第14話 魔族の目的




うっすらとした意識の中、私は目覚める。

 ここは、一体……

 一体何が起こったんだ……?

 私は辺りをゆっくりと見渡す。


「……っ!?何だこれは……!?」


 猛烈な熱気が私を襲う。

 熱い、熱すぎる!ここは、一体……?

 熱気を浴びた後、私は周りの建物が炎に包まれている事に気づく。

 建物がどんどん崩れていく。

 ここは、まずい……!


 私はその場を離れて、安全な場所を探す。


「はぁ……はぁ……そもそもここは一体どこなんだ……?なぜ建物が燃えているんだ!?何故私がここに……!」


 疑問は尽きないが、このままでは確実に私は死ぬ!

 生き残らなくては!死の沼地から脱出しなくては!

 私は走った。生きる為に、走って走って走り続けた。

 だが、景色が変わる事は無い。燃え続ける家屋と、猛烈な熱気のみが、私を包んでいた。

 訳の分からない疑問を封じ込め、ただただ生きる為に私は動いた。


「ははっ……私、こんなに走れるんだな……驚いたよ」


 普段研究所に引きこもっている私はかなりの運動不足だった。勿論、自分でも理解はしていた。助手から何度も運動しろ、外に出て体を動かせるとさ言われていたが、体を動かすのが苦手な私は拒み続けていた。

 そんな私だが、今はこうして走る事が出来ている。

 命の危機を感じれば、私のような人間でも、ここまで力を出せるんだなぁと変な気づきを得ながら、走り続ける。


「はぁ……はぁ……一体どこまで……」


 ふと、私はある事に気がつく。

 この場所……どこかで……!?


「ははっ……まさか……な……」


 何かに導かれるように、引き寄せられるように、吸い寄せらるように、私は”その場所”へ辿り着いていた。

 炎から逃れようとした訳でも、死にたくないから逃げた訳でも無い。

 無意識に私は”その場所”へ辿り着いたのだ。


 “その場所”とはーーー。


「これは……クヨが、やった事なのか?」


 辿り着いた場所は、私にとって馴染み深い場所、そう。


『私の研究所』だった。



 ***


「…………」


 不思議な事に、周りの建物は、炎に包まれているのにも関わらず、私の研究所には一切炎の存在が無かった。

 私は扉を開け、研究所へと足を踏み入れる。

 本当なら、直ぐに安全な場所へ退避した方が良かったのかもしれない。

 だが、私はいつだってそうだ。

 “命の安全”より、”好奇心”を優先してしまう。それが私の性なのだから。


 研究所の中はいたって普通だった。

 特に何かが壊れている訳でも無い、燃えている訳でも無い。

 私は研究所の中を歩いて回る。

 炎の音が外から聞こえてくるが、今はそれどころでは無い。

 何か、何か手がかりは無いのか?

 一体何が起こったのか……!?

 私の研究所がある以上、ここはナグナ王国で間違いないだろう。

 だとすれば……


「…………」


 やはり、何かがおかしい。

 これだけ周りの建物が燃えているのに、どうして、私の研究所だけが無事なのか?何かに守られているのか?




 その時だった。

 私は研究所の中で、”それ”を見つけてしまった。

 “それ”を見た瞬間、私は膝から崩れ落ちてしまう。

 その時感じたものは、恐怖?絶望?唖然?言葉ではとても言い表す事が出来ない。


「あっ……ああっ……」


 言葉が、出てこない。

 言葉が、言葉が……!!



「ああああああああああああっ!!!!」


 堰き止められていた水が溢れたからのように、私は叫んだ。

 この叫びが、私の今の感情を的確に表していた。


 一体何が……!?

 一体誰が……!?

 何故こんな事に……!?


 私は一人の少女の姿を頭に思い浮かべる。

 ツノと尻尾を生やした少女。

 私が蘇らせた少女。

 魔王軍の幹部の少女。


「クヨは、どこに……!?」


 私は”それ”をしっかりと目に焼き付け、そして……




「すまない……許してくれ……」


 私は研究所から急いで出る。

 そこで、最初に目に入ったものが……



「何なんだ、あれは……」


 真っ赤な炎に包まれた街の空も真っ赤に染まっていた。空全体が、雲に血を染み込ませたような赤に染まっている。

 その景色を一言で表すのならば、地獄、世界の終わり、終末?

 それ程までに圧巻される光景だった。

 渦を巻くように流れゆく炎と滅び始めた街々、そこにポツンと立ち尽くす私。


 そして、上空に存在する”それ”を見て、私は初めてこう思った。



 私が見たかった景色は、これなのか……? と。



「うっ……!くそっ……!」


 急に頭痛が……!私はその場に倒れ込んでしまう。その際、頭を打ちつけたのか、頭痛にさらに痛みが加味される。

 そこで、私の意識は途切れた。


 ***


「ミズミはかせ!ミズミはかせ!」


「うん……?ここは……??」


 目覚めて最初に飛び込んできたのは、可愛らしい魔族の少女だった。

 ツノと尻尾を生やした少女。

 私が蘇らせた少女。

 魔王軍の幹部の少女。

 クヨだった。

 クヨは心配そうに私を見ている。


「良かったぁ。ミズミはかせ、急に倒れちゃって……クヨ、心配だったんだよ……」


 急に倒れた……?助手と別れた後は、そのまま研究所に帰ってきて、扉の前で……。

 うむ、記憶がかなり曖昧だ。まずいな。クヨに心配をかけてしまったようだ。


「ありがとう、クヨ。私は大丈夫だ。それより、こんな時間だ。お腹がすいただろう。夜ご飯にしようか」


「うんっ!」


 倒れている間、ずっとクヨが見ていてくれたのか……。疲れていたのだろうか。

 だが、寝ている間、私は背筋が凍るほど恐ろしい”何か”を見た気がするのだが、残念ながら、はっきりと思い出す事は出来なかった。









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