第6話 休日の過ごし方


―――


 俺は今街のど真ん中にいる。何故こんな所にいるかというと、奈緒に頼まれちまったからなのだ。

 奈緒の奴、めでたく優にデートの約束を取り付けたのに一人じゃ心細いからって俺も同伴しろなんて無茶な事を言い出しやがった。だから仕方なくこの俺が出張ってきてる訳だが……


「はぁ~…何だかな~。しかも優もちゃっかりOKしてるし……」

 隣にいる優を見ながら呟くと、危うく目が合いそうになり慌てて目を逸らすが、


「何だ、涼?」

「いや、別に……」

 しっかりバレてました……


 俺はふと優の反対側の隣にいる奈緒を見た。

(あーあ、幸せそうな顔しやがって……。)

 心の中で文句を浴びせながら、今度は二人の事を観察した。


(何だかんだ言って似合ってるよな~。……もしかして俺ってお邪魔虫?)

「何じっと見てんだよ。」

「あ?え…あ、いや……あ、そうだ!俺ちょっと用事あるからさ。ここで帰るわ。」

「え?」

「じゃ……」

「お、おい!涼!」

「仲良くやるんだぞ。」

 呆然とする二人に笑顔で手を振ると、俺は狭い路地裏に入っていった。



―――


「何してんだろ、俺……」

「おい、ちょっと!」

 しばらく歩いていたら、後ろから肩を叩かれた。振り向くといかにもって顔の男が三人、俺の前に立っていた。


「……何か用?」

「へへ……にーちゃん金持ってる?ちょーっと貸して欲しいんだよね~」

「にーちゃん……?」

「は?」

「今、にーちゃんって言ったな。」

「言ったけどそれがどうした?」

「俺はな……言っとくけど女だ!!」

 バキィッ!得意のアッパーカットを喰らわせた。


「ざまぁみろってんだ。」

「てめぇ……よくもやったな!」

 残りの二人が一斉に向かってきた。俺は一人を交わしてもう一人の腹に蹴りを入れる。


「あと一人……」

「こいつ……!くたばっちまえ!」

「……え?」

 後ろから強く押されて倒れこむ。

「このガキ!」

 振り返って見上げると、ナイフを振り上げてこっちを見ている奴の目と目が合った。


(こいつ…ヤバい……!)

 俺は咄嗟に目を瞑る。だけどしばらく待っても何も起こらなかった。


「……?」

 薄く目を開けるとそいつは手を振り上げたまま、震えていた。急に怖くなったらしい。俺はそんな奴の様子を見て自分の理性が壊れるのを感じていた。


「……やるならさっさとやれよ!俺には恐いものなんて何もない!」

「……こいつ!」

「どうした?ビビったのか?情けねぇったらありゃしねぇな。」

「そんなにやられたきゃ、望み通りにしてやるよ。覚悟はできてんだろうな!」

「そんなのとっくの昔にできてるよ!」

「うわああぁぁぁ!!」

 鋭い光を放つ物体が俺めがけて落ちてくる。俺は諦めて目を瞑った。


 恐くなんかない。あの時、最大の恐怖を味わった。あれより恐い事なんてこの世には何もない。だから俺は……



「…涼!」

「誰……?」

「涼!」

「……優?」

「大丈夫か?目開けろよ!おい!!」

 俺は体を揺さぶられ、目を開けた。


「あ…れ?俺……」

「危うく刺されるところだったんだぞ?たくっ…無茶しやがって……」

「優……何でここに?」

「お前の様子がおかしかったから心配して来てみたら案の定……」

「ちっ!誰が助けろなんて言ったよ!それより奈緒はどうしたんだよ?」

「帰した。デートどころじゃねぇからな。……立てるか?」

 優が優しく手を差し伸べる。俺はその手を振り払った。


「何だよ。」

「お前、人の事馬鹿にしてんのか?」

「別に馬鹿になんてしてねぇよ。」

「だったら何で奈緒放ったらかしにして、こんなとこ来てんだよ。俺は一人でも大丈夫だった!」

「馬鹿はお前だよ!」

「え……?」

 優の手が俺の肩を掴む。その手があまりにも強くて俺は固まった。


「やけになんなよ!もっと自分を大切にしろ!」

「優……」

「…もしかして思い出したのか?あの時の事……」

「………」

 何も言えずに俯く。優のため息が聞こえた。


「あの時の事はそりゃお前にとってショックだっただろうし、忘れられない出来事なんだと思う。俺だってそうだよ。だけど、だからといって投げやりになるな!」

「優……」

「俺がついてるだろ?今までもこれからも。だから今をちゃんと生きろ。自分を大事にしろ。」

 優が俺を壊れものでも触るように抱きしめた。


「お前は一応、女の子なんだからさ……」

「……うん。」

「お前には俺がいるんだからさ。」

「あぁ……」

 俺は意識が朦朧とする中、優の体温を感じていた……



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