第4話
小虎はあれが素やないと言うけれど、信じるにはそれなりに時間が必要やった。あ、どうも
二人と知り合ったんは、幼稚園の入園式らしいわ。さすがにそん時の記憶はないさかい、オカンの話やけどな。
そん時にはもう蘭は蘭やった。
幼稚園中に女の子は勿論、先生達すら虜にして。ウチ? はいはい、ウチもその一人やったよ、もう黒歴史やね。
あまりにも自然にしとったから、きっと好きでやっとると思っとったけど、きっかけは小虎が行った力技。
あのお姫様、自分の部屋に隠しカメラ仕掛けて一部始終を録画しとって、あまつさえそれを何の説明もなしにウチら三人にいきなり見せよったんや。エグいやっちゃでホンマに。
せやったら、なんとかしてあげようと思うやん。
ウチらは、友だちなんやか
「賭けに使えるからだろ」
ら、ってもう。人のモノローグに勝手に入ってこんとって! ……おお、怖。
それからウチと、もう一人の幼馴染は色々手ぇ回してな。小虎は、……、何もせんかったな。あいつのことやから何か考えあるんやろうけども。
それが、今日。
「完成」
「おっす、祐介」
「今日もばっちり表情筋死んどるな、おはようさん」
下駄箱でウチら二人を待っていたんが、さっき説明したもう一人の幼馴染、
ウチより小さい小虎と違って、祐介はでかい。半端なくでかい。190センチを超えているらしいからここまで行くと高身長とか言う次元やないな。
そんでもって表情筋がストライキ起こし続けとる。こいつのオカン曰く、生まれた時かららしいからこっちこそ本当の呪いやないやろうか。しかも、会話に癖があるさかいに、こいつとの会話には慣れが要る。
「完成って何の、まさかあれかっ」
「肯定」
「何の話」
「王子様を呪いから解き放ったろぉいう話」
「魔法使い」
「祐介は科学者のほうだからファンタジーな職業は無理があると思う」
「
「確かに高度な科学は魔法と同じだなんて言葉もあるか」
「言い得て妙」
「はい、とりあえず教室向かうで」
昔から妙に気の合うこいつらは放っておけばいつまでも、それこそ井戸端会議のおばはんくらい話し続けよる。
いつもなら放置しとくけど、今日は別や。遂にあれが完成したらしいからな。
――
祐介の父親は世界を股に掛ける科学者やったと彼のオカンは言う。別に死んでへんらしいけど、祐介も十年以上会ってへんらしい。
父親の影響か、彼もまた人には言えないようなものを小学生の頃から作り続けとる。竹とんぼを頭に付けて空を飛べる装置を作った時にはまだ世界には早いと封印したのは良い思い出やな。
奇妙奇天烈な作品を作り続ける彼へ、世間が夢と期待を込めて付けたのが、この二つ名や。
「つまり」
「この薬を飲めば、蘭のあのけったいな癖が治る言うんやな」
「肯定」
「にしても……、もうちょっと飲みやすい形状には出来ひんかったん」
「困難」
机の上でたっぷたっぷんと揺れるのは、祐介が作った謎の薬。……なんはええんやけど、色が七色に変色し続けてしかも量が2リットルペットボトルて……。
「ほんならまあ、頼むで小虎」
「どうして僕が」
「こんなん飲ませれるんはお前しか居らんやんけ」
「面倒くさいな……」
「大事な幼馴染のためやろ、気合い入れて行ってこい」
「応援」
「はぁ……」
教室の扉が粉砕された。
なんてことはない、蘭が近づいてきたことで女子があげた黄色い雄叫びが衝撃波となっただけの話。今月でもう五十七枚目である。
「おはよう! 私の子猫ちゃん達!」
今度は窓ガラスが割れおった。
どこからともなく現れた真っ赤な絨毯の上を女子を侍らせながらでの入室である。彼女たちの瞳は一様に♡マークへとマイナーチェンジを完了させとる。
「王子様! おはよう御座います!」
「御座席を温めておきました!」
「ああ! 王子の声が今日も聞けた……! わたしはこのためだけに生きているのよ!」
「王子! 窓と扉の清掃は完了しております!」
「ええから、もうこれなんとかしてこいや」
狂気に陥るクラスメートなど見慣れており狂気こそ我が日常みたいなノリになっとるけど、いや、冷静に考えたらなったらあかんけど。
「分かったよ」
さて。ようやく重い腰をあげたお姫様のお手並み拝見といこう。
あいつは周囲からも一目置かれとるからな。ハーレムを掻き分けて王子に無許可で近づいても(通常は申請が必要で現在三年待ちである)何も言われることはない。
「蘭」
「やぁ!
「…………」
「通常運転」
首元掴んで顔を引き寄せた途端に無理矢理ペットボトルの口突っ込んで中身流し込みよった……。
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