第29話 魔族と魔女

迷いの森を進み続ける私とクヨ。


「もう、そろそろ着くはずなんだが……」


「魔女魔女魔女〜♪迷いの森に住む魔女は〜♪魔獣たちとご一緒に〜♪毎日毎日たわむれて〜♪そのうち魔獣に食べられたぁ〜♪かわいそーな魔女さんは〜♪そのまま地獄に落とされた〜♪」


 クヨは相変わらず楽しそうに物騒な歌を歌っている。


「魔女さんは地獄に落とされちゃったのか?」


「そうだよ!でもね、魔女さんはね、やさしかったの、いい魔女さんだったの」


「良い魔女さんか。良い魔女さんは”良い魔女なのに、どうして地獄に落とされたんだ?」


「決まりを破ったからだよ。良い魔女さんはね、いろんな人に優しくしてあげて、みんなから大好きって言われてたの。誰にでも平等につきあって、優しくして、悪い人も人を殺した人も、クヨみたいな魔族にも、魔王軍の仲間にも、やさしくしようとしたの。だけどね、森にはね、魔王軍の幹部の一人、”ドラギノバム"が飼っていた魔獣がいたの」


 クヨの言葉からまた新しい情報が出てきたな。

 魔王軍の幹部、”ドラギノバム”か。

 例の歴史書に確か載っていたな。

 獰猛な魔獣を操る魔獣使い。

 無数の魔獣を従えて、次々に町々を没落させていったとか。

 ん?迷いの森?魔獣?魔女?ドラギノバム?クヨ?魔王軍?

 今のクヨの話って……


「それで、魔女はどうなったんだ?」


「魔女さんはね、ドラギノバムの魔獣とめ仲良くなれると思って、魔獣と一緒に遊んだの。撫でたり、走り回ったり、怖い怖い魔獣だけど、魔女さんの優しさには少し心を動かされたみたいでね、魔女さんと魔獣は仲良くなったの。お友達になったの」


「それでそれで魔女はどうなったんだ?」


「うふふっ。ミズミはかせ、すごく楽しそう!聞きたい?」


「ああ!聞きたい!地獄に落ちた魔女さんのお話が!」





「細切れにされました!」


 クヨはあっさりと答える。

 そりゃそうか。魔獣に食べられたと、歌の中で言っているのだから。


「ドラギノバムはね、魔女さんと仲が良かった魔獣達を叱ったの。罰としてね、魔獣達が愛していた魔女さんをみんなで仲良く食べなさい!って命令したの」


「魔獣達は素直に従ったのか?」


「そうだよ!だってドラギノバムは怖いもん。誰も逆らえない。まおうさまは別だけど。魔獣達はドラギノバムに飼われている身だから、逆らおうなんて考えないよ」


「ふむ……だが、一時期はドラギノバムでは無く、その魔女さんに心が移っていた時期もあったのだろう?」


「分かんない、クヨ魔獣じゃないもん」


「そりゃそうだな。すまないかった。でも、中々面白い話を聞けて良かったよ。ありがとう、クヨ」


「えへへっ。褒められた。クヨ、嬉しい」


「そうかそうか、嬉しいか。良かった」


 そんな雑談をしている間にまもなく目的の場所へ到着するはずだ。


「ほら、クヨ。見えてきたぞ」


「うーん?あの木のお家の事?」


「そうだ」


「魔女の研究者が住んでるんでしょ??」


「はは……まあ、ご想像にお任せします」


「??」


 私はコジュスの顔を思い浮かべる。

 見た目は冴えない顔をしたただのおっさんだが、魔女はともかく研究者はクリアしているし、大丈夫だと信じたい。いや、全然大丈夫じゃないな!


 迷いの森の一本道を進むと、開けた広場が見えて来る。

 広場にポツンとある木造のお家。

 そのお家にコジュスは住んでいる。

 一本道と違い、この広場は、太陽の光が当たり、ポカポカしていて長閑な場所だとは思う。

 洗濯物らしきものが家の前に干してあり、桶も置いてある。


 私とクヨは、コジュスの家の前に立つ。

 煌びやかな木造の家だ。

 中々に良い場所である。老後は別荘としてのんびり過ごせそうだ。

 何て、馬鹿な事を考えつつ、私はコジュスの家の扉を軽くノックする。


「コジュス、いるか?ミズミだ」


 ……。

 返答が無い。

 これは困った。まさかいないのか?家に。


「コジュス!いるか?ミズミだ!返事してくれ!」


「ミズミはかせ……」


「うん?どうした?」


「ミズミはかせが探してる魔女の研究者さんはね、多分ここにはいないよ」


「いない……?」


 何故わかるんだ、と質問しようとしたが、止めておいた。


「うーん。クヨ、すっごく調子が良いから、もっともっと良くなるためには、ミズミはかせがクヨのことギュッてしてくれたら魔女の研究者さんの居場所もわかるかも!」


「おおっ。コジュスの居場所が分かるのか!なら早速……ちょっと待て、ギュってする、私がクヨに?」


「ダメなの?」


 クヨが悲しそうな目で私を見つめてくる。


「いや、絶対にダメって訳では無いんだがな、ただ、ちょっと私がやるのは……」


「じゃああくしゅっ!」


「握手なら……」


 私はクヨの手をしっかり握る。

 クヨの手はほんわりと温かった。


「えへへっ。ミズミはかせの手、あったかい」


「これで、良いのか?」


「うん、クヨ、すっごく良い!今なら世界征服だって出来そう!」


「そ、それは怖いな……」


「力があふれてくるよ!ミズミはかせ!魔女の研究者さんは……こっち!こっちにいるよ!!」


 クヨは私から手を離すと、ある方向へ駆け出す。

 私もクヨに続く。


 ***


「はぁ……はぁ……!」


 一体どこまで行くんだ……!

 かなりの距離を歩いたぞ……

「ミズミはかせ、あそこに!」


「えっ!?」



「むっ!そこにいるのは我が友人!ミズミじゃ無いか!」


 私が声のした方を見上げると、そこにいたのは、小太りの男性。私の求めていた友人、コジュスだった。

 コジュスは先に見える古びた祭殿の屋根に登り、私に手を振っていた。


「コジュス!どうしてそこにいるんだ!」


「ほら、下を見るんだ!可愛らしい獣が見えるだろ?」


「獣……?まさか……」


 祭殿の下から唸り声を上げてコジュスを見上げている三匹の魔獣がいた。


「クヨ、あれはさっきの魔獣とは違うのか?」


「うん、違うみたい。でもクヨに任せて!」


 クヨは魔獣達へそのまま突っ込み……!!


「”空白の世界”!」


「おい!それって……」


「ごめんね、ミズミはかせ」


 クヨが可愛らしく微笑む、と同時に……!


 ***


「空白の世界……か」


 真っ白な世界へまたやってきたのでした。

 全く……


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