ドタドタドタキャン

 家に戻ってきた。親父が退職金でおっ立てた一戸建て。コンクリート敷きの庭には軽自動車が二台止まっている。が、今日は一台しかない。無いのはマニュアルの車だ。親父がどこか出かけているのだろうか。

 家にバックを置き、またすぐに家を出る。車の鍵を持って。タッチアンドゴー。同期の家まで迎えに行った。

「どこ行く?」僕は言う。「とりあえずコンビニ。煙草ねえわ」同期も言う。

「了」

 僕達は幹線道路を走っていく。途中でコンビニに寄った。幹線道路に沿ってあるコンビニは、駐車場が大きいから停めやすいので好きだ。僕はハイライトとミルクティーを買った。同期はいつものヴァージニアとストレートティーを買った。

「で、結局どこ行く?」また僕は聞く。「海でも行くか」返ってくる。海は逆方向だ。僕らは来た道を戻っていく。

「海行くか」


 海に来た。岸壁にはちらほらと人がいる。水がすぐそこに来るまで歩いていく。同期がコートのポケットから煙草を取りだした。それを見た僕も煙草を出す。同期はジッポーで火をつける。僕はバンジョーで火をつける。ポマードで固めた髪がなびいてしまいそうなほど強い風が吹いているから、中々火はつかない。二人同時に風上に背を向ける。回れ右。

 フィルターまでしっかり吸った僕は、煙草を海に向かって投げ捨てる。刹那、狙ったかのような向かい風が吹き、吸殻と灰が僕目掛けて飛んでくる。

 全てを諦めたチベットスナギツネのような顔にならざるを得ない。そして二人で笑うんだ。「バカじゃねえの」って。

 こうして適当に呼び出して、適当に海まで煙草を吸いに行ける友人がいて本当に良かった。心の底からそう思う。


 そのまま適当なファミレスに入り、お姉さんとの今後の対応を相談して解散した。結論は『2、3日待ってから連絡を入れ、細かい日程を詰める』というものだった。

 友人を送ったあと、一人で煙草を一本吸い、シャワーを浴びてベッドに入った。


 その夜、あろうことか僕は『明日起きたら体調が悪化したお姉さんからのSOSの連絡が来ないかな』等と考えていた。体調が芳しくない想い人の看病をしたいという願望と、本当に体調不良なのか、という品のない疑念が僕を最悪な想像に駆り立てた。

 やっぱり僕に恋愛、ましてや"人を愛する"ということは不可能なのかもしれない。如何せん僕はエゴに塗れすぎている。自覚していてもどうしようもない。

 多分、僕はずっとエゴイストだ。変われない。変わる努力をしない。変わる努力ができない。たとえお姉さんと付き合うことが出来ても、きっと僕はエゴを押し付けてしまうだけ。

 好きという事実は変わらない。だけど、自分が嫌い。という事実も変わらない。曰く、自分に自信がない男というのはモテないらしい。なるほど僕がモテないワケだ。


 自己嫌悪から逃れるために、目的もなくスマートフォンを弄っていると、高校から一緒に同じ大学に上がり、同じサークルに入った腐れ縁からLINEが来た。サークルをサボった恨み節と、食事がどうなったか。という内容だった。だから懇切丁寧に事の顛末を話してやった。すると、腐れ縁は彼女にコトを話したらしく、彼女のコメントを転送してきた。「幾花(僕らの間で、腐れ縁の彼女は"幾花"と呼んでいる)曰く『あぁ、それは終わりですね』だそうです」と一言。

 余計なお世話だ。と一蹴したいところだったが、その一言は僕の心の凹んだところからジクジクと入り込んでくる。抵抗を諦めた僕は「そうか、終わりなのか」と独り言ちる。

 そう、終わりだ。もう終わったのだ!終わったのならば、もう恐れるものは無い!これ以上落ることはない!気長にいこうや。気楽にいこうや。たとえ、この先道が続いてないとしても、それが分かれば十分じゃないか。

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