第34話 魔族と信頼
「クヨにとって、私に利用価値があるのか?」
「あるよ。だって、まず第一に、ミズミはかせは、クヨのことを蘇らせてくれたもん。クヨは死んじゃったんだよ。死んじゃった魔族は普通は生き返らないでしょ?」
「確かに、普通は生き返らないな」
「だけど、ミズミはかせはクヨを、生き返らせてくれた。死んじゃったクヨは、本当なら食べることも歩く事も寝る事も出来ないんだよ。あ、でも寝ることは出来るかな?だって、永遠に眠り続けてるんだから」
「……」
私は何も答える事が出来ない。
「クヨにはまた”生きる”チャンスが与えられたんだよ。クヨは今生きているんだよ。それだけで、ミズミはかせにはすごく感謝してる。クヨがこれまでにやってきた事が、死んじゃったら全部無くなっちゃう。この体も、クヨの仲間は今も死んだまま苦しんでると思う。あ、でもまおうさまみたいな心を持っている人は、死さえも感じないぐらいの心なのかもしれないけど。クヨはね、ミズミはかせがどうして魔王軍の中でクヨをわざわざ選んだのか、選んで蘇らせたのか分からない。クヨよりも強い人は沢山いるよ」
「うむ、また選んだ理由としては、例の歴史書を読んで、一番可愛いかなぁと思ったのが、クヨだったってのが、大きな理由なんだがな。もう一つの大きな理由はな……」
「クヨが……可愛いから、クヨの事を蘇らせてくれたの??」
クヨが急に目を見開いて、私に詰め寄ってくる。
「まあ、それもあるが、もう一つ理由があってだな……」
「えへへっ!クヨ可愛いって!えへへっ……」
私のもう一つの理由よりも、私が可愛いからクヨを蘇らせたと、私が話した事がクヨにとっては、嬉しかったようだ。
クヨは本当に褒められるのを喜ぶ。
何故だろうか?自分の価値を認められたから?
クヨが魔王軍幹部として、一体何をして来たのか……
人々にどう思われていたのか?
命令き失敗、敗北し、仲間に裏切られた屈辱が今もあるのか?
「あ、ミズミはかせが聞きたいのは、アレだよね!ミズミはかせがクヨを利用しているように、どうしてクヨがミズミはかせと一緒にいるのか、ミズミはかせがクヨにとって、どんな価値があるのか、ミズミはかせは知りたいんだよね?」
「ああ、そうだ」
「うーんとね、まず今クヨすっごく気分がいいの!えっと、魔女の研究者さん?”魔力エネルギー”だっけ?」
「あ?ああ、そうだよ」
コジュスがクヨの問いに、空返事で答える。
「クヨが最初に目覚めた時はね、波動を放ったりは出来たけど、クヨの本当の力は全然出せなかったの。最初にはあんまり意識も無くて、目につくものが全て敵に見えたぐらいに」
「全て敵に……か。だが、今は随分と饒舌に話しているように見えるが」
「ミズミはかせがクヨに色々教えてくれたからだよ。”はっきり”したのは、果物屋さんの時かな。ミズミはかせがクヨに”二つの約束”をお願いしたよね?」
「”人を絶対に傷つけない”と”私はクヨを絶対に裏切らない”」
「そう。クヨが”人を絶対に傷つけない”代わりに、ミズミはかせは”クヨを絶対に裏切らない”って約束してくれたもん。クヨが約束して、ミズミはかせも約束してくれる。だから、クヨはミズミはかせを信頼した。ミズミはかせだって、クヨの事信頼してくれてるでしょ?魔獣の時とかかなぁ。ミズミはかせクヨに『頼むっ!クヨしかいないんだ!』って感じだったもん」
クヨしかいない、か。あの魔獣達の件に関しては、私には未知数な事柄が多すぎた。正直に言うのなら、クヨに頼る以外にあの場を切り抜ける方法は無かっただろう。クヨがいなければ、私は魔獣に殺されていた。だから、クヨが言っている事は正しい。
いや、そもそもクヨがいなければ、魔獣達は現れなかったのだから、そもそも迷いの森にクヨを連れてきた私が悪いのか?
「信用したし、クヨはミズミはかせが純粋に好きだよ、大好き!」
「ははっ。ありがとう」
純粋に好きねぇ。これは、純粋に喜んで良い事なのだろうか?
「ミズミはかせはクヨに色々な事を教えてくれるし、ご飯も食べさせてくれるし、一緒にいて楽しいからクヨはミズミはかせと一緒にいるの。それに、今ははっきりとこれやりたい!みたいな事が無いから」
「魔王軍にいた頃は、やりたい事があったのか?」
「魔王軍にいた頃は、クヨがやりたい事じゃなくて、あくまでまおうさまがやりたい事、望んでいる事を、クヨたちが代わりにやってあげるみたいな感じだったよ。でも、まおうさまは幹部ぐらいになれば、ある程度は自由にさせてくれたけど、自由にさせ過ぎたせいで、フナーラマみたいな事になっちゃったし……」
フナーラマ……か。
クヨの友達サリアを殺した人物。
クヨが変わるきっかけとなった人物。
フナーラマ、一体……?
「フナーラマは一体どんなやつなんだ?」
「フナーラマ……。フナーラマの事クヨはずっと嫌いだったよ」
嫌い……か。
「フナーラマはね、まおう様を騙したんだよ。まおう様だって、フナーラマに騙されなければ、もっとフナーラマの事を疑えば、魔王軍もあんな事にならなかったのに……」
フナーラマに騙されなければ、魔王軍があんな事にならなかった……?
魔王軍が滅びる、患部が倒される、魔王が倒される。誰に?勇者にだ。
「話がそれちゃったけど、とにかくクヨはミズミはかせを信頼しているし、好きだから一緒にいるんだよ。ミズミはかせだってそーでしょ?」
「ああ、そうだ。私もクヨを信頼しているし、クヨの事が好きだ。だから一緒にいる」
「えへへ。良かった」
コジュスは二人の会話を黙って聞いていた。
えらく次元が高い会話だが、ミズミの功績が偉大な物である事と、もうひとつ。このクヨという少女が恐ろしくてたまらなかった。
コジュスやミズミが知らない事をクヨは知っている。未知数の能力を持っている。
そんな彼女がこの場に存在し、生きている事にコジュスは恐怖を感じていた。
一体何がどうなるんだ?
この少女は私達に一体何をもたらすのだろうか……?
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