第27話 魔族と森で

森の中を私とクヨは歩いていた。

 迷いの森は自然豊かな環境でありながらも、太陽の光を遮る木々のおかげで、若干薄暗くなっている。

 少し肌寒く感じるが、上着をしっかりと着てきた為、問題ない。


「クヨ、寒くないか?大丈夫か?」


「大丈夫だよミズミはかせ。クヨ全然へいき」


「そうか、なら良いんだが……」


 魔族の体温調節はどうなっているのだろうか?魔族の感覚が分からない。

 人間と同じ何だろうか?

 寒い、暑い、痛い、心地よい。

 感覚、クヨの感覚。


「この森クヨ、好き」


 クヨがポツリと呟く。


「そうか、なら良いんだが……」


 私は先程と全く同じ返事をする。

 意外だった。クヨはジメジメした場所はあまり好まないと勝手に思っていたが。


「……」


「……」


 先程まで嬉しそうにしていたクヨがやけに大人しい。迷いの森の中に入ってからだろうか。私は少し心配になる。


「クヨ、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。あのね、ミズミはかせ。この森、すごく心地よい」


「心地よい?迷いの森が?」


「うん、気持ち良くてね、ふわっとしてね。力がどんどん溢れてくるの。クヨ、すっごく良い!気持ち良い!」


「そ、そうか……ははっ。私はジメジメしていてあまり好きでは無いが……」


 迷いの森は陰湿な雰囲気で良い場所とはいえない。決して良い気分とは思えないのだが、やはりクヨの感性は私とは違うのだろうな。


 だが、クヨの言葉、またもや少し気になるな。力が溢れてくる?何故迷いの森で魔族であるクヨの力が溢れてくるんだ?


「力チカラ……?」


「?どうしたの?ミズミはかせ」


 魔族の力、つまり魔力か!

 クヨの魔力がどれ程のものか、ただの人間である私には理解出来ないが、魔王軍の幹部をやっていたぐらいだからな。世界を滅ぼせるぐらい容易いのでは無いだろうか。それはそれで、面白そうではあるがな。

 いや考えすぎか?


「大丈夫だよ、本当に大丈夫だ、クヨ。私は大丈夫だ」


「……?」


 自分で大丈夫と連呼する人間程信用出来ないものは無いが、この際仕方ない。

 にしても、やけに寒い。

 いや、これは寒いというより、気持ち悪いといった方が正しいのか?

 最初に森に入った時に、私はクヨに「大丈夫か?」と聞いた。

 クヨは「大丈夫だよ」と答えた。

 迷いの森に入ってから調子が良くなっている。とても良いとクヨは言っていた。

 対して、私は体調が悪くなっている。

 迷いの森には何度も来ているが、こんな経験は初めてだ。

 一体なぜ……?


 私は隣を歩く魔族の少女、クヨを見る。

 クヨと迷いの森を歩いている。

 私が、クヨを迷いの森に連れてきた。

 まさか、これが原因なのか?


 そういえば、以前コジュスに会った時にこんな事を彼は言っていたな。


 ***


「ねぇねぇ、そういえば、ミズミ君。面白い事が分かったんだ。聞きたい?」


「面白い事?君が言うからには相応に面白い事なんだろうが」


「期待に応えれるかはわからないが、答えるよ。迷いの森にはな、大きな秘密があるんだよねー」


「大きな秘密?」


「私もあまり知らなかったんだけどねー。この森には魔力の供給源となるエネルギーが張り巡らされているらしいんだよ」


「魔力のエネルギー?ますます意味がわからないな、何故そんな事が分かる?」


「そりゃ、私が色々な方法を試したからねー。この手と足と頭をフルに活動して研究したんだよー。いやぁ、それにしても、本当に良い場所見つけたなぁ。お国にも他人にも見つからず、安心して研究出来る。まさに理想の場所!楽園だよ!ただ、神様には見つかっちゃうけどね」


「神様?それは私の事か?」


「いやいや違う違う。あ、でも君の野望にはちょっと関連してるかも。僅かな差だけどね。そうそう、神様は神様だよ。この森にはね、魔獣がいるんだよ」


「魔獣?そんなのいたか?」


「今は大人しくしてるけど……多分ね、これは私の予想なんだけど……」


 ***


 すっかり忘れていた。

 そうか、膨大な魔力を持つクヨをここに連れきた。つまり、それは……


「ミズミはかせ!あれみて!」


「ん?何だ?クヨ」


 クヨが指差す先にいたのは……


 ーーーギュオオオオオ!!


「おお!魔獣か!まさか本当に潜んでいたとは!コジュスの言っていた事は正しかったんだなぁ!」


「ミズミはかせ、あいつ怒ってるよ。襲ってくるよ」


「怒っている?私は魔獣に危害を加えたつもりは無いが……」


「あいつはミズミはかせに怒っているんじゃなくて……」


 ?どういう意味だ?








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