13.揺らぐ炎


 あれから数日経ったわけだが、俺はバニルたちから色んなことを教わった。


 この宿舎はパーティー『インフィニティブルー』のものであり、俺が落ちたあの崖近くにあって、パーティーは湖畔の町アルテリスと三カ月周期で開く湖のダンジョン――蒼の古城――をベースに活動しているという。


 さらに宿舎はここだけでなく二手に分かれており、補欠組の住処は湖に面した森の奥にあるのだそうだ。町で夜遊び等しないよう、真面目にやらせたいというリーダー、ベリテスの配慮らしい。


 レギュラー組はこの宿舎にいる面子――バニル、スピカ、ルシア、ミルウの四人で、いずれも女の子ばかりだがリーダーが唯一男だという。それでも彼は放浪癖があってほとんど帰ってくることはなくて、四人で活動する期間のほうが長いとのことだ。


 それと、俺の固有能力を勝手に見たお詫びとして、バニル以外のメンバー全員に告白された。固有能力、及びそれに関係するスキルの内容を。


 スピカの固有能力は【結集】で、ランクはB。基本スキルの《収集》は周囲に散らばっている物や汚れを一つにまとめることができるという。箒も雑巾も持ってないのに、移動するだけで部屋をピカピカにしていた理由がわかった。


 また、派生スキルの《招集》によってパーティーメンバーを全員呼び戻すことができるというから非常に便利だ。


 ルシアは【傀儡】というランクCの固有能力を持っていて、基本スキル《操作》では人の手足の一部とかを勝手に動かせるらしい。暇だからとあっち向いてホイとかやらされて全敗した理由がよくわかる。当時は操られてる感じとかまったくなかったことから、ある程度意識もコントロールできるっぽいし結構怖いスキルだと感じた。


 その上、《追従》という派生スキルで意識を失っている対象に自分のやっていることを真似させて、気絶してる仲間でも歩かせることができるというから驚きだ。


 ミルウには【着脱】とかいういかにもヤバそうなCランクの固有能力があり、いつも部屋に来て一度は脱ぎたがるスケベな彼女にぴったりだとは思った。その基本スキル《脱衣》について、彼女はこれを立て続けに使えばすぐお風呂に入れると言って、ほぼ一瞬で全部脱いで見せた。確かに便利だが、ほかに使い方はないのかと言うと、これで相手の鎧や武器も外せて弱体化できるから凄く有用だと説明してくれた。


 ほかにも、《離脱》という派生スキルを使うと、パーティーメンバー全員が一瞬でダンジョンから出られるそうだ。ただ、ダンジョンを一度出てしまうと場所によってはまた入るのに相当な時間がかかるため、使うタイミングは自分や仲間の命が危険なときとか、そういう緊急を要する場合に限られそうだ。


 そんなわけで、みんなの固有能力がわかったのでこれでまた一歩距離が縮まった気が……って、崖から落とされる前ならともかく、何呑気なこと言ってるんだ俺は。


 確かに俺の固有能力は良さそうだが、みんなそれに負けず劣らずの能力者でしかも中級者なんだし、役に立たないとわかれば即座に追放されてもおかしくない。だから精一杯頑張って恩返ししたら、俺は黙ってここから消えようと思う。それから一人で修行して、いつか『ウェイカーズ』の連中に思い知らせてやるんだ。俺が受けた屈辱、痛みの重さを……。


「――ふう……」


 片手でやる腕立て伏せや腹筋、背筋の運動、体操、部屋の往復に瞑想等、一日の心身の鍛錬がようやく終わった。


 回数は大したことないが立て続けにやると結構きつい。怪我も治ってきて基本スキル《スキルチェンジ》を習得するための訓練中で、バニルが熱心に指導してくれた。本来であれば、教会で固有能力を貰ったときに覚える方法を聞くのだそうだ。これを続けていけば、近いうちに必ず習得できるとのことだから、今からそのときが楽しみだ。


「……」


 ダメだ。ちょっと気が緩んだせいか、バニルの裸とともにエッチしようという言葉が脳裏に浮かんできて、頭を横に振る。色んな意味で体が熱い。俺って思ったより単純なんだな……。

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