第21話 魔族のお話

「クヨ、今なんて….…?」


 クヨはきょとんと不思議そうな顔をしている。

 クヨは確かに「魔王様」と言った。

 過去に自身が所属していた組織のボスの名をようやく思い出したのか?

 いや、既に思い出していて、現在まで黙っていたとか……?


「魔王様って言ったよな?クヨ」


「え?うん」


「それに、虐められたって……」


「うん。まおうさまはクヨのこときらいだって。でも、どうして?どうしてミズミはかせがそんな事聞くの?」


「いや、ちょっと気になっただけだよ。クヨはその……以前の記憶を覚えていたんだな」


「以前のきおく?」


 クヨはそう答える。だが、クヨ自身は恐らく理解している。

 まだ、分からないが、私は最初はクヨは私に過去の事に触れられたくないと、ずっと思っていたのだが、むしろその逆だったのでは無いかと、最近は考えていた。

 その理由はーーー


「私に目覚めさせられる前の事だ。クヨは、『魔王様』に仕えていたんだよな?」


「うん」


 クヨは勿論あっさりと肯定する。


「それで、クヨは『魔王軍』にいたんだよな?」


「ミズミ博士……!」


 助手が心配そうにこちらをみて、呟くが、これは本当にチャンスなんだ。

 私の中で走り出した好奇心はもう止まらない。

 そうだ、何を家族だなんて、寝ぼけた事を言っていたんだ。

 私が本当にやりたかった事は、クヨや助手との家族ごっこじゃ無い。

 私は馬鹿な事を考えていた。

 私は私の目的の為に頑張って来たのだから。その結果、魔王軍の幹部とこうして対面出来た。一緒に暮らせた。

 充分偉大な事を成し遂げたのだ。

 だが、欲は治らない。まだ先へ、もっと先へと欲は増幅し続ける。


「いたよ」


「魔王様に虐められたってどんな事をされたんだ?」


「うーん。クヨ、もう眠たくなっちゃった……ミズミはかせ、ねていい?」


「……そうか。なら、仕方ないな。だけど、魔王にどんな事をされたかは教えて欲しいな」


「ミズミはかせは、魔王様が好きなの?」


「歴史は好きだが、魔王には興味があるだけだ。本当にそんな時代があったのか、現在の歴史文書と矛盾する所もあったけど、クヨの言葉で確信に変わったよ」


 私は続ける。


「それで、私が聞きたいのは、クヨが魔王に虐められた事と、その……サレアと一緒にフローリアを殺す事が関係しているのか?」


「うーん。はなすと、凄く長くなるけどいい?」


「クヨは大丈夫なのか?眠たいって言っていたが……」


「ミズミはかせが聞きたいなら、クヨ話すよ!」


 可愛らしい笑顔でクヨが言う。


「そうか、ありがとう」


「うーん。クヨはね、まおうさまからはずっと信頼されてたんだよ!サレアと一緒に一生懸命がんばったから!」


 クヨの頑張ったが果たして、人類に対してどれだけの影響を与えたのか……


「だけどね、フローリアのじけんで、ぜんぶかわっちゃった。サレアだってね。切り刻まれちゃったけど、ほんとは……!」


 クヨがこうして過去の事を話すのは初めてだ。

 助手も静かにクヨの話を聞いている。

 私もそうだ。


 そして、元魔王軍の魔族の少女ーーークヨは語り出す。


 自身の過去についてーーー

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