第25話 私のお目覚め

「………朝か。うん?」


 朝、ベッドの上で目覚めると横にいたのは……


「むにゃむにゃ……」


「……っ!?」


 私は驚きのあまり、ベッドから落ちてしまう。

 衝撃で軽く尻をぶつける。


「うーん……」


 ベッドにいたのは、ツノを生やした可愛らしい少女。

 このベッドは一人用何だが……


 いや、そんな事よりも何故クヨがここにいるんだ!?


「……」


 私は痛めた尻をさすりながら考える。

 思い出せ、私は確か例の歴史書をペラペラとめくって色々考えた後に、そのままベッドで寝たはずだ。

 何故クヨが?私のベッドで寝ている?

 うーん。考えても全く記憶が無い。

 困ったなぁ。


 くんくん。


「匂い……」


 何やら良い匂いが部屋の外からする。

 そうか、助手が研究所に泊まっていたんだっけな。朝食をつくってくれているのだろうか?

 私はクヨを起こさぬよう、ゆっくりと立ち上がり、部屋を出る。

 そして、音が出ないように、静かに扉を閉める。


「あら、おはようございます、ミズミ博士。うん?苦い顔をされてますが、何かあったのですか?」


 とびきり笑顔で迎えてくれる助手。

 何やら料理をつくってくれているようだ。良い匂いが鼻に入ってくる。


「いくつか食材を持ってきたので、せっかくです。朝ご飯つくっちゃいますね」


「ああ、ありがとう」


「それで……何かあったんですか?」


「2つほどな……えっと、どう話せば良いか……」


「え?何ですか何ですか?気になるなぁ……」


「そんな期待する程でも無いんだがなな。一つ目はベッドから落ちて尻を打った」


「あらら……ミズミ博士にしては可愛らしいミスですね」


 可愛らしいミスか……ははっ。……。


「もう一つは、私のベッドに何故かクヨがいた事だ」


「うーん。寝ぼけて間違えて入っちゃったんですかねーー」


「いやいや、私とクヨの部屋は距離があるんだぞ。まさか寝ぼけて来るなんて……」


「冗談ですよ、すいません。うーん。

 何でだろう……ミズミ博士が好きだから、吸い寄せられちゃったとか!」


「吸い寄せられたって……ジュースみたいだな」


「あっ!分かりました!」


「おっ?何だ?」


「きっと夜一人で寝るのが怖くなっちゃったんですよ!ほら、昨日ミズミ博士が怖い話するから……」


「別に私が怖い話をした訳では無いんだが……だが、確かにそうかも知れないな……泣いていたし……」


「研究も大切ですが、クヨちゃんも魔族とはいえ、女の子何ですからね!女の子は心が繊細で、傷つきやすいんです!」


 その割には、助手は、結構ガツガツしてるように見えるが……

 助手と比べたら、私の方が繊細なのでは?と思うほどに。

 何て助手に話したら、怒られてしまうので、言わないが。


「でも私よりミズミ博士の方が繊細な心をお持ちですよね?」


「先に言うか….…それを……」


「お!ミズミ博士も私と全く同じ事をいたんですね!気が合いますね!」


「君のそのポジティブ思考は本当に尊敬するよ」


「えへへっ。ありがとうございます」


 助手がクヨのように笑う。

 助手は本当に笑顔を絶やさない。あの経験が今も影響しているのかも知れないが、そんな助手の笑顔が絶えないように、私も尽力したつもりだが、最近は心配ばかりかけている。

 そこは反省しないといけないな。


「今日はどうするんですか?またクヨちゃんとお散歩?」


「ああ。ナグナ王国の外れに迷いの森という森があるのを知っているか?」


「はい、知ってます。ですが、あそこは立ち入り禁止なのでは?」


「あの森の中には、小さな家があってな。そこで、私の友人が研究をしているんだよ」


「迷いの森の中で研究……?しかも、ミズミ博士のご友人……凄いですね!マッヒとは別の人ですよね?」


「マッヒとは違うよ。彼はナグナ王国に秘密で研究をしているからね」


「へえ!秘密の研究ですか……ミズミ博士みたいですね」


「ははっ。確かに。彼が迷いの森に住み着いたのは最近だが、あの森は魔獣が出るとか言われていてね。ナグナ王国が立ち入りを禁じてるんだよ。密かに研究するには、絶好の場所だろ?折角だから、彼に色々聞いてみたいしね」


「でも、クヨちゃんは大丈夫何ですか?」


「しっかりと約束したから大丈夫だよ」



「約束……?」


「私はクヨと二つの約束をしたんだ。人を絶対に傷つけない。私はクヨを絶対に裏切らない。この二つだ」


「傷つけない、裏切らない……」


「クヨの過去を考えると、私とクヨの間にしっかりと信頼関係を築き上げる事は一番大切だと考えたんだ」


「やっぱり、クヨちゃんは魔王軍に……」


「分からない。真相はクヨしか知らないから」


「ですね……まあ、とにかく朝ご飯にしましょうか!もうすぐ出来るので!ミズミ博士、クヨちゃんを呼んできて貰えます?」


「あ、ああ。分かったよ」


 私は助手と別れて、クヨの元へ向かう。

 扉をゆっくりと開けると、すやすやと寝息が聞こえてくる。


「……」


 何度も思った事だが、これだけ見れば本当にただの可愛らしい少女なのだ。

 魔王軍でも、魔族でもない。(ツノや尻尾を除けば、だが……そんな事は大した問題では無い)

 何とも言えない気持ちが込み上げてくる。


「クヨ、クヨ」


「んーっ?」


 私が声をかけると、眠たそうにむにゃむにゃと反応してくれる。


「朝ご飯だぞ」


 私じゃなくて、助手がつくってくれたやつだが。


「ごはん?ごはんかぁ……」


「そうだ。私じゃなくて、助手がつくってくれたやつだから、凄く美味しいぞ」


「ミズミ博士がつくってくれたやつがいい」


 な、何て事を……!

 魔族の味覚はよく分からないな。

 だけど、私の料理も近所のおばさんから貰った残り物だし……


「とにかく、起きるんだ」


「はーい。うーん眠いよぉ……」


「そもそも、何でクヨが私のベッドにいるんだ?クヨにはクヨの部屋があって、クヨのベッドもあるだろ?」


「へぇ?」


「まあ、いいか。朝ご飯だよ」


「ごはん!ごはん!」


 無邪気なクヨを見ていたら、疑問も不安も消えていく気がした。


「ん?」


 私は何かに引っかかる。


 クヨは部屋を出て、走っていく。

 私だけが、部屋にポツンと残される。


『無邪気』……?


 ***


「相変わらず、料理が上手いなぁ……私なんて……」


 助手がつくってくれた料理を、私、クヨ、助手が座り、三人で食べる。


「今度ミズミ博士に教えますよ。私が来れない日も多いですし」


「そうだな。私も料理ぐらい出来ないと……」


「クヨ、今日は森へ散歩に行ってみないか?」


「森?」


「ああ、森だ。森に私の知り合いの人がいるんだ。私は彼に会いたい」


「ミズミはかせとならいきたい!」


「そうか、ありがとう」


 朝食を終えたら、出発だ。







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