第15話 魔族と団欒

 平穏な日常に飽き飽きしていた私は、何かをずっと求めていた。

 私は生まれつき才能があった。

 学会では沢山の賞を取り、王族からも認められるまさに天才的な研究者だった。初めのうちは、国を良くしたいとか、人々を助けたいといった、綺麗事を私はよく話していたらしいが、私が変わったのはやはり助手と出会ってからの話だった。助手と出会ってからだろうか、私が変わったのは。

 いや、私はずっと変わってないどいない。最初から、あの時からずっと私は私のままだったのだ。

 私の中にあったモノはすくすくと育ち、徐々に大きくなっていった。

 私が本当にやりたい事は人々の役に立ちたいとかじゃない、自分自身の欲望を満たせるほどの非現実を作り出す事だった。


 ***


「もうこんな時間か。夕飯を作らないとな」


 研究会が終わった時はまだ日は昇っていた。一体どうしたのだろうかな?

 まあ、良い。今は夕飯の方が大切だ。

 助手を呼ぶ訳にもいかないし、私が作らないといけなかった。


「クヨ、何か食べたいモノあるか?」


「うーんとね、じんにく!」


「……聞かなかった事にしよう。助手に買ってきてもらった食材が残っていた筈……」


「ミズミはかせ、どしたの?」


 クヨがきょとんとした顔で聞いてくるが、時間が経つにつれ、魔王軍時代の記憶が徐々に蘇りつつあるのは、やはり間違いないようだ。


「何でもない。とりあえず、ご飯作るかな」


「クヨも手伝う!」


「おお!クヨも手伝ってくれるか!そうだなぁ。包丁とかは危ないから他の事やって貰うかな」


「うん!クヨなんでもやるよ!いっぱい切り刻むよ!」


「切り刻むか……あはは」


 そんなこんなで私は(クヨに手伝ってもらいつつも)残り物の材料で文字通り残り物の夕食をつくる事に成功した。


「うわぁ!おいしそう!」


 クヨが嬉しそうにいうが、私はあまり料理が得意ではないので、見た目で言うのならば、最の悪なのだが、まあ、腹に入れば皆同じ!

 大丈夫だと信じよう。


 私は料理をテーブルに運び、クヨと一緒に席に座り食べることにする。


「おいしい!ミズミはかせ、これおいしいよ!」


「そうか、それは良かった。うぷ、これは……あはは」


 思った通りの味は出なかったが、これはこれで、私はともかく、クヨは満足してくれたようだし。


「ミズミ博士ーー!」


 すると、突然玄関の方から声が聞こえて来た。


「わーい!じょしゅだー!」


 クヨが一目散に玄関へ走っていく。凄いな、もう助手を声だけで識別出来るのか。


「こんばんは、ミズミ博士。ちょうど夕食の時間かなってご飯作って来ましたよ」


 クヨに抱きつかれた状態で、助手がこちらにやってくる。手には袋を持っている。


「ありがとう、ずいぶんクヨに懐かれているな」


「あはは、うん?何か変な匂いが」


「いや、大丈夫だ。安心したまえ」


「そうですか?あら、もう夕食食べちゃったんですか。少し遅かったですね」


「ちょうどよかった。少し足りないと思ってたんだ。一緒に食べようじゃないか」


「そうですね。じゃあ、クヨちゃんも食べようか」


「うん!」


 クヨが元気に返事をする。完全に助手を信頼しきっているようだ。


 私とクヨと助手の三人がテーブルにつき、助手の作ってくれたご飯をたべる。

 助手は私がつくった残り物料理を見て若干苦笑い。


 何にせよ、ナグナ王国への発表会も終えたし、一応は色々ひと段落した。

 クヨも落ち着いたようだし。


 私たちはまるで本当の家族のように、一緒に過ごした。

 私が父で、助手が母、クヨが娘。はは、何だか笑えてくる。

 でも、こんな日々も良いモノだと私は確かに思っていた。

 クヨがどう思っているかは分からないが、私は思想関係なしに、今の生活に満足していた。




 そんな生活が永遠に続くかのように、思えた。

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