第2話
――蘭。女の子は何かしら
「おはなさん!」
――ラン。女の子は何だい
「みんなうつくしい!」
両親のことは大好きだ。
自分の事ながら私はとても愛情深く大切に、それはもう大切に育ててもらっていると思う。
父は、仕事柄あまり家には居ないが、ハードなスケジュールの合間を縫っては私に、そして母に会いに帰ってきてくれる。疲れているはずなのにそんな姿を一度も見せたことのない父を何よりも尊敬している。
母も、実質ほとんど一人で私を育ててくれている。勉強が本質的には苦手な私が学年トップな成績を収めているのも、運動部からは軒並み勧誘されるようになり運動会になればヒーローになれる運動神経を誇っているのも、全ては母の教育のおかげだろう。
だが、それでも。
どうしても私は……。私は……ッ!!
――恥ずかしいんだ!!
どれだけ我慢しようとも。どれだけ止めろと頭の中で叫んでも、この呪われた(と言ったら幼馴染に指を指して笑われた)身体は言うことを聞いてはくれない。
恥ずかしがる私を嘲笑うかのように、流れるように自然に女の子を口説くんだ!!
目の前に女性が居ればもう駄目だ。私の口は歯の浮くような台詞を垂れ流し、私の手は彼女たちの身体を逃がさない。瞳が彼女たちを捉えて洗脳し、声が彼女たちの耳を通じて脳を揺さぶっていく。
あなたは背中に花を背負ったことはあるだろうか。私はほぼ毎日の頻度で背負っているぞ。
私が手を挙げれば黄色い悲鳴が咲き誇り、腕を振るえばモーゼの如く人波が道を開けていく。
挙げ句の果てには、私に付けられた二つ名が、いや、現代日本で生きる私に二つ名がある時点でおかしいが、それは置いておいてほしい。
その名を、
アホか! 誰が抱くか! ていうか千ってなんだ、千手観音か私は!! というか、というかだ……!!
女だ、私はァァァ!!
※※※
「何の話」
家が隣同士の幼馴染は、私の魂の叫びに相も変わらず愛くるしい顔に感情の分かりにくい濁りきった目で吐き捨てる。
先日遂に180センチの大台を突破しくさった私の身長と比べて、頭二つ分は小さい彼は今日もお姫様のように可愛らしい。
――
そんじょそこらの女の子では敵うことはおろか、戦いの場に立つことすらおこがましい無慈悲なる美と、高校柔道全国優勝者すら一方的に屠る戦闘能力を持つが故に、畏怖と敬意を以て与えられた彼の二つ名だ。いや、だから現代日本……。
まあ、私から言わせてもらえばただの腐った目をしたやる気なさ男であって、そもそも世界中の女の子は一人ひとりが唯一な可愛らしさ儚さを持っているためにそれを比べていること自体が嘆かわしいって違うわァ!!
「今日! 帰り道! なんで止めてくれへんかってん!! ていうか、何勝手に一人で帰りくさっとんねん!!」
「ああ……」
「納得のいく説明してくれんねんやろうな、われ!!」
「面倒くさくて」
「おほほい……六文字……、六文字っておま……」
「ひらがなにすれば」
「八文字やねー、あっはっは! ってなるかボケぇ!!」
私にかかった呪いを止めることは出来ない。私の意志などお構いなしに呪いは女性たちを口説いていく。
厄介なのは、女性を前にしたとき以外でも私は私を維持出来ない。たとえ、男性を前にしていても格好付けな私しか出てこないのだ。
両親相手でさえ時折呪いが発生するなかで、唯一私が私として生きることが出来るのは、このくそ生意気な幼馴染と二人きりの時だけなのである。
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