第23話 魔族の失墜2
「まおうさまがクヨにくれた『権利』はね、まおう軍がせいふくした土地のしはいと、手下を引き連れて行動出来る権利だよ」
「手下を引き連れる……それはクヨが自分の軍を持つってことか。」
「クヨ『かんぶ』だもん。だけどね、『権利』を失うってことは、手下も支配していた土地も無くなっちゃう。手下たちからの信頼も無くなっちゃう。ミズミはかせ、まおいさまやまおう軍の中で信頼を失ったらどうなると思う?」
「信頼を失ったら……組織を追放されるとか?」
「手下たちはクヨを殺そうとするよ。他のかんぶたちも。まおうぐんのみんながクヨの事を殺そうとする。クヨを殺せば、まおうさまからもって高い地位をもらえるから」
クヨは今まで以上に饒舌に話してくれる。何か思う所があるのだろうが、つまり、魔王の命令に失敗した者は、地位や権利を剥奪され、魔王の信頼を失うだけで無く、他の魔王軍の仲間からも狙われるという事か。
つまり、クヨを殺せば、自身がクヨの地位につける。
歴史書に書いてあった12人の魔王軍幹部、その一つ、クヨの座が空白になっているというわけだ。
「それで……どうなったんだ?」
「………クヨは………頑張って……ううっ……」
「クヨ……」
「クヨちゃん……?」
クヨの目からはポツポツと小さな涙がこぼれ落ちていた。
「す、すまない。私も深く聞き過ぎたよ。やはり、過去はつらいものだよな……」
「うんん。大丈夫。でも、今日はもうねてもいい?」
涙を両手で拭いながら、クヨは悲しげに言う。
「ああ、すまなかった。私も配慮が足りなかったよ」
「えへへっ。クヨつかれちゃった。ちょっとねるね」
そう言うと、クヨはちょこちょこと歩き、部屋へと入って行く。
「地位と権利を剥奪されて、魔王軍から命を狙われる存在となったクヨが、その後どうなったのか、肝心なところが聞けなかったな」
「そんな事言ってる場合ですか、ミズミ博士!クヨちゃん泣いちゃったじゃ無いですか!」
助手が怒った様子で詰め寄ってくる。
「いや、す、すまない……私もちょっと白熱してしまったようだ……」
「ミズミ博士、よく聞いてください」
「あ、あぁ……」
急に助手が真剣な表情で話すので、私は少し、たじろいでしまう。
「ミズミ博士は長年の研究の末、ようやくクヨちゃんという……その、過去の存在を、復活させる事に成功したのです!私はミズミ博士の苦心も、努力も知っています」
「……」
「だからこそ、安易な間違いで、クヨちゃんの機嫌を損ねて、全てを無駄にするような失敗をするのでは無いかと、ずっと私思っていて……」
「……ありがとう、君の心遣いには本当に感謝しているよ。私には自分の本心を話せる人はいないからね」
「嘘ばっかり!ミズミ博士が私に本心を話すなんてそんな安易な事するはずがありません!」
助手が、ぷくーとした顔で言う。
「ははっ。すまないすまない。心配には感謝するが、大丈夫だ。私はそんな失敗はしないよ。絶対に。信じてくれ」
「でも、クヨちゃんは……」
「前にも言ったが、私がクヨと接する事の本質は、あくまで研究の為だ。彼女の心理がどんなものであれ、私は自分の探究心を優先させるよ。勿論、世界が滅びない範囲だけどね」
私が笑いながら言うと、助手は少し呆れた表情をしつつも、笑っていた。
「全く……でも、ミズミ博士。それこそがあなたですよ。そんなあなたが好きで、私はここにいるんですから」
「ありがとう。だが、クヨがここまで過去の事を話してくれたのは意外だった。自身が受けた処遇については分からないが、何とか機嫌を損ねる事無く、探れればよいが……」
「私も協力しますよ!ミズミ博士」
「ああ、頼むよ。わたし一人では暴走しかねない」
「暴走するミズミ博士に、私が歯止めをかけますね!」
「ははっ。ありがとう。そうだ、今日はもう遅い。部屋は空いている。泊まっていったら、どうだ?」
「はい、そうさせて貰います。ナグナ王国の夜は物騒ですからね……」
「全くだ」
「ミズミ博士はもうお休みに?」
「いや、クヨの発言で引っかかる事があってな、もう少ししたらねるよ」
「分かりました。お体に気をつけて、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
***
私は自分の研究室で例の歴史書をペラペラと見る。
私たちが向かうべき先は決まっている。
そもそも何故クヨを蘇らせたのか、私は忘れかけていた。
私は、私の為に、私のやりたい事、知りたい事の為に動く。
それが私という人間なのだから。
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