第26話 魔族と森へ

 朝食を食べ終わり、食器等を片付けると、私とクヨは出かける準備をする。


「今日はとっても良い天気ですよ、お散歩日和ですね!」


 助手が嬉しそうに話す。

 散歩に行っている間、助手には研究所で留守番をしてもらう事になった。


「じゃあ、クヨ行こうか」


「うん!」


 お出掛け用にと、助手が可愛らしい白色のスカートをクヨに着せてあげる。

 リボンと併せて、容姿端麗なクヨにとでもよく似合っていると思ったが、クヨは特に何とも思っていなさそうだった。

 魔王軍幹部の魔族少女にはおしゃれとか他人から見た自分などは、全く気にならないのだろう。

 研究所ばかりにいては、クヨもストレスが溜まるだろうと思った。


「いってらっしゃいです」


「ああ、行ってくる」


「じゃあねーー!じょしゆー!」


 クヨが助手に元気に挨拶する。

 私とクヨは研究所の外に出る。



 ***


 暖かい日差しに照らされて、賑わう王都を歩きながら、私とクヨは迷いの森へ向かっていた。

 クヨは私との約束を意識してなのか、周りに興味津々なのは相変わらずだが、私の元から離れなかった。

 私は人混みがあまり好きではないので、早いこと王都を抜け出したかったが、迷いの森に行くには仕方がない。


 皆一生懸命汗水垂らして働いているなぁと思った。

 若い青年からお年寄りまで、生きる為に必死に働いている。

 ナグナ王国は治安も良く、料理も美味しく、衣食住が充実しており、衛生面も悪くない。住む分には最高に贅沢な王国といえるだろう。

 これも戦争時代からの反省、再起への意欲が国民の経済的発展活動を推進させているのだと、私は思っている。

 王族の連中はあまり好まないが、中々良い政治をしているとは思う。

 少なくとも、私に資金を提供してくれている時点で、王族に文句を言える立場では無いからだ。


「人がいっぱいだね!ミズミはかせ」


「そうだな。でも人を傷つけたりしちゃだめだぞ」


「わかってるよ!ミズミはかせ。クヨ、約束したもん」


 クヨは元気よく返事をしてくれる。

 クヨのいた時代とは事情が違うのだ。

 クヨが戸惑うのは仕方がない事、クヨによって起きた事は全て私の責任だ。

 何かが起こる前に私がしっかりと対処しなくてはいけない。


 その後もクヨとたわいも無い会話をしながら、歩いていく。

 王都の関所を抜けると、人通りも少なくなった。

 迷いの森までの道が関所から続いているが、ナグナ王国が迷いの森への立ち入りを禁止している為、この道を通る人はいない。

 私は王国に許可を貰っている為問題無い。

 迷いの森の環境調査だとか言ったら、王族側は快く了承してくれたからだ。

 なので、迷いの森の友人に気兼ねなく会いにいけるわけだ。

 魔獣が確認されたとナグナ王国は言っていたが、私が友人の家に行った時には、魔獣らしきものは見えなかった。

 だから、大丈夫だとは思うが……


「ミズミはかせー!どこにいくのーー?」


「ほら、あそこに森があるだろ?私の友人があの森の中に住んでるんだ。彼に会いにいくんだ」


「森の中?ミズミはかせの友達は魔女なの?」


「魔女?」


「うん。魔女はね、とっても強くて怖いけど、クヨは好きだよ」


「魔女……魔女が、魔王軍にいたのか?」


「うん!ミズミはかせの友達は魔女なの?」


「いや違うよ。彼は私と同じ研究者だ。森の中にある家で研究しているんだ」


「魔女の研究者!?凄い!」


「いや魔女じゃなくて……」


「どんな魔女かなぁ。クヨの知ってる魔女かなぁ……」


 まあ、魔女って事にしておくか。

 魔女に見えなくもなくないけど、子供の夢は壊さない方が良い。


 子供……なのか?私よりも歳上……。

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 魔女だろうが研究者だろうがな。


 やがて、私とクヨは迷いの森に到着する。


「ここに魔女がいるの?」


「ああ、この森を少し進むと、開けた場所がある。そこに木造の家があるんだが、彼はその家に住んでいるんだ」


「木の家に住む魔女の研究者、かっこいい!クヨ、楽しみ!」


「ははっ……そうか……」


 クヨに随分期待を持たせてしまっている。困ったなぁ……

 彼の姿を見たら、クヨはどう思うだろうか?


 迷いの森はナグナ王国から離れた場所にあり、森の奥には小さな村があるとか。自然豊かな森ではあるのだが、近頃は魔獣の生息が発見されたらしく、ナグナ王国が立ち入りを禁止した。

 そんななか、迷いの森にこっそりと住でいるのが、私のもう一人の友人、「コジュス」だった。

 コジュスはマッヒと同じく研究仲間である。コジュスも私と同じく歴史学が専門である事から、よく情報を交換し合ったり、一緒に過ごしたりしている。彼も私と同じくある秘密の研究を進めており、元はある王国に研究者として雇われていたらしいが、その研究には不都合だったらしく、王国を抜け出し、単独で研究する道を彼は選んだ。


 それで、見つかった場所が迷いの森だったというわけだ。

 人が近づかない自然豊かな森の中で彼は研究を続けていた。

 私もちょくちょく彼の研究所を訪ねた事があった。

 研究所というか、どうやって作ったのかは知らないが、その木造の家には地下室があり、彼はそこで研究をしているようだった。

 万が一誰かに見つかっても、地下なら、ばれないと考えたのだろう。


 私とクヨは迷いの森へと足を踏み入れた。























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