9.解かれた包帯


「――はいっ、お掃除終わりましたぁ」


「え、えぇ。もう……?」


「ですよー?」


「……」


 俺のいる部屋は、スピカによってほぼ一瞬でピカピカになっていた。なんなんだこの子。掃除の達人か何か……?


「ほかに何かあれば、お申しつけくださいー」


「ス、スピカ……今日はもういいから、最初にここへ入ってきた子を呼んできてほしいんだけど、いいかな?」


「バニルさんをですかあ?」


「うん」


 あれから色々考えたんだが、もしかしたら逆に俺がしょぼすぎる固有能力を持ってて、みんなのオモチャとして扱われてる可能性だってあると思ったんだ。


 10000ゴーストという大金を個人が所有してることから中級者パーティーには違いないっぽいし、わざわざそんな暇なことをする確率は低そうだが、人間なんてどんな裏があるかわからないからな。とにかく自分がどういう能力を持ってるのかバニルに直接聞いて確認したい。


「はーい。あのぉ……」


「ん?」


「できれば……お名前を聞きたいですー」


「セクトだ」


「ありがとですっ。セクトさん、また来ますねぇ。ふんふんふーん♪」


 スピカは裾を持ち上げてぺこりと会釈すると、鼻歌交じりに立ち去っていった。なんとも天然で小動物的な感じの子だが、俺よ騙されるな。男受けを狙ってて、裏では俺の反応に対して邪悪な笑みを浮かべてる可能性だってある。


「――失礼するわね」


 お、来た来た……って、また声が違う。バニルじゃないしスピカのものでもない、別人の女の子だ。バニルを呼んでくれと頼んだのに……からかわれてるんだろうか。振り返ると、頭の両側に小振りな桃色の髪を垂らした吊り目の少女が扉の前に立っていた。


 そこそこ肌寒いのに半袖の薄着で、スカートもやたらと短くて角度によってはパンツが見えてしまうんじゃないかと思えるほどだった。そういうのはあまり気にしないタイプなんだろうか? 彼女は俺が黙って見てるのが気に障ったのか、不満げに口をひん曲げた。


「バ、バニルは用事だから、代わりにあたしが来てあげたわよ!」


「……」


 あー……なんとなく、向こうの意図が見えてきたような気がする。こういう格好なのも、俺に欲情させるためなんだろう。


 要するに色んなタイプの女の子を差し向けてきて、俺がむらむらして飛び込んだところでガタイのいい男が颯爽と登場してネタバラシを始めるってわけだ。誰がそんな見えてる罠を踏むもんか。


「俺が話したいのはバニルなんだ。悪いけど帰ってくれ」


「え? ちょ、ちょっと……!」


「ん?」


「何か悪いこと言ったなら謝るわよ!」


「……」


 これまた変わった子だな。不遜なのか謙虚なのか……。


「別に悪いことを言ったとかは思ってない」


「そ、それじゃ、ここにいてあげてもいいわよ!」


「……」


 ますますわけがわからなくなった。ツンとそっぽを向いてるが、ちらちらと目だけこっちを見てるのはバレバレだ。俺みたいな怪我人をちゃかして何が面白いのやら。どこかに覗き穴でもあるんだろうが探す気もない。こちとら付き合うつもりなんてさらさら……と思ったが、なんだかむかついてきた。そこまでするならこっちにも考えがある。


「で、あんたの名前はなんていうんだ?」


「ルシアよ! あんたは?」


「セクト」


「セクトね、覚えたわ!」


「ルシア……」


 俺はニヤリと笑うと、ルシアと名乗った少女にそっと近付いた。


「俺に興味があるのか?」


「え、え、えっ? そりゃある……わよ! お客さんがどんな顔してるのかって気になってたんだし……」


「じゃあ、これを見ても平静でいられるか?」


「な、何を見せるつもり……?」


 俺は怯えた表情をしたルシアに対し、右手にグルグル巻きにされている包帯を解き、中身を見せてやった。悲鳴をあげて飛び出すに違いない。


「……何よ、それがどうかしたの?」


「え?」


 ルシアの反応は、俺にとって意外すぎるものだった。


「そんなの、ギルドとかダンジョンで見慣れてるから可愛いもんよ!」


「そう、なのか」


「そうよっ!」


 よく考えたら、バカ高い封印のペンダントを購入できて、さらに専用の宿舎を持ってる中級者のパーティーだ。日常的にそういうのと出くわしても不思議じゃない。


「正直……あ、を見せつけてくるかと思ったわよ!」


「え……アソコって?」


「お、男の人のアレよ!」


「……お、おいっ!」


 俺って一体どんなキャラなんだよ。もしかしたら男に免疫のないパーティーなんだろうか……って、俺ってやつはまーた騙されそうになっちゃってる。俺もアホかもしれないが、本当に侮れない連中だ……。

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