第36話 魔族と歌

コジュスと別れ、迷いの森を歩く私とクヨ。

 その道中の事だった。


「なぁ、クヨ。来るときに話した魔女の話って本当の話なのか?」


「魔女の話?」


「えっと確かこんな歌だったよな?こほんっ……魔女魔女魔女〜♪迷いの森に住む魔女は〜♪魔獣たちとご一緒に〜♪毎日毎日たわむれて〜♪そのうち魔獣に食べられたぁ〜♪かわいそーな魔女さんは〜♪そのまま地獄に落とされた〜♪……みたいな」


「わぁ!凄い!ミズミ博士歌じょうずだね!」


「あ、ありがとう……」


 褒められてしまった。

 というか、何故私は歌詞を覚えているんだ……

 天才の弊害ってやつか。違うな、単にクヨの歌い方が上手なのだろう。

 耳に残るフレーズだった。意識しなくても、すうっと口から出てきたからな。


「この歌はね、教えてもらったの」


「教えてもらった?誰に?」


「サリアだよ!何だっけなぁ……サリアはドラギノバムから教えてもらったって話してたような……クヨ、忘れちゃった」


 またしてもドラギノバムか。

 この歌の主役である魔女は、ドラギノバムの魔獣に殺されている。

 魔女を殺したのは、直接的では無いものの、ドラギノバムと言ってよいのでは無いだろうか。

 だが、何故ドラギノバムはそんな歌を魔王軍の仲間、サリアに教えたのだろうか?


「あ!クヨ、思い出した!これもね、サリアに教えてもらったんだけどね!あ、でもサリア誰にも言っちゃダメって言ってた!でもでもサリアもドラギノバムも魔女さんも死んじゃったんだから、話してもいっか!」


 死人に口無しってやつか。


「ドラギノバムはね、その魔女さんの事が好きだったみたいだよ!」


「好きだった……ドラギノバムが?」


「そう!」


「だが、それだとおかしくないか?クヨから聞いた話だと、ドラギノバムの魔獣達は、魔女の事が好きだっただろ?だが、ドラギノバムに命令されて、仕方なく魔獣達は、魔女を殺した。話が合わなくないか?」


「うーん……そもそもこの歌だって、ドラギノバムの作った”ニセモノ”の歌なんだよ。ドラギノバムがどう思ってたかなんて、わかんないよ」


「まあ、確かにその通りだな」


「それよりそれより、ミズミはかせ!」


 クヨが可愛らしい笑顔で私を見つめる。期待を込めた目だ。


「ん?どうした?」


「ミズミはかせも、”おうた” 歌ってよ」


「う、歌……?私が?」


「うん!だって、クヨも歌ったんだもん!クヨ、ミズミはかせの歌が聞きたい!」


 歌か……困ったなぁ。

 そもそも私は歌というものをあまり知らないのだ。

 教会とかで歌うアレとは違うんだよな……酒場とかで流れている曲、アレも歌か?


「魔女魔女魔女〜♪迷いの森に住む魔女は〜♪魔獣たちとご一緒に〜♪毎日毎日たわむれて〜♪」


「それじゃないやつがいいなぁ」


「うむ……歌かぁ……」


 本当に何も思い浮かばない。

 歌、歌かぁ……


「じゃあ、一緒に歌お、ミズミはかせ!」


「一緒にって……魔女のうたを?」


「そう!クヨと、ミズミはかせで!……だめかな?」


「いや、全然いいよ。私も”うた”にもっと触れてみたいしな」


「やったぁ!クヨ、うれしい!」


 私が一緒に歌を唄うと言ったら、大はしゃぎで喜んでいる。

 出会った時よりは、随分大人びたとは思うが、まだまだ幼さが残る部分はあるな。どこまでが。本当のクヨの姿かは、分からないが。



「じゃあ、行くよ!ミズミはかせ!一緒に歌ってね!」


「ああ」



 ***


 魔女魔女魔女。迷いの森に住む魔女は。魔獣たちとご一緒に。毎日毎日たわむれて。そのうち魔獣に食べられた。かわいそーな魔女さんは。そのまま地獄に落とされた。


「聞けば聴くほど悲しい歌だな」


「魔女さんは地獄に落とされたけど、クヨは天界に閉じ込められたよ。クヨと魔女、何が違うのかな?」


「生前やって来た事の違い……じゃないのか」


「魔女はみんなから慕われて、愛された。心優しい魔女は魔物でさえも、愛そうとした。理想の人間だよ、クヨと違って」


 クヨは人間では無いのでは?という疑問はしまっておく。


「なのに魔女は地獄に落ちた。クヨは今生きている。魔女とクヨ、何でこんなに違うんだろう?」


「クヨは運が良かった。それだけの話だよ」


「運が良かった……?ミズミはかせに蘇らせてもらったから?」


「私は地獄だとか、天界だとか非現実的な事はあまり好きでは無いんだよ。結局は、人間が死んだ後の幸せを願い、作り上げた幻想だと私は考えているからね。だから、生きているうちは、死んだ後の事なんか考えない。クヨ、結果として君は生き返った。今、生きている、それだけが真実なんだ。君のいう魔女さんは地獄で苦しんでいるのかもしれないし、彼女には酷な運命だったかもしれない。だが、クヨだって天界に閉じ込められて、辛い日々を送っていたんだろう?」


「うんん。天界だと”魂”だけで、意識は無かったから、全然痛みとか辛さとかは無かったよ」


「そ、そうか……まあ、そんな事はどうでもいいんだ。結果として、クヨは生きているのだから、魔女と比べたり、魔女の事を考えたりするだけ、無駄なんじゃ無いかな、って思っただけだよ」


「そうだね!クヨは生きてるんだもん!ありがとう、ミズミはかせ!久代を選んでくれて!」


「ああ。さて、そろそろ迷いの森の出口だな」


 色々あったが、ようやく迷いの森から出れそうだ。

 色んな意味で迷わされたな、全く。




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