第19話 魔族と友達1

クヨと助手の二人がお風呂からようやく出てきた。


「おや、随分長かったね」


「クヨちゃんがミズミ博士と一緒にお風呂に入りたいって……」


「うんっ!クヨ、ミズミはかせと入りたい!」


「ははっ……そうか」


 このような時にどう反応すれば良いのか、私には分からなかったので、曖昧な返答で終えてしまう。


「そうそう、クヨちゃんにプレゼントしたい物があったんです。プレゼントというか、本当は貰い物なんですけど、私には似合わないから……クヨちゃんなら似合うかなって」


「おお、可愛いリボンじゃないか」


 それは可愛らしい赤色のリボンだった。クヨの艶のある黒髪に強い色調の赤リボン。うん、よく似合いそうだ。


「ほら、クヨちゃんこれ……うん?クヨちゃん?」


 助手が赤リボンをクヨに渡そうとするのだが、クヨはじっと赤リボンを見つめたまま動かない。

 じっと、じっと。虚無を見つめるかのように、何も言わずに。


「クヨ、どうかしたのか?」


 嫌な予感がした。何となく、何となくだったが、確かな気づきだった。


「……ミズミはかせ。これ、何?」


「これはリボンというものだ。髪の毛につけるやつだよ」


「これ、サレアのやつ!サレアが持ってたやつ!サレアが!どうしてじょしゅが持ってるの?何で?」


「おい、貸してくれ」


「は、はい……」


「少し、下がっていてくれないか」


「……分かりました」


 私は助手から赤リボンを受け取ると、クヨにリボンを見せる。


「このリボンは……その……サレアのモノなのか?」


「そうだよ。サレアはね、うんと……クヨのたった一人の友だちなの」


「友だち……いつの友だちだ?」


「ミズミはかせが起こしてくれる前だよ。でも、サレアはね。真っ二つになってしんじゃったの!」


「死んだ……?誰にやられたんだ?」


「ゆうしゃだよ。クヨみてたもん。サレアといつも一緒にいたもん。でもね、今もサレアとは一緒だよ。サレアは会いに来てくれたよ!クヨ、嬉しい!」


 可愛らしい笑顔でクヨが笑う。


「このリボンが……サレアだって言うのか?」


「クヨが知ってるひとで、それつけてるのサレアしか知らない」


「そうか……なら、これはお前が持つべきだろう。助手くん、ちょっとクヨに付けてあげてくれないか?」


「は、はい!分かりました」


 私はこのサレアという何に聞き覚えがあった。

 かつて人々を恐怖の底へ陥れた最凶の悪夢、「魔王軍」。

 魔王を筆頭とし、魔王に忠誠を誓う幹部たちが魔物を纏め上げて、各地で活動をしていたらしい。

 私が読んでいた歴史書には、その幹部らの名がしっかり刻まれていた。

 クヨと言う名は、当時彼女自身が自分の事をクヨと呼んだと、歴史書には記されている。


 魔王軍幹部、サレア。

 サキュパスの王でもあった彼女は、その力で人々を魅了し、自身の傀儡として、操っていたという。

 彼女のトレードマークと言えるのが、そう、リボンだった。

 助手がそこまで考えていたとは思えないが、これはかなり良いチャンスだ。

 歴史書には、サレアが身につけていたリボンの「色」までは記されていない。

 クヨがこの赤リボンをみて、サレアだと認識したのは、クヨが過去の事をやはり記憶していた。サレアが身につけていたリボンは、やはり赤色だった。それらが分かりそうだった。

 だが、まず先に……



「どうしてじょしゅがサレアのやつを持ってるの?」


「それはサレアのやつじゃ無いんだ、クヨ。今、この世界では一般的に使われている『リボン』というものだ。こうやって、身につけるものなんだよ」


 クヨは助手が付けてくれたリボンを、不思議そうに触っている。


「わあ!可愛い。クヨちゃん、よく似合ってるよ!」


「リボン……なんでこれをつけるの?」


「えっと、それはだな……おしゃれってやつじゃ無いのかな?」


「おしゃれ……可愛くするってこと?」


「そう、それだよ」


「ミズミはかせ、クヨ可愛くなった?」


「ああ、可愛いよ」


「えへへっ。クヨ、嬉しい」


 やはり、クヨは自分の事を褒められるとかなり喜ぶ。

 だが、それよりも私は……気になることがあった。

 クヨに聞く必要があるな。




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