第7話 女でも守れるもの


―――


「きゃあああ!!」

 俺の耳に女の悲鳴が聞こえたのはそれから少し経った頃だった。


「何だ?今のは……」

「さあ……?と、とにかくちょっと様子見に行ってくる。お前はここで待ってろ、いいな!」

「あ、あぁ。」

 優が走っていった場所をしばらく眺めていたが、ふと重大な事に気づいた。


「もしかして、今の声……」

 急いで立ち上がって、傷む体を引き摺って表通りに出た。

 そこには野次馬ができていて、奥には優の姿と……


「奈緒!」

 呼ばれた奈緒は驚いた顔で振り向いた。

「涼!」

「今助けるからな、待ってろ!」

 奈緒は4~5人いる不良グループの内の一人から腕を掴まれていた。


「でもこっち来たら涼も危ない……」

「つべこべ言わねぇで大人しく待ってろ!」

「う…うん。」

「優!大丈夫か?」

 見ると優は他の奴らの相手をしてて、こっちに加勢出来そうもない。俺はさっき転んだ時にでも痛めたであろう右足を引き摺りながら、奈緒の腕を掴んでいる男を睨んだ。


「奈緒を離せ!」

「何だ?このお嬢さんの彼氏か?それにしては細っこいな。」

「……うるせぇ!離せっつってんだろ!」

 奈緒の手を掴んでいた男の手を払うと、そのまま奈緒の手を引っ張って走る。

 途端右足が悲鳴を上げたけど、俺は止まらず死物狂いに逃げた。


「ここまで来りゃ大丈夫だろ……」

 古い建物と路地裏の間に入った所で立ち止まる。荒い息を整えていたら、奈緒の短い悲鳴が聞こえた。

 ハッとして振り向くとさっきの奴がまた奈緒を捕まえていた。


「てめぇ……しつこいぞ!」

「お前、女だろ?」

「ぐっ……!」

「女なら女らしくしてな。まぁ俺はお前なんかよりこっちのお嬢さんの方が好みだけど。」

「奈緒を離せ!」

「嫌だ…って言ったら?」

「ぶっ殺す!!」

「涼!」

 奈緒の制止の声にも構わず、俺は男の前に立ちはだかった。


「威勢がいいねぇ、女のくせに。」

「その『女のくせに』ってやめろよ。女だって自分の大事なもんくらい守れるんだ!」

「涼……」

 奈緒を庇うように一歩前に出る。男は一瞬怯んだようだったが、すぐに余裕綽々な笑みを浮かべた。


「そりゃ失礼。じゃあ男気溢れる女勇者さん、これならどうかな?」

 男はそう言うと、ポケットからバタフライナイフを取り出した。


「……!」

 さっきの事を思い出して足がすくむ。

 さっきは一人だった。でも今は……奈緒がいる。奈緒を守らなきゃ……!


「どうした?手も足も出ないって顔してんな。」

「…奈緒、逃げろ!今のうちに……っぅ!」

「涼!」

「はぁ~…やりやがったな。ちっくしょ…!」

 ナイフが右手をかする。俺はそのまま地面に尻餅をついた。


「涼!奈緒!」

「優!」

 向こうから優が走ってくるのが見える。ホッとしたのも束の間、男の視線が優の方に向いた。


「あらら。騎士ナイト様のお出ましか。」

「てめぇ……よくも!くたばれ!」

「優!」

 ナイフを振りかざす男と、素手で殴りかかろうとする優。どっちが有利かは一目瞭然だった。俺と奈緒は思わず目を逸らした。


「……?あれ、優?」

「大丈夫か?涼、奈緒。」

「あ、あぁ…大丈夫。それより……」

「奴なら伸びてるよ。」

 優が後ろを振り返る。見ると、優の言う通り男はすっかり伸びていた。俺と奈緒は茫然と優を見つめる。


「気絶してるだけだ。それと警察呼んだからもう大丈夫。立てるか?」

「……うん。」

 優に立たせてもらう。そして後ろの奈緒を見た。


「奈緒、どこも怪我してないか?」

「うん。あたしは大丈夫。」

「良かった……」

 笑顔を見せると奈緒も微笑む。でもその顔はどこか曇っているように見えた。



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