第18話 魔族とお風呂

「ふんふんふふーん♪」


 クヨが楽しそうに鼻歌を歌っている。

 夕食を食べた後、折角なので、助手はクヨと一緒にお風呂に入ることにした。助手が髪の毛を洗ってあげようとすると、初めは自分の体を他人に触られるのが嫌いなのか、嫌がっているように感じたが、今は機嫌が良くなってくれたようだ。


「クヨちゃんのお肌はスベスベでいいねーー。羨ましいなぁ」


「スベスベ?」


 ミズミ博士は、クヨの具体的な年齢を教えてくれなかったけど、この若々しい姿が、本来のクヨの姿なのかな?

 だとしたら、この可愛さを永久的に保てる……羨ましいなぁ。


 クヨにちょこんと生えている日本のツノ、後尻尾か。これがなければ、本当に普通の可愛らしい女の子なんだけどなぁ。助手はクヨの髪の毛にもう一度軽く触れてみる。

 ゆっくりと手を髪の毛の中で動かすと、柔らかな感情が伝わって来る。

 本当に心地よい触り心地。

 気持ち良い……


「じょしゅーー!まだーー?」


「あ、ごめんごめん。直ぐ洗っちゃうね」


 助手はクヨの髪の毛を洗いながら、クヨと話す。


「クヨちゃんはミズミ博士の事好き?」


「好き!大好き!」


 クヨは嬉しそうに即答する。


「ミズミはかせはクヨを助けてくれたもん!」


「そっか。そうだよね……クヨちゃんずっと寝てたんだもんね……」


 人々を恐怖に陥れた魔王軍の少女だとはとてもでは無いが、思えなかった。

 ミズミ博士はクヨに記憶が戻った時、いや、実際もう戻り始めているのたが、その時この純粋なクヨが受け入れる事が出来るのかを心配していた。

 助手も正直分からない。こんな純粋で可愛らしい少女がそんな事をするとは思えないけど……


 クヨの頭をお湯で洗い流すと、助手はクヨと一緒に湯船に入る。


「あぁ……きもちいい!クヨ、これ好き!」


 クヨはお風呂がお気に入りのようだ。

 ようやく落ち着いてお風呂に入れた。研究会も終わったし、助手も一息つけた。


「ねぇねぇ、じょしゅー」


「クヨちゃん、どうしたの?」


「ミズミはかせは入らないの?おふろ」


「うーん。ミズミ博士は後で一人で入るって言ってたからなぁ……一緒に入りたいの?」


「うん!クヨ、ミズミはかせと一緒に入りたい!」


「困ったなぁ……ミズミ博士、入ってくれるかなぁ……」


 博士はマッヒと違ってそんな事考えないとは思うけど……


「ねぇねぇじょしゅー」


 クヨが再び声を掛けてくる。


「クヨちゃんどうしたの?」


「じょしゅはなんでミズミはかせと一緒にいるの?」


「うーん。私はミズミ博士のお仕事のお手伝いをしているの」


「ミズミはかせのおしごと?お料理?」


「あはは…そうじゃなくて、ミズミはかせはこの国の為に、色々な事を一生懸命お勉強したり、研究したりしてるんだよ」


「国のため……くに……」


 この時、何となくだが、クヨの様子が少し変わった気がした。

 変な事言っちゃったかなと思いつつも、あまり気にはしなかったが。


「ミズミはかせは何でクヨを助けてくれたの?クヨの事が好きだから?」


「えっと……うん。そうそう、ミズミ博士はクヨちゃんの事が大好きだから、助けてあけだんだよ」


「ほんとに?」


「…え?」


「そっか。ミズミはかせはクヨの事が大好きなんだ。ふんふんふーん♪」


「……」


 クヨはまた鼻歌を歌っている。

 この子に不用意に情報を与えない方が良いかもしれない。助手はそう思った。やっぱりこの子は……


「クヨちゃん、そろそろ出ようか」


「……やだ!ミズミはかせがくるまでまつ!」


「うーん。困ったなぁ……そうだ!クヨちゃんに良いものあげる!」


「……いいもの?」


「そう、だから一緒に出よ?ね?」


「……分かった」


 クヨはようやくお風呂から出てくれる。

 何とか説得できたようだ。


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