74.導かれる悪意


「「「「……」」」」


 蒼の古城第一層、青々とした壁と中庭に面する列柱に囲まれたアーチ型回廊にて、延々と月明かりに照らされながら歩くがいた。


 カルバネをリーダーとするパーティー『ソルジャーボーンズ』である。


「ピエール……本当にこっちで間違いないのか?」


 疲れた表情で溜息を吐き出すカルバネ。中庭を見下ろせるこの回廊からスタートして、彼らは途中でモンスターを二匹倒しただけであとはひたすら真っすぐ歩くのみであり、一向に同じような景色が続いていたため、次第に疲労感とともに不安も色濃くなっていたのだ。


「はい。僕の派生スキル《方位》は目指したい方向へと着実に導いてくれますから」


「……んなこというけどよ、サボリ魔ピエール、おめーのスキルなんてどうせ熟練度低いんだろ」


「バ、バカ言わないでくださいよアデロさん。一つだけ熟練度は上げてあるので、スキルのランク自体は上がってませんが、少しは……」


「……無能……」


「ザッハの言う通りだ! もし変な方向に行ったら死んで詫びろクソボケ――えひゃっ!?」


 通路のひび割れに靴先が引っ掛かって派手に転ぶアデロ。


「……いてて……ピ、ピエール! おめー、今絶対、《呪言》でおいらを転ばせたろ!」


「……そんなの使ってませんけど? 実際、僕の悪口を言ったザッハさんには何も起きてませんよね?」


「ぐっ……」


「はー……。あなたのしょうもない不注意による事故をいちいち僕のせいにしないでほしいんですがねぇ……」


「……ど、どうせそんなのよ、事故に見せかけるためにあえてザッハには何もしなかっただけだろうが!」


「アデロさんは実に想像がたくましいことですねぇ」


「……クククッ……」


「おい、今笑いやがったなクソデク! サボリ魔ピエールと一緒に今すぐ死ね!」


「……クソチビ……」


「「「あ?」」」


「……お前ら、いい加減にしないか!」


「「「はいっ!」」」


 カルバネの一言で縮み上がる三人だったが、まもなくアデロがはっとした顔になった。


「……そういやカルバネさん、なんで『ウェイカーズ』のほうじゃなくて『インフィニティブルー』のほうを探すんで?」


「そんなの決まっている。『ウェイカーズ』はオランドを除いて危険すぎるメンバーが揃っているからだ。グレス、ルベック、ラキル、カチュア……実際に会ってみてわかった。特にあのグレスとかいうリーダーの男が漂わせる殺気は尋常ではない……」


「た、確かに!」


「あれはヤバスギですよねぇ。なんか目が違うっていうか……」


「……えぐい……」


「とはいえ、やつらの狙いはあくまでも『インフィニティブルー』だ。だからそれをワンクッションにする形で見物したほうが安全だろうと思ってな」


「さすがカルバネさんっす!」


「策士ですねえ」


「……偉人……」


「おいおい、そんなに褒めても俺は何も出さんよ……っと、客だ」


「「「あっ……」」」


 彼らの前方に突如出現したのは、甲羅全体に棘を生やした人の頭部ほどの大きさの一匹の亀だった。頭を隠したまま、パーティーの先頭にいるカルバネに向かってのそのそと歩み寄ると、ある程度近付いたところで一気に跳躍して頭部に生やした鋭い角を煌めかせた。


 これはコルヌタートルといって、特に跳躍力と防御力に秀でた亀のモンスターであり、緩急の差が凄いために迂闊に近寄った者が気が付いたときにはやられていたといったケースも多い。


 角を出したコルヌタートルは一直線にカルバネの頭部へと向かっていったが、既に【骸化】によってスケルトンに変化していた彼は身軽に避けると同時に長剣を一閃させた。


「「「おおっ……」」」


 アデロたちが驚くのも無理はなかった。とにかく硬いことで知られるコルヌタートルが縦に真っ二つになって消滅したからだ。


 鍛え上げられた剣術に加え、カルバネの派生スキル《形骸》は基本スキル《変身》同等のCランクであり、接近してきた相手の防御力を著しく減少させる効果があるのだ。しかも、より引きつけることでさらに威力が増す。


「……待っていろ、セクト。いずれ必ずお前はをすることになる……」


「おい、その石はおいらのだ!」


「僕のですよ?」


「……自分の……」


 一方でアデロたちによるドロップアイテムの争奪戦が行われていた。


「……三人とも、セクトたちと一緒に無様に死ぬか?」


「「「ひっ……」」」


 カルバネに凄まれ、アデロたちは身を寄せ合って震えた。

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