第24話 私と歴史

 ……私はもう一度例の歴史書をペラペラとめくりながら、見ていた。

 魔王軍に関する記述……

 もっと詳しく知りたい。


 クヨに関する記述。ツノを生やした魔族の少女。衝撃波を放ち、相手を攻撃する。村一帯を灰にするほどの圧倒的な攻撃力。魔王軍幹部。

 そして、その最期は……


「勇者……」


 そう、最初にクヨと出会った時、「勇者」という言葉にクヨは大きく反応した。あの時はまだ知能が高く無かった為か、唸る程度で、衝撃波をぶっ放すぐらいだったが、今はどうだろう?

 自身の過去についての記憶を私に説明出来る程に知能が回復している。

 全盛期の彼女の能力に戻りつつあるという事だ。


 勇者、世界を救うもの。残業な悪である、魔王軍を滅ぼす者。人々の期待を背負う者。人々の希望の光となる者。正に正義の象徴である存在。


 対して彼女はどうか?

 人々から忌み嫌われる存在。恐怖の象徴。


 勇者と魔王軍。勇者とクヨは対極にある存在であり、滅ぼされて当然の存在なのかもしれない。

 クヨは何らかの理由で殺されている。

 勇者によるものなのか、クヨが言っていたように、魔王軍の仲間に殺されたのかは分からないが、クヨの最初の反応を見るに、勇者に対して強い恨みを持っている事は明らかだ。


 クヨが話していた魔王軍幹部サレア。

 邪悪なサキュパス。クヨの友達。

 だが、その末路は……


「うーん……」


 記述にはある勇敢な騎士によって、倒されたと書いてあるが……

 クヨは、フナーラマという者にサレアは倒されたと、話していた。

 魔王に命令されて、クヨは、友達のサレア(同じく魔王軍幹部)と共に、魔王軍の裏切り者である、フナーラマを始末しようとする。しかし、逆に返り討ちにされて、サレアは殺され、クヨは恐らくフナーラマを逃してしまった。

 魔王軍は、魔王の命令に失敗した者には、魔王軍における「地位と権利」を剥奪され、他の魔王軍の仲間からその権利を巡り、命を狙われる。

 そうして、さらに強い幹部が誕生し、上へ上へと強い者が進んで行くのだろう。

 そうして強い魔王軍が誕生して行く。

 圧倒的力を持つ魔王と、忠実な十二人の幹部たち。

 こうして魔王軍は世界を支配していった。


 だが、権力という物は必ず崩れ行く運命にある。世界の英雄、勇者よって、魔王は倒され、魔王軍は滅びた。

 そして、私が生きている現在の(多少犯罪や争いはあれど)比較的平和な世界が誕生したという訳だ。

 普通死んだ者の魂は成仏すると聞いているが、魔王軍に所属していた者の魂、特に魔王や幹部らの魂は、永遠の罰、永遠の罪、永遠の苦しみとして、天界に現在も閉じ込められている。

 魂が閉じ込められるというのも、おかしい話なのかも知れないが。


 私はある人物からこの情報を入手し、クヨの魂を天界から呼び戻し、クヨを復活させた。

 これは生命の禁忌に触れる行為だ。人類を意義を大きく揺がす行為だと自覚している。


 ***


 数年前の事だ。私はある人物とある場所で会っていた。


「ありがとう、コジュス。まさかこんな事があり得るとはな……」


「君の技量なら僕は可能だと考えている。ただ、教会だけでなく、人類、更には天界の神々の禁忌に触れる行為だと理解してくれ。いずれ、神からの天罰が下るだろう。勿論、僕にも……」


「わかっているよ。ただ、私は自分の利息の実現の為に、私は研究を続ける。君の協力には本当に感謝するよ」


「人類が滅ぶ事になっても、僕には結果は教えないでくれよ。人類を滅ぼす大罪人にはなりたくないからね」


「ははっ。分かってるよ」


 以降、私は研究を続けた。


 ***


「魔王軍、魔王、勇者、クヨ、サレア、フナーラマ……」


 考えても分からない。

 結局、歴史は過去のモノで、その時代に生きた人々しか真実を知る者はいない。

 歴史書に書かれている事が真実とは限らない。

 私に出来る事は限られている。

 しかし、私はクヨを蘇らせる事に成功した。

 それは、誇るべき事だ。


 私は歴史書をパタンと閉じる。


「ふわぁぁぁ……はぁ……」


 つい、あくびが出る。もう夜も遅い。私も眠くなってきた。



「さて……寝るか」


 私はゆっくりと立ち上がり、研究部屋から出ると、寝室へ向かう……が。


「そうだ、風呂に入って無かった」


 魔族と助手、女性二人と接しているのだ。

 清潔には気をつけないと。


 私は風呂に入り、さっぱりしてから寝る事にした。









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