41.飴と鞭
「「「「「ご馳走様っ!」」」」」
夜の刻になろうとする頃には夕食の時間も終わり、すぐにみんなでベリテスの部屋へと向かう。リーダーはいつも夕方から夜にかけて起床しご飯を食べるということで、ミルウが意気揚々と手作りのお弁当を運んでいた。
「ねえねえミルウ、あんたちょっと太ったんじゃないの?」
「ええっ!?」
ルシアの唐突な台詞に、ミルウが衝撃を受けた様子で立ち止まる。
「図星みたいね!」
「ち、違うもん。数値上じゃ5ポイントしか増えてないし。セクトお兄ちゃんの前でそんなこと言うなんて、ルシアの意地悪……」
「はあ? あたしはあんたの心配してあげてるのよ。そんだけ体重が上がったら敏捷度が下がってまた足手まといになるじゃない。次は絶対登頂するんだから痩せなさいよね!」
「あふうぅ……」
ミルウが涙目だ。確かに腹は少し出てる感じだが、結構シビアなんだな。
「まあまあ。それだけミルウの料理が上手ということですねー」
「えへへ……」
スピカに褒められて、しょげ返っていたミルウもニコニコだ。
「ど、どうせあたしの料理は下手よ!」
「ルシアったら。誰もそんなこと言ってないよ……」
「ふん! 言わなくてもちゃんと顔にそう書いてあるわよ!」
「もー」
頬を膨らませて拗ねた様子のルシアを見て、バニルは呆れ気味に笑っていた。俺も多分、彼女と同じような顔をしてたと思う。
「それなら、今度はルシアさんにご飯を作ってもらいましょうねえ」
「「「反対っ!」」」
「……」
スピカの提案に、バニル、ミルウだけじゃなくルシアまで反対しちゃってる。彼女もスピカほどじゃないが割と不思議ちゃんだし、怒ってるようで実は違うのかもな。
「――リーダー、入るねー」
「……ぐがー……」
リーダの部屋の扉前、何度ノックしても開かなかったこともあり、バニルが鍵を開けて中へ入ったので俺たちも続くと、ベリテスはベッド上で大の字になって豪快に寝ていた。さすが、惰眠を愛してるだけあって随分と気持ちよさそうに寝てるな……。
「何よ、リーダーったら。これじゃまったく起きそうにないじゃない。えいっ!」
ルシアが頬を叩くもリーダーが起きる気配はまったくなかった。結構強く叩いてたような……。それでも起きないんだから、このまま自然に目覚めるのを待ってたら朝になってしまいそうだ。
「私に任せて」
バニルがそっとベリテスの元に近寄ると耳元に口をやった。そうか、シンプルに大声を出そうってことか。
「ベリーちゃん、授乳の時間でしゅよお」
「ぬあ!?」
即座に起き上がるベリテス。今のバニルの声、凄く色っぽくてまるで別人みたいだった……。
「……お、おっぱいどこ……」
ベリテスがびっくりした顔で迷子のようにキョロキョロしてる。女性陣はどことなく肩身が狭そうだ。ミルウとスピカ以外はそこそこあると思うが……。
「「「「リーダー……」」」」
「……な、なんだ、お前たちか……」
今頃気付いたのか。リーダーはみんなが自分好みの乳じゃないから我に返ったらしい。こりゃ相当の巨乳好きだな……。
「……コホン。今日はちょっと寝すぎたようだな。お前たち、これから大事な話をするからよく聞くように!」
女性陣から冷ややかな視線を束にして送られたせいか、ベリテスが気まずそうに語り始めた。
「わかってると思うが、あと七日でダンジョンの第二層、さらに一日置いて第一層の入り口が開く。それを逃せばあと三か月はお預けだ。一層は中級者から上級者のパーティーまで幅広く人気があり、冒険者にとっては色んなことを経験できる貴重な機会だが、初心者にはちと荷が重い。そこでだ。セクトをそこに間に合わせるために、特別な訓練をしようと思う」
「……り、リーダー、特別な訓練って、まさか……」
なんだ? バニルがはっとした顔になってる。
「お前の想像通りだ、バニル。俺が師匠から受けた試練と同じことをセクトにやらせる」
「リーダー、無茶だよ。セクトはまだ基本スキルを覚えてないどころか、体だってあっちこっちボロボロでろくに動かせないのに……」
「だからこそだ。それに、あそこに何があるかは知ってるだろ、バニル」
「で、でも……」
「なあに、大丈夫だ。セクト、俺を信じろ」
「……」
ベリテスがいつになく真剣な顔を向けてきた。一体俺にどんな訓練をさせようっていうんだ……。
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