56.耐性と将来性
「「「「「……」」」」」
翌日の朝の刻、俺はみんなと食卓を囲み、揃って黙々と朝食を口へと運んでいった。
視線も合わせたらいけないらしくてかなり窮屈だが、今日の夜の刻が終わって朝が来るまでの我慢だ。そしたら修行が終わってみんなとの交流が許される。でもなんだか、自分がこの静けさに早くも慣れてきてるから修行の成果が出てそうだ。
左手が利き手じゃないこともあり、急いでるとかじゃない限り大体俺だけ食べるのが遅いせいか、食事の済んだみんなの視線を浴びることが多くて、それが普段であればとても気になるのに、俺はそれを意識した上で食べることに集中できていた。
終わったら立ち上がり、如雨露を変換したスキル《恵みの手》で食器を洗って食堂を出ていく。これがあれば水の節約にもなるんだ。
「……」
背中にみんなの視線が当たるのがわかるし、どんな表情をしているのかも大体想像がつく。それでも立ち止まったり振り返ったりすることはない。それが当たり前であるかのように、俺は部屋へと戻ることができた。
ベッドの上に座って一息つく。あれから一週間も経ったような気がするのは、それだけ孤独に慣れるまでが苦しかったということだろう。頭の中でみんなとの妄想の会話を作り出しては消していく、そんな虚しい作業を繰り返していたが、今は何も浮かんでこない。
それもなんだか悲しい気もするが、よく考えたらこれが当たり前なんだ。誰もが孤独であるという事実を知ることは、決して壁を作ることじゃない。
孤独は友達であり、他人との交流においても新鮮味を持たせて尊いものだと気付くための行為でもあるんだ。だからなのか、今から凄く楽しみだ。みんなと交流するのが……。
さて、その前に《スキルチェンジ》するとしようか。昨日の夜の刻にバニルたちから貰ったもので試すことにする。
まず、一際目を引いた首輪から。なんだこりゃ……。ここにペットなんかいたっけ? たまに庭で見かける金切り鳩には大きすぎるし、多分人間用だな。これを持ってきたのは……おそらくミルウだろう。裸を見せつけてこようとする変態だしありうる。
早速石板を見ながら変換してみると、あっさり成功して石板に文字が刻まれた。こんな簡単に決まるんだから低ランクだろうなと思ったら予想通りランクはEと低めで、スキル名は《忠節》とあった。効果は、近くにいる者を強制的にひざまずかせるというものだ。
んー……これはどうだろう。不意打ちには使えそうかな。熟練度が低いうちは効果時間や範囲が小さいだろうから、普通に攻撃したほうがよさそうだ。
さあ次はこいつだ。大きな赤いリボンで、俺の左手よりも一回り大きい。これは……バニルのかな? パンツも赤だったし……って、思い出してしまって俺は何度か頭を横に振った。とっととスキルに変えよう……。
7回試行して、石板に新たなスキル名が刻まれた。
派生スキル《結合》Dランク
熟練度 Fランク
自分と様々なものを結びつけることができる。
おそらく、アクセサリーのようにくっつけることができるのだろう。試しに腕にリボンを乗せてスキルを使ってみると、裏返しにしても落ちなかった。しかも、熟練度Fなのに結構持続する。こうしたものはくっついてるのが基本だからだろうか。とはいえ、熟練度が高くなったときに間違ってくっつけたらしばらく取れなくなって厄介だと思うも、連続で《結合》を使ってみたらあっさり取れたしこれなら安心だ。
さて、三つ目に変換するのはこの手鏡だ。首輪がミルウ、リボンがバニルだとして、これは誰のだろう? ……ん、裏にファンシーな兎の絵が描かれてるし、多分ルシアのものだな。
「……おっ……」
97回目の試行でようやく石板に新たな文字が刻まれた。こりゃ期待できそうだ。《反転》というCランクスキル。何々……様々なものを反転させることができる、か。こりゃ面白そうだ。これで試しに右手と左手を逆にしてみよう……って、本当にできた。右目と左目もだ。熟練度が初期値のFなためかすぐ戻ったが、こりゃいい。
最後はこの水晶玉だ。消去法でスピカのものだな。なんとなく、占いにはまってそうな感じだし……。
「――……ダメか……」
481回も試行したのに成功しない。俺が持ってる封印のペンダントや石板についても途中で変換するのはあきらめたわけだが、これも同じ運命をたどりそうだ。ただ、スピカのものだけ変換できないなんて彼女が悲しむだろうから、やれるだけやってみようと思う。その分、期待値だって高いだろうしな……。
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