第16話 私と助手1
平穏な日々に飽き飽きしていた。
何かしらの変化を求めていた。
つまらない日常を破壊したい!綺麗事を抜かしている馬鹿な研究者共や、自分の保身しか考えていない、愚かな王族どもを私は軽蔑していた。
自分が最高に利口とは思ってはいないが、能天気に生活を続けるこの王国の国民も、私は大嫌いだった。
みんな死ねばいいのにとさえ思った。
私の母親も父親も、王族から信頼されている優秀な研究者だったのだが、私は勿論その優秀な遺伝子を継ぐ者として、期待されていたし、その期待以上のモノを私は作り上げた。
だが、私は母親や父親、その他の研究者とは根本的な考え方が違っていたのだ。この研究は、人類の役に立つ、人々を助けると謳われたその研究を、私はやり続けた。
「人類の為の研究」なのだから、優秀な結果を残す事ができれば、それだけの「富」と「名誉」が手に入る。
勿論研究者としては、生涯かけての名誉な事なのだろう。
私は違った。ナグナ王国?人類?本当にどうでもよい、無関心。私は、私の欲求を満たせる為だけの研究をしたかった。その為に必要な事が、「人類の為の研究」「ナグナ王国の為の研究」ならば、私は喜んで研究しよう。
だが、あくまで二の次で、本命の研究に私は力を注いでいた。
ようやく自分だけの研究所を持てた。自分専用の優秀な助手も手に入れた。
その結果として、「クヨ」を蘇らせる事に成功した。
魔王軍の魔族の少女を現世に蘇らせたた。
それだけが、私にとっての「本当の生きがい」だった。
助手と私の利害は一致していた。
彼女はとても優秀だが、あまりよい境遇にいたとは言えなかった。
私の数少ない友人の研究者に、マッヒという男がいた。
助手は彼のもとで長年働いていた。
若い頃からマッヒと親睦があった私は、よく彼の研究室に足を踏み入れる機会があった。
その為、マッヒの助手であった彼女ともよく会っていた。
***
「あら、ミズミ博士。お久しぶりです」
「うむ、マッヒはどこへ?」
「マッヒ博士なら、先程外出されました。ロットナーマ王国の研究会に出席されるそうです」
「ロットナーマか。君は行かなくて良いのか?」
「最近、マッヒ博士は私以外にももう一人助手を雇ったんです。彼女の方が私より遥かに優秀ですから」
「そうか……」
私は助手が出してくれたコーヒーを啜りながら、助手の話を聞く。
本当に軽い気持ちだった。マッヒと助手との関係性には余り興味が無かったが、女慣れしていない私は、妙に緊張してしまい、ある話題を出した。
「普段のマッヒはどうだ?彼は抜けている部分もあるが、本当に優秀な研究者なんだ。結構大変だろうな」
軽い気持ちだったんだ。悪意なんてない。
その筈だったのに、彼女は急に泣き出したんだ。
彼女は静かに口を開いた。
そして私に語った。
マッヒの隠された本性を。
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