30.いつか見た日常
「ほら、来なさい!」
「……」
俺は怒った様子のルシアに手を引っ張られ、どこかに連れていかれるようだった。さすがに終わったな……。
おそらくこれからリーダーの元に連れていかれ、そこで処刑されたあともパンツ窃盗犯のセクトとしてみんなの笑いの的にされ続けるんだろう。恩返しすらできずに死ぬのは無念だが、それほどまでに呪われた人生だったってことか。
「――ほら、そこに座りなさい。なんでこんなことしたの!?」
ルシアに連れていかれた部屋には誰もいなかった。本棚とかはなくて、人形やぬいぐるみがベッドの半分を占拠している。壁に飾られた笑顔の太陽の絵もとてもファンシーだ。
まさか、ここはルシアの部屋なのか。もしかしたら、とても怒ってるように見えて少しは俺の言い分を聞く気があるのかもしれない。
「ルシア、本当に誤解なんだ。偶然風呂場に入っちゃって――」
「――言い訳はよしなさい!」
「うっ……」
もうダメだ。大体こんな下手な言い訳が通じるはずもない。実際に俺はバニルのパンツを持ってたわけだしな……。
「ご、ごめん……」
ここで素直に謝っておけば、不名誉だけは回避できるかもしれない。死ぬにしても立つ鳥跡を濁さずだ。
「わ、わかればいいのよ。これからは、盗むならあたしのパンツを盗みなさいよね!」
「……え?」
「え、じゃないわ。よりによってバニルのパンツを盗むなんて趣味が悪すぎよ! 男の子が選ぶならあたしのものに決まってるでしょ!」
「は、はあ……」
よくわからない理屈だが、勢いに押される形で納得してしまった。なんていうか、これじゃ俺がバカみたいだな。かなり追い詰められた考え方をしていたというのに。
「でも、よかったわ。もしかしたらセクトって女の子に興味がないのかもって思ってたし……」
「へ……」
「だ、だって、年頃の男の子なら普通はもっとがっつきそうでしょ!? でも、勇気が出せなかっただけなのね……」
「えっ、ちょっと待って、勇気って……?」
「今更とぼけたって無駄よ! む、ムラムラしちゃったなら、そんな風にこそこそせずにあたしに言ってくれればなんとかしてあげたのにって……」
「おいおい――」
「――ルシア、いる?」
「「あっ……」」
いきなり誰か入ってきたと思ったら、バニルだった……。
いないはずの俺がルシアの部屋にいたということで、バニルはさぞかし驚くかと思ったらそうでもなかった。風呂に入ってきたスピカから事情を聴いて俺を探していたらしい。というわけで、ルシアの部屋にリーダー以外レギュラー組全員が集まる結果になっていた。
「ルシア、ずるいよ」
「ルシアさん、ずるいですよぉ……」
「ルシアだけずるーい!」
「何よ。あたしだって強引に部屋に連れ込むくらいいいじゃない!」
「……」
何故かルシアがみんなから責められてる。バニルのパンツを彼女が引き取ってくれたのもあってか劣勢気味だ。これについては俺が悪いんだが、さすがにそれについて白状しちゃうと気まずくなりそうだから黙るしかなかった。
「それよりセクト、顔色悪いけど大丈夫……?」
「セクトお兄ちゃん、大丈夫ー?」
「セクトさん、じっとしてないとダメですよー」
「あ、うん……」
俺はバニルたちから責められるどころか心配されていた。カルバネは俺が急に様子を見にいけば全てはっきりすると言ってたが、全然そんなことはなかった。みんな今まで通り、ズレてはいるが受け入れてくれてる。
「よく見たら痣だってあるじゃない。きっとあいつらのせいよ。あんなところにセクトを置いておくのは反対! なんとかならないの?」
「それはリーダーの意思だからしょうがないよ、ルシア。私だってそうしたいけど……」
「でも、一晩くらいはここで保護してもいいでしょ! あいつらがまた何をしでかすかわかったもんじゃないわよ……!」
「ですねえ」
「ミルウも賛成!」
「うん。一応向こうにも伝えておくね」
「もー! あんなやつら無視しちゃっていいのに。相変わらずバニルはカルバネに甘いんだから」
「……」
バニルがカルバネに甘いだって? 何か深い関係でもあるんだろうか……。
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