12.変わっていくもの
「しょ、処女なのはもうわかったから無理するなって」
「ごめんね。でも本気だったから」
「てか、なんでそこまで俺なんかにサービスするんだ……?」
一体、バニルたちは俺から何を引き出すつもりなんだろう。彼女が頬を濡らして処女を捧げるほど俺の固有能力は素晴らしいってことなのか?
「セクトには心を閉ざしてもおかしくない過去があるから……」
「……なるほど、だから媚びたってわけか。それですぐに癒えるくらい軽傷ならいいんだけど」
「でも、私の行為で簡単に傷が癒えるとか心が開くなんて思ってない。ただ、こうすることで少しずつ何かが変わっていくならって……」
「あんた、それ本気で言ってるならバカだ」
「うん、バカだよ」
「……い、言い過ぎた。俺もバカだ」
「やっぱり優しい」
「こういうところが俺のダメなところなんだ。なんでもかんでも中途半端……」
「何がダメなの?」
「嫌われたくないあまり、人目を気にしてしまうところだよ。優しい人とか大人しい人とか言われてたけど、実際はただひたすら臆病なだけなんだ」
「あのね……セクトは勘違いしてると思うの」
「勘違い?」
「うん。普通はね、嬉しいんだよ。優しくされたら、誰だって……。たまには叱ってほしいときもあるけど……」
「……」
「だから、自信を持って。ね?」
「……わ、わかったから早く服を……」
「はーい」
あ、そうだ。興奮が少し冷めたせいかようやく思い出した。固有能力について聞くつもりだったんだ。
「バニル、俺の固有能力が何か知ってるんだろ?」
「え、なんでわかったの?」
「スピカから聞いた」
「もー、あの子ったら口が軽いんだから……」
「……」
口が軽いっていうか、なんか色々とズレてる子だったな。バニルもだけど。
「私の固有能力ね、【鑑定眼】なんだ」
「【鑑定眼】か。なるほどな……」
色々と詳しく調べることのできそうな固有能力だな。
「勝手に覗いちゃってごめんね。お詫びに、セクトにへの固有能力付与を知り合いの神父さんにしてもらったから」
「え、じゃあもう使えるってこと?」
「まだだよ。固有能力は授与されただけじゃ使えないから」
「あれ、そうだっけ?」
「うん。授与のときに神父さんに教えてもらえるよ。基本スキルを覚えないと使えないって」
「基本スキル?」
「固有能力が潜在的なものとして、それを形にできるスキルのこと。それを覚えたら、そこから磨くとかしてどんどん派生スキルが生まれていくんだよ。私で例えると、【鑑定眼】の基本スキル《調査》でセクトの固有能力を調べたってわけ」
「へえ……」
勉強になる。
「基本スキルはどうやったら覚えられるんだ?」
「心身の能力の平均値っていうのがあって、それを上回るくらい鍛えていけば覚えられるよ」
「そうか……あ、俺の固有能力の効果は?」
正直、これが俺の一番知りたいことだ。
「ふふ、なんだと思う?」
バニルに悪戯な笑みを向けられると、俺はさっきの裸が脳裏に浮かんで顔を背けてしまった。まずい。照れてるのバレバレだ……。
「どうしたの? もしかして私の裸を思い出しちゃったとか」
「ちょっ、んなわけ――」
「――図星だね! セクト、可愛い……」
「……やめろよ」
「ふふ……」
多分、効果は最下位か最上位かのどっちかだろうな。底辺なら怪我や悲惨な過去も相俟って深く同情されるのもわかるし、トップクラスならここまで手厚くされるのもわかるから。
バニルがいい子なのはわかるが、俺にここまでしてくれるのはやはりそれなりの意図があるはずなんだ。それは俺が色んな意味であまりにも可哀想だったからか、あるいは役に立つかどうかであって、ボランティアじゃないんだからな。
「じゃあ言うね。セクトの固有能力は【変換】っていうんだって」
「【変換】……?」
「その基本スキル《スキルチェンジ》で、あらゆる物をスキルに変えられるみたい」
「あ、あらゆる物……?」
「うん」
これって結構凄い能力じゃ……? こうなるとランクにも期待してしまう。
「……じゃあ、固有能力のランクは?」
「みんな最初は何も使えないからFランクから始まるけど、覚えたスキル次第で評価が上がっていくから心配しないで。私はFからCまで上がったよ」
「なるほど……」
みんな最初はFランクなのか。どんなスキルを習得するかは物に依存するわけだから、しょぼいスキルから有用なスキルまで覚えられる可能性があるってことだな。これはかなりいいかもしれない。
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