第5話
辛い、甘い、苦い、酸っぱい、と思ったら臭い。あ、ここは美味しいぎゃぁぁあ舌が! 舌がぁあぁぁ!!
死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 死ぬ、殺されるッッ!! 幼馴染にッ!!
後ろから倒れるとそっと優しく支えてくれる。彼の顔が私の視界をいっぱいに広がって……。なんて恋に恋する乙女には憧れるシチュエーションかもしれないが、いま、私の視界を埋め尽くしているのは謎な液体の入ったペットボトルだ。支えてくれている腕は同時に逃がしはしないと拘束してきている。
そして何より量がおかしい。なんでや!? これ絶対2リットルペットボトルやんけ! ただの水でもこれ普通に死ぬぞ、おぉおい!?
そして一番怖いのは、ちらっと見える私を殺そうとしている幼馴染の表情がとても嫌そうな顔をしていることだ。嫌なんはこっちの台詞じゃぁあああ!!
あと少し……! あと少しで全部や。このクソな幼馴染はやると決めたら絶対にやる。何か知らんけどこれを私に飲ませようというなら私が飲みきるまでこの体勢を止める気はないはず。ならば、生き残るため私に残された手段はこれを飲みきることだけ……!!
死んで……、たまるかぁあああぁぁあああ!!
「ぶはァ!!」
「うわ。本当に全部飲んだよ」
あ? いま、こいつ……、ナンテイッタ?
「ボケゴラァ!? おま、おまえ今言うに事欠いて、うわ言いよったな!? おんどれが飲ませてきよったんやんけ死ぬとこやぞアホかボケェ!!」
「蘭」
「人様に無理矢理水飲ませたらあかんってそれ小学生ん時に流行ったイタズラで先生が言いよった言葉やんけ、お前何歳じゃ!!」
「蘭」
「てか、水でもあらへんし! 死ぬぞ? 普通に死ぬぞあの味は! おまえ、おまえ七色に輝く液体飲んだことあるか? ないよな? 私もなかったわ、ついさっきまでな!!」
「お、王子……?」
「なんやッ! いまこいつ締め上げ……、え」
なんだこの顔は。
知らない。こんな顔知らない。こんな女の子の表情を私は知らない。
誰だ。誰がした。誰が彼女をこんな顔にした。誰。え。だって。私は、
「おぉ、さすがは祐介。効果はばっちりやな」
「安堵」
「……、動物実験はしとるんよな」
「動物愛護」
混乱する私と、それ以上に混乱している女の子達。あれ? だって。え。女の子は、こんな顔は。だって。あの。えっと。
「はいはい、通るでー。ほいほい、っとお疲れ、お姫様」
「誰がお姫様だ」
「蘭、気分はどうや? ウチのこと、分かるか?」
「…………真奈美」
「ははっ……、そうや、真奈美やで。なんや、初めましてみたいやな」
泣きそうな顔。なんで。どうして真奈美が泣きそうになっているの。誰がした。誰が彼女を泣かせた。女の子を泣かせるなんて世界が許すはずがない。だって、女の子は。だって。だって。だって。
「あ。気絶した」
「うぉ、ちょ!? え、祐介! あれ大丈夫なんよな!?」
「授業準備」
「逃げんなァ!」
だって。
だって。女の子は。
だって。
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