約束だよ。」
「うん。じゃあな。」
「助けてくれてありがとう。また明日!」
あたしは手を振りながら、遠ざかっていく希の背中をいつまでも見送っていた……
―――
「……という訳なの。」
「ふ~ん、あの希がね……あのウザイキャラがまさか作り物だったとは。」
「そうなのよ。もうちょ~格好良くてぇ~即ファンになったって感じ?」
「それより俺はお前の頭が心配だ……」
「へ?」
「いや……」
「あ、希発見!」
「え?あ、本当だ……ってはやっ!」
奈緒の姿はもう5㎞も先……というのは冗談で5m先。
「今度のはマジみてぇだな。」
俺はハートを飛ばしまくっている奈緒の姿を見ながら、頬杖をついて呟いた。
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